米Oracle CEOのLarry Ellison氏

世界2位のソフトウェア企業は、ソフトウェアのパフォーマンスの限界を突破するために自らハードウェアの世界へと進出しようとしている。9月24日(米国時間)にOracle OpenWorld 2008で発表された新製品は、米Oracle自身にとっての限界への挑戦となるかもしれない。

Oracle OpenWorld 3日目にあたる24日には、米Oracle CEOのLarry Ellison氏によるキーノートスピーチが行われた。同氏は過去2年のキーノートの中で「Unbreakable Linux 2.0」「Oracle VM」に関するサプライズ発表を立て続けに行っており、今回も謎の製品「X」としてその発表が事前に告知されていた。今回のEllison氏の講演で、同社が推進するプロジェクト "X"のヴェールがようやく明かされることとなった。

DBのボトルネック解消でエクストリームパフォーマンスを目指す

Ellison氏の今回のテーマはデータベース(DB)と、その最大の活用事例の1つであるデータウェアハウス(DWH)だ。同氏によれば、DWHは2年に3倍のペースでそのデータサイズが急増しており、大規模DWHもごく当たり前のものになりつつあるという。だが一方でパフォーマンス問題が顕在化しつつあり、DBサーバがディスクアレイから格納されたデータを取り出す際のデータ転送帯域がボトルネックとなりつつあり、必要十分なパフォーマンスが得られていない状態だ。これはDWHが大容量化するほど顕著となり、1TB付近を境に急激にパフォーマンスの鈍化がみられるという。標準的なNASはもちろんのこと、ハイエンド向けに最適化されたディスクアレイでさえ例外ではない。この問題を解決するのがOracleのミッションとなる。

データウェアハウス(DWH)の容量は年々倍々ペースで増え続けているが、そのパフォーマンスは1TBを過ぎたあたりから急激に減少する傾向がみられるという。標準的なNASはいうまでもなく、高性能なディスクアレイでさえ例外ではないという

問題はディスク装置とDBサーバを結ぶ回線の帯域幅にある。少ない帯域幅でもパフォーマンスの減衰を抑えるよう最適化されたハードウェアが必要だというのがEllison氏の主張だ。同社が米Hewlett-Packard(HP)と共同で開発したDBに最適化されたストレージが「Oracle Exadata Storage Server」だ

標準的なディスクアレイの場合、DBサーバからクエリーのリクエストがあると、関連するブロックをすべて抽出する動作を行うため無駄が多い。そこでストレージ自体をインテリジェント化し、クエリーに最適化されたデータの抽出のみを行うことで、少ない帯域幅の有効活用やストレージのレスポンスタイムの高速化を行うことが狙いとなる

そこでEllison氏が示した解答の1つがDB処理に最適化されたハードウェアの提供だ。ソフトウェア専業ベンダのOracleにとって、ハードウェアの進出は初となる。エンタープライズ市場では多くの実績があり、Oracle DBのインプリメントで長年にわたって協力関係にある米Hewlett-Packard(HP)をパートナーに新たに開発したDB専用ストレージが「Oracle Exadata Storage Server」である。ここで専用ハードウェアに求められる要件はDBサーバとストレージ間のパイプを増強しつつ、その間を通過するデータの数を減らすことにある。両者の実行によりパフォーマンスの大幅な増加が見込める。

Exadata Storageの"Exa"とは、Gのギガ、Tのテラ、Pのペタに続くデータ容量の単位だ。将来的にエキサバイト級のデータを扱えるストレージ装置として命名されたのだろう。スペック的には2つのクァッドコアIntelプロセッサ(Xeonとみられる)を内蔵し、12台のHDD搭載で1台のExadata Storageあたり最大12TBまで拡張できる。OSにはOracle Enterprise Linuxを採用、さらに並列処理を最適化するようOracle Parallel Query DBを搭載している。このように多数のコアを持つ汎用プロセッサを搭載することでストレージをインテリジェント化した点が今回の製品の肝となる。

