近年、話題に上ることが増えてきた「STEAM教育」。STEAMとは、「科学(Science)」「科学技術(Technology)」「工学(Engineering)」「芸術(Liberal Arts)」「数学(Mathematics)」の5つを組み合わせた教育概念で、急速に発展する技術や多様化する社会に対応できる人材を育成することを目的としています。

日本政府が打ち出している政策「Society5.0」でも、STEAM教育が掲げる“最先端のICT(情報通信技術)を用いながら自ら課題を発見・解決する力”が現代における必要な能力として紹介されており、2024年には文部科学省が「高等学校DX加速化推進事業(通称:DXハイスクール)」といった支援をスタート。取り組みを強化する学校などに対して、1,000万円の補助を行うなど、STEAM教育環境の推進が加速しています。

AIなどの技術発展が著しい昨今において、最先端の技術・知識を用いて新たな価値を生み出す人材の育成は、まさに地域課題・社会課題解決のための急務。しかし、日本はこの分野では後進国とも言われています。その原因の一つが「教育機関の環境整備・人材が整っていない」ことと言えるでしょう。生徒向けのカリキュラムを考えることと同時に、それを教える教員、学べる環境が必要不可欠なのです。

そこで本記事では、教育現場の現状を知るために”STEAM教育人材育成“の取り組みを行っている兵庫教育大学へお邪魔しました。教員から見たリアルなSTEAM教育現場をお届けするとともに、2024年7月に同学で行われた「インテル® Skills for Innovation」フレームワークを活用した研修の様子もご紹介。STEAM教育を実現させるために、エプソンダイレクトがインテルと行っている取り組みについてもご紹介します。

STEAM教育が目指す「探究型の学び」

実社会での課題発見・解決に活かしていく力を育むための教科横断的な教育を指す「STEAM教育」。これは単なる教科書上での学びだけではなく、実体験を通して問題を解決する方法を学んだり、新しい価値を創造する力を身に付けたりする「探究型の学び」を目的としています。

一つの疑問から、自由に考え、試行錯誤して、自分で解決方法を見つける。これを行っていくことで、その経験からさまざまなシーンで活用できる能力を身に付けていきます。

一方で「日本ではまだまだ広がっていない」「教育現場でのICT環境の整備が進んでいる今、それを効果的に使用することが必要」と語るのが、今回お話を伺う、兵庫教育大学で社会科教員の養成を担当する小倉拓郎先生です。近年のGIGA(※)スクール構想によりGIGA端末の普及が進んだ一方で、「今は、ICTを使うだけではなく“ICTを使ってできること”を増やしていく段階に来ている」と小倉先生は話します。

※Global and Innovation Gateway for Allの略

「今は、ICTを使うだけではなく“ICTを使ってできること”を増やしていく段階」STEAM教育推進に向けた提言

プロフィール画像の名前
小倉拓郎先生

兵庫教育大学大学院 学校教育研究科 社会系教科マネジメントコース所属。自然地理学を専門とし、地形学や地球科学教育、空間情報科学に関する研究を行う。
また、自然地理学の研究成果を地形教育や防災教育などを組み合わせ、文理を織り交ぜた教員研修を実施している。

――まず、ICTを活用したSTEAM教育の必要性についてお考えを聞かせてください。

小倉先生:従来の紙の教科書を否定するわけではないですが、デジタルコンテンツを用いると、より深い考察ができるようになります。例えば、地図帳。デジタル地図は紙と比べて情報量が圧倒的に多く、過去の空中写真と見比べたり、標高データを視認性よく表示したりということが手軽に行えます。複数の要素を可視化したうえで重ね合わせて分析できるので、情報を取捨選択しながら考察する力が身に付きます。

――日本では、STEAM教育がなかなか進んでいないという意見が多いですが、どこに問題があるのでしょうか?

小倉先生:まずは子どもたちではなく、教員たちの意識を変えることが重要だと思います。教員たちの間でも「ICTを使わないといけない」という強迫観念みたいなものがありますが、どうしても使うこと自体に意識が向きがち。“どう活用するか”というところにまで意識が向かないことをよく感じます。

現在は政府が掲げたGIGAスクール構想によって、生徒一人に一台の学習用端末と、クラス全員が一度にアクセスしても利用できる通信環境の整備が進められていますよね。それによって、一昔前にあったような“デジタル機器への苦手意識”は少なくなっていて、使い方を模索しているのは良い兆候といえるかもしれません。

――教員の意識を変えるには、どうすれば良いのでしょうか?

  • 実際に地図を開いて、表示できる情報量の多さや見やすさを説明してくれました

小倉先生:ただでさえ教員は忙しい毎日を送っているので、時間を確保するのが難しいと思いますが、どんどんICT機器に触れて、できることは何なのか、楽しいことは何なのかという観点で、先生たち自身も"遊んで"みてほしいと思います。

――まずはICT環境を教員に体感してもらうことが大切なのですね。

小倉先生:今は、ICTを使うだけではなく「ICTを使ってできること」を増やしていく段階に来ています。GIGA端末は全国にICTを普及させるという点では意義がありましたが、いつまでもそのスペックに留まっているのはもったいないと感じます。ただ使うことを目的としてしまうと、突き抜けた発想は生まれませんから。

