宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2月22日、一般からの参加を募る「月面ロボットチャレンジ」についての説明会を開催した。第1期の今回は設計コンテストとなっており、応募は書類のみ。4月16日で締め切り、最終選考会が5月14日に開催される。

大手町のJAXA東京事務所。このほか筑波と相模原の説明会場とも中継回線で結ばれた

JAXAは月面ロボットチャレンジを、「将来の月面探査/有人月面拠点建設において月面ロボットがクリアすべき技術課題に対するアイデアを、宇宙ロボティクス分野だけでなくさまざまな分野から幅広く募集するもの」と定義する。

「日本はロボットが得意」と言われるが、それはあくまで地上でのこと。宇宙での実績は米国がダントツであり、例えば火星ローバー「Spirit」と「Opportunity」などは、設計寿命を遥かに超えて、これまで6年間も動作を続けている。日本は小惑星探査機「はやぶさ」や宇宙ステーション補給機「HTV」など、無人機での優れた自律技術はあるものの、本格的な探査ローバーの経験はない。またロボットアームでは、スペースシャトルや国際宇宙ステーションでカナダ製の歴史が長く、日本はNECが開発した「きぼう」用ロボットアームがようやく動き始めたところだ。

日本のロボット関連メーカーで、宇宙にも関わっているのは、市場の小ささもあり、ごく一部に限られているのが現状だ。宇宙は閉鎖的な市場であり、これは「宇宙ムラ」とも呼ばれるが、ここに外部の技術やアイデアを呼び込もう、というのが月面ロボットチャレンジの大きな狙いだ。実現に際しては、民間出身の立川敬二理事長からのアドバイスがあったという。以前、JAXAは「宇宙ロボットフォーラム」という枠組みで同様のことを狙っていたが、こちらでの活動は行き詰まっており、今回、より具体的な目標を提示することで、企業や大学からの参加を促進する。

第1期となる2009年度は、規定課題、フリー課題に対する、設計コンテストの形をとる。「月面ロボットチャレンジ」という名称からは、「Google Lunar X PRIZE」のようなイメージを持つかもしれないが、これとは異なり、今回の応募では、ロボット実機を完成させる必要はない。ただし、これに採択された場合には、JAXAとの共同研究として予算が付き、最終的には、試作機によるデモンストレーションまで実施する予定だ。

第1期コンテストのスケジュール

採択されても、途中の審査でさらに絞られる

規定課題は、「クレータ中央丘岩石採取」と「拠点モジュールの埋設」の2つ。応募はどちらか一方に対してで良く、両方を同時に満たす必要はない。またテーマに縛られないフリー課題もあり、こちらに対しては、自由にアイデアやコンセプトを提案してもらう。

「クレータ中央丘岩石採取」は、月深部の物質が露出していると言われるクレータ中央丘に登って、サンプルを採取するというミッションを想定したものだ。斜面の傾斜は25度、高さは2,000m程度の中央丘を想定しており、ロボットは頂上に登って岩石を採取した後、今度は降りてきて麓の分析装置に入れる必要がある。ロボットの条件は、収納時のサイズが1m立方以内、重量は100kg以下。この範囲内であれば、複数のロボットでも可能。

「クレータ中央丘岩石採取」の概要

この設計条件(要望事項)

もう1つの「拠点モジュールの埋設」は、将来の有人基地の建設に際し、想定される作業をターゲットにしたものだ。大気のない月面では、人間は放射線にそのまま曝されることになる。この対策として考えられているのが、月レゴリス(月面の細かい砂)で拠点モジュールを埋めてしまうことだ。このミッションでは、まず穴を掘って、モジュールを運んで降ろし、その上に厚さ30cm以上になるようにレゴリスをかける。こちらのロボットの条件は、収納時のサイズが1m立方以内、重量は500kg以下。同様に、複数のロボットで構成しても良い。

「拠点モジュールの埋設」の概要

この設計条件(要望事項)

採点基準は、実現性・具体性、独創性・革新性、機能性能の優秀性、必要とする技術の成熟度、設計条件への考慮など。実際に月面で動作するためには、熱や真空など過酷な環境を考慮する必要があるが、今回、JAXAが求めているのは作業技術や表面移動技術といったコア部分であり、そういった耐環境性についてはそれほど重視されないようだ。

詳しくは、月面ロボットチャレンジのWEBサイトを参照。こちらに、各課題の詳細や、応募の方法、Q&Aなどが掲載されている。

月・惑星探査プログラムグループの長谷川義幸統括リーダは、「世界で誰も実現していない難しいテーマを2つ選んだ。すぐに実現できるようなものではないが、チャレンジして生まれた技術を実際のプロジェクトに反映させたい。大学や企業には、ぜひ自分たちの技術・アイデアを出してもらいたい。オールジャパンのロボットコミュニティも形成できれば」と話す。JAXAは第1期に続いて、2010年度以降についても、第2期、第3期と続けていく意向。