クラウド会計ソフトなどを提供するfreeeで、バックエンドエンジニアとして勤務するMUROさん。しかし、MUROさんはエンジニアとしてキャリアをスタートさせたわけではない。文系の大学を卒業後、不動産会社の事務職に就職し、そこからエンジニアに転身したという異色のキャリアの持ち主だ。

もともとエンジニアとしてのスキルを持っていたわけではないMUROさんが、なぜエンジニアの道を選んだのか。どのようにキャリアを積み重ね、freeeで活躍するまでに至ったのか。MUROさんのこれまでのキャリアと、異業種からエンジニアを目指す人に向けてのアドバイスなどを聞いた。

freee バックエンドエンジニア MUROさん
大学卒業後、不動産会社に事務職として就職。その後、退職しエンジニアの道を志す。SESとして3年半勤務した後、freeeに転職。現在はバックエンドエンジニアとして開発に従事している。

就活に失敗し、自分に自信を失っていた

--まずは、MUROさんの現在の業務内容について教えてください。

MUROさん(以下、敬称略):弊社はクラウド会計ソフトやクラウド人事労務ソフト、クラウド販売管理ソフトなど多数のサービスを提供しており、私は現在バックエンドエンジニアとしてそれらのサービスに携わっています。お客様が触れるような画面についても一部関わっていますが、業務のほとんどはどちらかといえば内部的なサービスに関するものです。例えば、課金周りに関する機能を実装するといったことをしています。

--入社されたのはいつ頃ですか。

MURO:2022年の8月です。freeeが3社目になります。

--新卒からエンジニアとして働かれていたのでしょうか。

MURO:いえ、最初は不動産会社に入社して、営業事務をしていました。事務職がやりたかったわけではなく、就職活動がなかなかうまくいかなくて、受かったところに入ったという感じでした。当時、自分に自信が持てずネガティブになってしまっていたので、そういうところが影響したのかなと思います。

--学生時代の専攻が理系というわけではなかった?

MURO:専攻していたのは文学系でしたね。研究内容自体は楽しかったんですが、それを生かせるような職業がなかなか見つからなくて。就活の自己分析で自分に何ができるんだろうと考えたときに、何もできないなと思ってしまったことが、先ほど話した自信のなさにつながってしまったんです。

--では、当時はエンジニアの道を考えていたわけではなかったのですね。

MURO:そうですね。もともと学生時代にはパソコンを自分で作ってみたり、プログラムを書いて遊んでいたりしたので、興味はありました。ただ、自分がエンジニアとして仕事できるとまでは考えていませんでした。

--パソコンの自作やプログラミングは誰でもできることではないですし、エンジニアを目指すのに十分な素養のように思えますが……。

MURO:パソコンの自作といっても、大学に入ったときに 自分のパソコンを持っていなかったので、できるだけコスパよくパソコンを手に入れたいというだけだったんです(笑)。

職業訓練で技術を学び、未経験からSESとして就職

--そこからどのようにしてエンジニアの道に進まれたのでしょうか。

MURO:最初に入った会社を辞めて、次の道をどうしようか考えたときに、パソコンやプログラミングが好きだったことを思い出したんです。ただ、エンジニアとして就職できるだけのスキルを持っていたわけではなかったので、そこから数カ月は職業訓練に通ってスキルを身につけながら転職活動をしました。

--職業訓練ではどのような技術を学ばれたのですか。

MURO:主にWeb制作系の技術を学びました。といっても、その時点でどの領域に進むかを決めていたわけではなかったです。

--これまでとはまったく違うエンジニアという世界に飛び込むのに、不安はなかったでしょうか。

MURO:あまり不安はなかったです。というのも、身の回りにエンジニアがいて、その人の働き方を身近で見ていたので、知っている世界ではあったんです。その人は組み込み系のエンジニアだったので領域はまったく異なりますが。

--そういうことでしたか。そして、職業訓練を終えて就職されたのが前職というわけですね。

MURO:はい。SES(システムエンジニアリングサービス)の会社に入社しました。バックエンドエンジニアとしていろいろなお客様のところに常駐し、システム開発の支援業務を行っていました。

--なぜバックエンドを選ばれたのでしょう。

MURO:バックエンド領域の業務は、データの流れを見たり、データを成形したりと、論理的に組み立てていくのが楽しいんです。といっても、多少はフロントエンドも担当していました。

--SESとして就職されて、苦労されたことはありましたか。

MURO:SESの会社は研修が充実していて、そこでもさまざまな技術を学ぶことができました。ただ、実際に現場に出てみると、研修の内容とは違うことも多々あって、そこでの戸惑いは経験しましたね。