DBサーバとExadata Storageは最大2本のInfiniBandで接続され、単位ストレージあたり1GB/sのデータ転送が可能となっている

パフォーマンスを改善する動作原理としては、転送データの削減とレスポンスタイムの縮小、そして転送用パイプの増強の2点となる。従来までの標準的なストレージの場合、DBサーバからクエリ要求を受けるとテーブルの格納されたブロック全体を抜き出すような動作を行っていた。Exadata Storageの場合はクエリーの内容を理解して必要なデータのみ抽出を行うよう動作するため、基本的に無駄がなく、レスポンスタイムも早い。またDBサーバとストレージは2本のInfiniBandで接続されており、高速転送が可能となっている。

ついに登場した「Database Machine」で複数のH/Wベンダーに殴り込み

いよいよヴェールを脱いだ謎の製品 "X" こと「HP Oracle Database Machine」。ラック内に最大14台のExadata Storageを内蔵し、DBサーバ機能を包含することで、DB処理に最適化された超高速マシンとして機能する

以上を踏まえたうえでOracleが満を持してリリースするのがDB専用サーバの「HP Oracle Database Machine」だ。Oracle OpenWorld 2008開催時に「X」というプロジェクト名で呼ばれていた謎の製品で、それがEllison氏の手によってその正体を明かされたものだ。

スペック的には1つのラックの中に、8つのDBサーバと14のExadata Storageが搭載され、それぞれが高速接続されている。DBサーバにはOracle Enterprise Linuxが導入されており、計8台でRAC(Real Application Cluster)を構成している。また最大12TBのExadata Storageが14台ということで、Database Machine自体は最大168TBまでのデータ格納が可能になる。Ellison氏は「いま最も容量の大きいiPod(120GB)の1400台ぶんのストレージサイズがある」と説明する。Exadata Storage自体はすべてのOracle DBに対して使用可能なものだが、あくまで完成品のDB専用サーバとして最大限にチューニングされた製品であることにDatabase Machineの意味がある。

Database Machineのスペックはこのようになっている。DBサーバにはOracle Enterprise Linuxが導入され、最大8台のRACを構成している。また気付いたと思うが、Exadata Storage側にもIntel製プロセッサが搭載されており、インテリジェントなデータ処理を実現している

ここから先は、ここ数年のEllison氏の講演ではおなじみの他社製品との比較による新製品アピールだ。同社では2007年10月から顧客テストプログラムを実施しており、そこでのベンチマークテストによる結果で競合他社製品の10-30倍近い高速処理が可能だと訴えている。もともとDB処理に特化した製品だけにそのスピードは折り紙付きだといえるだろう。これについてEllison氏は「並列処理による高速化と可用性を長年研究してきた成果。これで前述の1TBの壁を突破できる」と自信を見せる。

Unbreakable Linux 2.0発表の際のRed Hat、Oracle VM発表の際のVMwareに続き、今回も複数のベンダーがライバル候補としてターゲットに挙げられている。ディスクアレイ装置としてはEMC、HP、IBM、日立といったメーカー名が出ているほか、DWH向けのハイエンドなディスクアレイ + ソフトウェアを提供するベンダーとしてTeradataとNetezzaの名前が出ている。パフォーマンスと価格の両面でDatabase Machineが優位にあるというのが同社の主張だ。

毎度おなじみの他社製品とのパフォーマンスや価格比較。今回のライバルはIBM、EMC、日立などだ。さらにはHPも比較対象として含まれており、Oracleの攻撃はパートナー企業相手にも容赦ないことがわかる

DWH分野のライバルとしてはTeradataとNetezzaの名前がリストアップされており、パフォーマンスと価格の両面でDatabase Machineのほうが優位にあるとOracleでは主張している

米HP会長兼CEOのMark Hurd氏が登場。今回は会場に来られなかったため、ビデオ越しでのキーノート出演に