テレワーク、在宅勤務といった「新しい働き方」へと急激にシフトしたことにより、ビジネスパーソンの心身はどんな影響を受けているのでしょうか。産業医として数々の企業を診断している大室 正志先生(大室産業医事務所 代表)に、いまだからこそケアすべき心身の問題と、その解決策を教えていただきました。前篇となる今回は「メンタルヘルス」について取り上げます。

  • 産業医に学ぶビジネスヘルスケア_前篇_001

    株式会社大室産業医事務所 代表
    大室 正志先生

「顔を合わせる型コミュニケーション」をリモートにしたことで生じる問題

──「ニューノーマル」「新しい生活様式」といわれる暮らし方が始まって、1年以上が過ぎました。産業医の視点から、ビジネスパーソンのメンタルヘルスに変化は生じているのでしょうか?

ある会社のストレスチェックが象徴的だったのですが、現在の状況前後で総合点に変化はありませんでした。ただし、内訳は変わっています。ストレスが増えた人もいれば、減った人もいて、総合的には変わらなかったということです。

──ストレスが減った人も、増えた人と同程度にいるのですね。

これは絶対に言っておくべき事実だと思いますが、リモートワークが浸透して通勤が減り、業務が効率化したことによって、気持ちが楽になった人は少なからずいます。ひとりで仕事を完結できる人や、誰に何を聞けば良いのかわかっている人は、リモートに向いているんです。

しかし、もちろん辛くなってしまった人もいて、それは新卒者と転職者に顕著です。若い人ほど、相談できずに悩んでいるようです。

──デジタルネイティブな若い世代はオンラインでのやり取りに慣れていそうですが、そうでもないのでしょうか?

ゲームやSNSで気晴らしする分には良いのですが、“仕事について気楽に話せる場”を持つことはなかなか難しいようです。

私がジョンソン・エンド・ジョンソンに勤めていたころ、日本だけカウンセリングの利用率が低くて、何度も宣伝していました。でもよく考えたら、日本では新橋の居酒屋的な空間が、仕事の悩みをウダウダ相談できる場所として機能していたのです。いまは、そういった場所がなくなってしまいました。

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──一方で、転職者はどういったことに負担を感じているのでしょうか?

日本の会社は引き継ぎがあまり上手くありません。個々人の業務がモジュール化されておらず、手順もあいまいで、1、2ヶ月かけてオンザジョブで引き継ぐのが一般的でした。それがこの状況になって、いきなり仕事に就かされるようになってしまったのです。何が何やら分からない段階から、チャットで指示や確認がどんどん飛んできます。こういった状況を「しんどい」と感じ、多くの相談を受けるようになりました。

質問をするにも、隣の席にいる同僚にちょっと聞いてみるのと、顔も知らない相手にメッセージを送るのとでは、心理的な負担が大きく変わるんです。

──確かに、リモートでの上司や同僚に対する「相談のしづらさ」は感じます。

上司にとっては、リモートワークや在宅勤務が浸透したことによって、“しんどい”状態にある社員の発見が難しくなっています。これまでは朝の遅刻が増え、出社することが難しくなることが代表的な兆候だったのですが、いまは直前まで寝ていて、就業時間になったらログインしておけばバレません。「仕事がぜんぜん進んでいない」「連絡が取れない」というような事態になって、ようやく異常に気づくんです。

目の前にいないと顔色もわかりませんから、異常を察知するには、過去数ヶ月の仕事ぶりと現状を比較する必要があります。そうしたことに慣れていない上司の場合、業務量を調整するような段階を越えて、いきなり休職・退職にまでいってしまうケースも珍しくありません。

──社内での交流が減ったことで、異常発見を遅らせてしまっているのですね。

私は以前から、「飲み会が多すぎる会社も、少なすぎる会社も危険」と言ってきました。ウザいと感じることもありますが、飲み会のような場で上司や同僚の「人となり」を知ることは、仕事を円滑にするうえでとても重要です。お互いの気質を把握することによって「あのときのアレ」とか「そんな感じで頼むよ」とか、コミュニケーションをショートカットできるんです。

外資系企業だってドライな関係かというと必ずしもそうではなく、クリスマスパーティをしたり、みんなでスポーツを観戦に行ったりと、手を替え品を替え、交流の機会を設けています。

ただ、日本社会は「知ってる前提」のコミュニケーションに慣れすぎています。昭和の頃は、立場が上の男が「おい」と言っただけで周りが察しなければならなかったほどです。さすがにこれは極端な例だとしても、毎日顔を合わせることを前提としたコミュニケーションの仕方を、いきなりリモートにしてしまったので、あちこちで齟齬が生じているんです。

