京都大学は、動き・奥行きや色・形など、視覚情報に基づく物体認知に「前頭前野」から発信される「トップダウン信号」が重要な役割を果たしていることが発見されたと発表した。
成果は、京大研究霊長類研究所の二宮太平特定研究員、同井上謙一特定助教、同高田昌彦教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、5月17日付けで「Journal of Neuroscience」オンライン版に掲載された。
ヒトが普段見ている視野内のさまざまな物体は、その視覚情報の要素ごとに異なる大脳視覚野で処理されていることがわかっている。例えば、頭頂葉の「MT野」は主に物体の動きや奥行きの情報を処理しており、側頭葉の「V4野」は主に色や形の情報を処理していることが確認済みだ。
これらの領域は単純に目に映る物体に反応するだけでなく、記憶や注意などの状況に合わせて活動が変化することが知られている。このような高度な脳機能には前頭前野で形成される認知情報が必須であると考えられているところだ。
今回、研究グループはMT野とV4野に伝達されるトップダウン信号が前頭前野の「46野腹側部」から発信されていることを明らかにした。46野腹側部は特に作業記憶に重要な役割を担っていて、高次視覚野に対して今どこにある、どのような物体に注目すべきかといった情報を提供している可能性がある。
さらに、前頭前野からMT野とV4野に伝達される信号が、眼球運動の中枢である「前頭眼野」や「外側頭頂間溝周辺領域」の異なる神経細胞によって中継されていることも明らかになった。
画像は、サルの脳を横から見た図で、前頭前野からMT野及びV4野への入力様式の模式図。MT(赤)とV4(青)は46野腹側部から認知機能に関する情報を受けている。また、MTは補足眼野からも眼球運動に関係する入力を受けているのも判明した。これらの入力情報は、前頭眼野や外側頭頂間溝周辺領域の異なる神経細胞によって中継されている。
以上の結果は、動き・奥行きや色・形といった視覚情報に基づく物体認知に前頭前野から発信されるトップダウン信号が本質的な役割を果たしていることを示唆している。
このような前頭前野と高次視覚野との相互作用の神経基盤を理解することによって、注意障害など高次脳機能障害の病態解明、さらには治療法の開発につながることが期待できるという。