--華為は近年、世界市場で極めて活発な事業投資を続けており、本誌でもたびたび紹介している。華為が中国市場でそこまで成功できた原因はどこにあると思うか。また、日本企業との差はどこにあると思うか。

私は、NEC時代、現地企業(華為)、米国企業(IBM)、自社(NEC)の中国市場戦略を比較研究したことがある(表1)。その結果、華為が中国市場を5つのセグメントに分けて、セグメントごとにまったく異なる浸透戦略を採っていたことがわかった。一方NECは、たった一つの市場での戦い方しか知らず、まったく異なる戦闘フィールドでも、同じ「戦法」を適用しようとしていた。

一方、私自身7年間在籍したIBMだが、IBMの経営理念の核心には「経営ローカライゼーションの重視」がある。中国市場を見なくとも、むしろIBM日本が典型的な成功例だ。

IBM天津では、米国本土から高位スタッフを送り込む際、

  1. 現地では手当てできないほどの人材
  2. 流暢な中国語を使うことができ
  3. すくなくとも5年以上現地に根を下す覚悟がある人物でなければならない
との内規があった。

表1 - 曲玲年氏による3企業の分析

情報収集・意思決定主体 中国での標的市場 結果
華為 現地人 ハイエンド~ローエンド 成功
IBM 現地人+米国人 ハイエンド 成功
NEC 日本人 ハイエンド 不成功

IBMの強みは、米国本土の華人人材資源(Chinese American Human Talent Resources)を十二分に活用できる点だった。流暢な中国語能力、長期間にわたり大陸に根を下すことができること、という二点をクリアできる米国人をみつけるとなれば大変なことだ。しかし、この点でも、実は日本IBMという成功事例が日本人の身近にある。

次に、NECである。

NECに代表される多くの日本企業では、中国のビジネス情報を集めるのも日本人、情報の分析がおこなわれるのは東京、しかもまったく現地人抜きという状況下で、しばしば中国での事業計画が練られ、戦略が決定される。社会体制、文化、人々の価値観、収入構造等がおよそ異なる中国での事業戦略を遠く東京で、それも中国への理解が十分とは言い切れない日本人のみで下されればどのような結果になるであろうか。

携帯電話端末事業での失敗が顕著な例である。トヨタがかつて犯した失敗を、NECをはじめとする日本の各メーカーがなぞってしまった。本来、世界の企業オリンピックが繰り広げられている中国市場にこそ、販売価格はどうあれ最新鋭機種をスピーディに投入し、揺るがぬブランドイメージを固めるべきであった。ところが実際には、携帯電話端末が、実は中国にあっては収入や地位をひけらかすためのファッションの一部であるという事情をまるで知らぬまま、技術、概観、操作性ともに一時代も二時代も遅れた機種を逐次投入、最終的には市場ポジションを全て失ってしまった。

私は、刺激的な言い方だとは思うが、NECを始めとする日本の各メーカーは、ただの一度も本気で中国市場を攻略するために携帯端末を開発したことがないと信じている。要するに中国市場を重要市場と捉えたことがなかったのだ。戦略の失敗であり、戦闘の失敗ではなかった。「先失敗、後打戦」--戦う前に、すでに負けていたとみている。