1964年、イタリアの名門カロッツェリア「ベルトーネ」の若手デザイナーだったジョルジェット・ジウジアーロが初めて手がけた日本車が、マツダ「S8P」だった。
ジウジアーロとマツダの相性は?
当時の東洋工業(現・マツダ)は、「R360クーペ」と「キャロル」の2台の軽自動車と800ccセダンの「ファミリア」とラインアップが少なく、上級セダン(のちの「ルーチェ」)の開発を画策していたころだった。日本人企業家の宮川秀之氏の紹介で結びついたのが、イタリア人デザイナーのジウジアーロだ。
会社側から提案されたのは、ロータリーエンジンを搭載する前輪駆動の中型セダン。「東洋工業のことは全然知らなかった」(ジウジアーロ談)とはいいつつも、腕を振るって製作したのが流麗なシルバーボディを持つ「S8P」だった。
ロータリー搭載モデルらしい低いボンネットと、それと対になるようにリアに向かってなだらかに下がるトランクのライン、BMWの「ホフマイスター・キンク」を彷彿させる下端がキックアップしたCピラーなど、その姿は今見ても本当に美しい。
フロントグリルにはジウジアーロがデザインしたロータリーエンジン型の旧マツダエンブレム、フロントフェンダーには「disegno di Bertone」と書かれたバッジを装着している。
細い3本スポークステアリング、丸型3連メーターと各種スイッチ類が水平に並ぶウッドネル、明るいブラウンレザーを組み合わせたインテリアも上品で、高級セダンらしい仕上がりだ。
美しいボディラインは「ルーチェ」が継承
S8Pは長らくマツダの倉庫で眠っていたというが、2000年代になって発見し、同社が修復。2011年に広島市の交通科学館で展示した。今回、オートモビルカウンシル2025の会場を訪れたジウジアーロも「久しぶりに会えてとても嬉しかった」と感想を語っている。
1966年に発売となった初代ルーチェは、ヘッドライトが角形2灯から丸目4灯に変更されていたものの、ボディラインはS8Pを踏襲したイタリアンデザインのセダンとして登場。ただしロータリーエンジンは搭載せず、駆動方式もFRとなっていた。
一方、1967年になってデビューした2ドアハードトップの「ルーチェロータリークーペ」は、ロータリーエンジン(13A)を搭載したマツダ初の前輪駆動車として製造・販売された。