--そうした問題はどう解決されたのでしょう。

MURO:恥ずかしがらず、まわりの人に助けを求めました。開発の現場はチームで回していくので、誰かがつまずくと他の人の業務もストップしてしまうんです。そうならないように、わからないところは積極的に質問して技術や知識を吸収していきました。

--そのSESの会社にはどれくらいいらしたのでしょう。

MURO:3年半くらいですね。その後、2022年10月にfreeeに入社しました。

「もっと上流工程に携わりたい」との想いからfreeeへ

--転職を考えたきっかけを教えていただけますか。

MURO:SESの業務は下流工程ばかりで、エンジニアとしての成長に限界を感じたことがきっかけです。もっと上流工程からシステム開発に関わりたくなり、自社開発でサービスを提供している会社への転職を考えました。

--下流工程と上流工程について詳しく教えてください。

MURO:かなりざっくり説明すると、 システム開発の仕様がすべて決まった状態で下りてきて、その仕様通りに開発やテストを行うのが下流工程です。自分で仕様を考えたり、設計したりするわけではなく、決められたものを作るのが仕事です。一方、社内の関係者とヒアリングしたり、サービスの課題を洗い出したりして、ベストな解決法を考え自ら設計するのが上流工程です。SESのときは前者ばかりやっていたのですが、もっと自分でいろいろ考えて作りたいと思うようになったんです。

--そこでサービス会社であるfreeeに入社されたわけですね。現在はどのような開発業務に携わっているのでしょうか。

MURO:私が関わっているのは、内部的なサービスですね。主に課金まわりの機能を提供するサービスを設計・開発しています。

--課金まわりというと?

MURO:弊社は多くのサービスを提供しています。それらのサービスでは無料であったり有料であったりと、さまざまなプランを選択でき、選択したプランに応じた金額を課金できます。私が関わっているのはそれらの機能を提供するシステムとなります。例えば、サービスの価格が変わるタイミングや、新しくサービスを作って価格を設定するタイミングでシステム設計・開発を行っています。

--そうなると、単に手を動かすだけでなく、いろいろな部署との打ち合わせや調整作業も必要になりそうですね。

MURO:そうですね。例えば、各ステークホルダーと相談して出てきた要望を実装できるかを検討し、可能な部分は仕様に落とし込んでいくといった感じです。

異業種からの転職に大事なのは体系的な学びとキャリアを描くこと

--まさにMUROさんが希望されていた上流工程の業務ですね。お話をうかがうと、エンジニアの道に進まれてからは順調にキャリアアップされている印象です。MUROさんご自身はエンジニアに転職して良かったと思うことはありますか。

MURO:最初の会社を辞めた理由が、モラハラにあったことでした。一方でエンジニアの世界に入ってみると、感情的な人がすごく少なくて、話をすればちゃんと通じるんです。それが一番良かったと思うことですね。

--MUROさんのように、異業種からエンジニアになりたいと考えている方に向けて、アドバイスをお願いできますか。

MURO:未経験からエンジニアを目指す場合、技術をどのように身につけるかが課題になると思います。今はプログラミングやITに関する技術をいろいろな媒体で学べると思いますが、難しいのはそれらをいかに体系的に学ぶかということです。個別の問題はネットで検索すれば答えが見つかるかもしれませんが、それだけではなかなか地力が身につきません。そのままでは、情報系の大学を出た方に比べると、やはり知識面で劣ってしまうこともあると思います。

そこで私は現在、体系的な学習のために通信制の大学に通っています。そこで学ぶ内容は基礎的なものが多く、業務に直接関係するものばかりではありませんが、そうした知識を得ることでエンジニアとしての地力をつけられると感じています。

--業務ですぐ役立つ技術も必要ですが、特に異業種からエンジニアを目指す場合はいかに“基礎力”を身につける機会をつくるかも大事になるのですね。

MURO:もう一つ大切なのは、エンジニアとしてのキャリアプランをしっかり描くことです。なぜエンジニアになりたいのか、どんなシステムを開発して社会にどんな価値を提供したいのかといったところまで考えられるといいのではないでしょうか。

--具体的には、どこから始めてみるといいでしょうか。

MURO:何かつくってみるところから始めてみてほしいです。そうやって実際にやってみることで、本当に自分がエンジニアになりたいのかも見えてくると思います。

--まずは動くことが大事というわけですね。MUROさんご自身も、そのようにして道を切り開かれました。

MURO:私はエンジニアの道に進んだことで、自分に自信が持てるようになりました。今後も技術や知識を深めて、エンジニアとして成長していきたいと思います。