BMWが開発・生産を手掛けるミニ(MINI)の最新モデルに試乗した。「ミニクーパー」の「S」というグレードで、「3ドア」(2ドア+リアハッチバック)のガソリンエンジン搭載車だ。走りも内外装も独特なミニの個性は今でも健在なのか、じっくり乗って確かめた。
内外装はミニらしい?
3ドアのミニクーパーにはガソリンエンジン搭載車2種類(1.5Lと2.0L)と電気自動車(EV)がある。試乗したのは2.0Lのガソリンエンジン搭載車だ。
車内は、これまでのミニとはやや違った雰囲気があった。座席は本革などを使わず、動物性でない100%リサイクル素材で作られている。ダッシュボードやドアのひじ掛けは再生ポリエステルを使ったニット素材で手触りがいい。
座席もダッシュボードも見栄えは明るく爽やか。走りを重視するクルマでは一般的に、「スパルタン」と形容される攻めた内外装を採用することが多いが、ミニは全く違う。とはいえ、運転の楽しさを損なうような失望感があるわけではない。クルマの運転が、別世界ではなく日常の延長線上にあるという新たな感覚だ。
ダッシュボード中央にはミニ特有の丸いインフォメーション画面があり、その下にはスイッチが並んでいる。そのひとつを指でつまみ、回転させるようにひねるとエンジンが始動する。こうしたスイッチ感を大切にするところは、歴代ミニに共通する作法だ。
もはやシフトレバーはない。こちらもスイッチを上下してシフトを切り替えるシステムだ。スイッチ操作で「D」レンジに入れれば、あとはアクセルペダルを踏むだけでクルマが動き出す。
伝統のゴーカートフィーリングは?
運転の楽しさは、走り出せばすぐにわかる。
動き出したミニは路面からの振動を伝えてくる。これが伝統の「ゴーカートフィーリング」だ。
英国時代の初代ミニは、大衆車として原価を抑えるため、金属製コイルスプリングではなくゴム製のブッシュで乗り心地を整えた。その感触をBMWも大切に守っている。もちろん現在はコイルスプリングを用いたサスペンションだが、ゴーカートのような感触を残しているのだ。
ハンドル操作に対する機敏な動きもゴーカートフィーリングの楽しみ。ハンドルを操作すれば、狙い通りにすばやく進路を変える。この俊敏さがミニならではの手応えである。
今回の試乗車は2.0Lとゆとりある排気量を備えているので、出足の加速はもちろん、高速道路に入ってからの追い越し加速も伸びやかで、走りは痛快だった。ただ、ミニであれば1.5Lを選ぶ理由も大いにある。小排気量エンジンが力を振り絞る様子もまた、英国時代からのミニの味わいを彷彿とさせるからだ。
昨今のクルマは、自然吸気エンジンを積んだ軽自動車でさえ、全力を使い切るといった運転ができるケースは稀だ。パワーにゆとりのあるクルマを少ないアクセル操作で走らせることが燃費を向上させ、二酸化炭素(CO2)排出量の削減にもつながる。環境性能を意識したエンジン特性を持つクルマが現在の主流だ。
とはいえ、ミニらしさという点において、能力を使い切る爽快さは格別のものがある。ゴーカートフィーリングと能力を使い切る潔さ、それがミニのミニたるゆえんだろう。もちろん、2.0LのミニクーパーSも、ミニらしさを損なうことなく仕上げられている。
トランスミッションは7速DCTを搭載する。「DCT」とは「デュアル・クラッチ・トランスミッション」のこと。2つのクラッチを持ち、奇数段と偶数段の歯車の組み合わせそれぞれにクラッチ機構を備えているので、すばやい変速ができる。
例えば、人が手動で変速するマニュアルシフト操作は、クラッチペダルを踏み込んで、それからシフトレバーを操作して歯車の組み合わせを変更するが、DCTはあらかじめ次の歯車へ切り替える準備をしておいて、奇数側と偶数側のクラッチの断続を行うだけで、シフトアップやシフトダウンを済ませることができる。
変速の様子はエンジン回転数の上下でわかるが、切り替えの途中で一瞬失速するような空白がなく、滑らかに、どんどん加速していく。自動変速機構なので、アクセルとブレーキの2ペダルで操作できる。もちろん「オートマ限定」の免許で運転可能だ。
遊び心あふれる演出の妙
4代目となった今回の新型ミニは、ミニの基本を守りながら、演出という新たな世界も垣間見せる。
ダッシュボード中央の丸い画面は、7つの「エクスペリエンスモード」を切り替えることで雰囲気を一変させる。画面のデザインが変わり、テーマごとに専用のサウンドが流れ、選ぶモードによっては走りの特性まで変化する。遊び心にあふれる演出でありながら、スポーティーな走りやエコを優先した走りなども選べる面白い機能だ。
独特の丸い画面は地図が大きく表示されるし、行く先々の様子も確認しやすく、一般的な四角い画面とはまた別のよさがある。
丸い画面のほかにメーター表示はないが、フロントウィンドーのヘッドアップディスプレイが必要な情報(車速など)を常にもたらしてくれる。運転中、よけいな目線の動きを抑えられて安心感があった。
後席にも座った。左右2人乗りに割り切った座席は十分な寸法があり、足元は前席の下につま先を入れて座れる。空間的広さがあるとはいえないが、きちんとした姿勢で座れるので居心地はいい。前席のヘッドレストが縦に細長い形状であるため、後席からの前方視界も悪くない。運転の楽しさだけでなく、家族や友人と出かける際の同乗者への優しさも持ち合わせたクルマだ。
ミニ以外ではなかなか体験できない運転感覚や乗り心地を提供しながら、新しい演出や運転支援機能の充実など先進性をぬかりなく備え、時代に適合したミニの嬉しさを実感した。唯一無二。ミニを選ぶ理由は、今日もなお健在である。