──一時期に流行った「Zoom飲み」も、最近はめったに聞かなくなりました。

地方に住んでいても参加できるのはメリットなのですが、あれは、誰かが仕切らないと話しづらいんですよね。飲み会と言いつつ、シンポジウムっぽくなってしまいます。テーマがないと飲みにくいんです。会議には向いているかもしれませんが……。

飲み会って、相手の空気とか雰囲気になんとなく応じるものだし、別に話す内容を事前に考えたりしませんよね。でも、思ってもいなかった話が広がっていき、結果として新たな仕事が生まれることだってあります。

これからは「従業員同士の結束は"オフ会"で補う」会社と、「仕事だけする場所と完全に割り切る」会社の、2つに分かれていく気がします。

従業員のメンタル不調を早期に発見するには

──メンタルの不調には、どのような症状があるのでしょうか?

いちばん多いのは「適応障害」と「抑うつ状態」です。適応障害とは、仕事や人間関係など、比較的ストレス源がはっきりしている場合です。原因が良くわからない場合は初回の診断書では抑うつ状態と書かれてくる場合が多いですね。フィジカルにおける腰痛とか腹痛と同じく、これは「状態」を表した言葉で病名ではありません。

メンタルというのは複合的に考える必要があります。以前とまったく同じ業務量や仕事の内容あっても、キャパシティを越えてしまうケースがあるのです。実は親の介護で大変だったとか、離婚調停中だとか、ほかの悪い条件が重なってしまっていることがあるからです。休職までいってしまう人は、こうした状況が多くみられます。

──自分自身のメンタル不調に気づくには、どうすれば良いのでしょうか?

大きく分けて、「心」「身体」「行動」の3つでチェックでき、人によって予兆は変わります。たとえば、食べ過ぎてしまう人もいれば、食欲が無くなる人もいます。普段の自分と比べて、おかしなところはないか振り返れば、不調に気づきやすくなるでしょう。

  • ・心の例:
    訳も無く涙が出たり、常にソワソワしたりする
  • ・身体の例:
    頭痛がしたり、寝つけなかったり、下痢や便秘気味になったりする(自律神経不調が長引く)
  • ・行動の例:
    喧嘩っ早くなったり、飲酒量が増えたりする
  • ──上司や会社側にできることはありますか?

    感情を気軽に出せるような仕組みをつくることです。たとえば、オンライン会議の前後に「チェックイン」「チェックアウト」の時間を設けて、参加者の気持ちをチャットで吐き出してもらう会社があります。「子どもの通院があって焦っています」「寝不足で逆にテンションが上がってます」といった素直な感情で構いません。メンタルが不調になってくると、こうしたことができなくなってきますから。

    あるいは、「1on1ミーティング」で、上司が部下の感情を聞いてあげる時間をつくるのも良いでしょう。従業員の心を推し量るエンゲージメントサーベイもありますが、職場の雰囲気といった全体のトレンドは分かっても、なかなか個々人までは深掘りしにくいものです。人が人として気づける場面をどれだけ用意できるかが重要です。 従来は、「社会人たるもの職場では感情を排除すべき」という風潮がありましたが、これからは、自分の感情を素直に認められることが大人の証しになっていくのではないでしょうか。

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    ──メンタルヘルスに関してファシリティ、とくにPCなどIT機器の面から対処できることはあるのでしょうか?

    IT機器は別に魔法の道具ではありませんから、どれだけ対面コミュニケーションに近づけるかどうかだと思います。プラス効果を期待するのではなく、マイナス面をどれだけ減らせるかです。音声が悪かったり、画面がちょくちょく固まったりするようでは、面談する気も失せてしまいますよね。

    日本の企業は、ホワイトカラーの職場環境にあまり投資しない傾向にありました。製造業で発展してきた国なので仕事をする場所への投資を「工場」をひな型に考えるという癖が歴史的に長く続いたせいかもしれません。

    しかし、オフィス機器は多くのビジネスパーソンにとって、野球選手のバット、サッカー選手のスパイクなんです。気持ちよく働けるデスクワーク環境を整備することが、長期的には生産性の向上に繋がっていくでしょう。

    ──ありがとうございました。

    Tech+ 企業IT「デル」カテゴリー

    https://news.mynavi.jp/top/business/enterprise/dell/

    メンタルの不調を予防する“対面に近いコミュニケーション”を実現するデルのPC、および周辺機器を紹介しているほか、ニューノーマル時代における最適なPCの使い方など、仕事には不可欠なものだからこそ、抑えておきたいビジネスPCの最新情報を公開しています。

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