多くの人に使ってもらうことを考慮に入れつつも、普段使用している端末よりもハイスペックな端末にも触れる機会は必要だと思います。より創造性を高めるには、家の中から外の世界に飛び出すように、遊ぶ範囲を広げていく必要があるからです。子どもたちの好奇心を制限せず、探究心を育んであげるには、まずは教員が普段の端末以外のものにも手を伸ばしてみて、どんな可能性を秘めているのか身をもって体感するのが重要なのではないでしょうか。

3D地形教材で授業をデザイン。STEAM教育の教員研修をレポート

兵庫教育大学では、STEAM教育推進のためにさまざまな取り組みを行っています。2024年7月には「授業にICTを取り入れる手助けをしたい」という想いから教員向け研修を実施。「3Dで地形を見る・動かす・つくる:Blenderと地理院地図を用いた授業デザイン」と題した研修を行い、小学校から高校まで、専門科目も異なる授業を受け持つ教員の皆さんが参加されました。

この研修では、より良いICT環境を体感してもらうべく、PCにはエプソンダイレクトの高性能ノートPC「Endeavor NJ8000E」を採用。高い性能の端末に触れながら、研修が行われました。


長期のサポート、迅速な修理など国内ブランドならではの対応に期待。 兵庫教育大学がエプソンのPCを導入する理由

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この研修では、インテルが提供する、STEAM教育を支援するための「インテル® Skills for Innovation」フレームワークを活用。このフレームワークでは、子ども達が、現代の社会で生き抜くために必要な、課題解決能力、社会情動的スキル、テクノロジーへの適応能力などの重要スキルを培うため、教員も楽しみながら、より良い授業デザインを行っていただくように設計されています。

インテル® Skills for Innovationについて

インテル® Skills for Innovation (インテル® SFI) は、未来の職場で活躍するために不可欠なスキルセットとマインドセットを備えた、子どもたちを育成することを目的としています。インテル® SFIのフレームワークは、これらの能力を培う実践的な教材と教育者のための研修プログラムを通じて、STEAM教育を豊かにするサポートを提供します。

インテル® SFIの教員研修プログラムは、テクノロジーをただの道具としてではなく、子どもたちの創造力や批判的思考力を伸ばすための強力な支援者として活用するべきだという考えのもと、生徒たち一人ひとりが新しいアイデアを生み出し、未来を形作る能力を身につけられるような授業作りをご支援します。

全12名の参加教員たちは意欲的で、講師の話に真剣に耳を傾けながらも活発に意見を交わしていました。実際に3D地形教材を操作する場面では、切り出した3D地図を画面上でクルクルと回しながら「すごい!」「おもしろい!」と感嘆の声を上げる参加者も。

高負荷がかかるソフトウェアを使用する場面でも、フリーズやカクツキもなく、研修はスムーズに進行。参加教員たちは、ハイスペック端末ならではの滑らかな操作性を実感しながら課題に取り組んでいました。ノートPCでもこれだけのスペックを搭載できるうえに、持ち運びも可能という利点を活かし、互いに画面を見せ合いながら楽しそうに受講していたのが印象的でした。

今回の研修で使用した3DCGソフトウェアBlenderは、一つのソフトでさまざまなことができる便利なものですが、快適に使うにはスペックの高いパソコンが必要になります。クリエイティブワークにもぴったりな高い性能と安定稼働、そしてモビリティを備えたエプソンダイレクトのPC「Endeavor NJ8000E」が採用されたのも頷けます。

「WordやExcelなどのよく普及しているソフトウェアを使用していると、ワンランク上の端末を使用することで感じられる新たな学びを体感することは難しいです。今回は、汎用性のあるウェブサイトから専門的な3Dデータを編集するソフトまで、できることの柔軟性が異なるものを体験してもらいました。参加教員の方々には『こんなこともできるんだ、じゃあ自分の授業だったらこう使えるかな』と、どんどん想像してほしいですね」(小倉先生)

ICTのワクワク感を教員自身が味わっている様子からは、近い将来、授業がアップデートされて子どもたちに還元されていくような期待感が伝わってきました。

小倉先生:この研修を通して、先生方が3Dデータの閲覧や編集に対して、非常に「楽しく」取り組んでいる様子が伺えました。また、グループに分かれて、先生同士のフィードバックの機会を多く設けたこともこの研修のポイントでしたが、お互いの成果物を見ながら「どんなことができるのか」「どうすればよりわかりやすくビジュアライズできるのか」を本気で議論する場を創出できました。先生たち自身が教材を活用することに没頭することで、3Dデータを通して自己の考えを効果的に表現することができたと思います。

STEAM教育の浸透を目指して。インテル×エプソンダイレクトの取り組み

今回の教員向け研修は、兵庫教育大学の教育現場の課題解決への取り組みに対して、インテルとエプソンダイレクトが連携・協力し開催されました。
兵庫教育大学とエプソンダイレクトは、生徒たちの好奇心を刺激し創造性を引き出すための先進的な学びの場として、2022年兵庫教育大学附属小学校・中学校で開設したSTEAM Labでの環境構築をきっかけに共創関係が続いています。その際設置されたのは、エプソンダイレクトの「ST50(ウルトラコンパクトPC)」と27型ディスプレイ。生徒の興味への探究が実現できるICT環境を目的にPC機種選択を行い、環境が構築されました。

今回の取り組みは、STEAM教育の教育人材の育成を目的としてスタート。STEAM教育をしっかりと普及させるためには、環境面の整備だけではなく、正しい知識と認識を持った教員が増えること、つまり人材面の整備も重要だからです。

先述の通り、インテルが教育用フレームワーク「インテル® Skills for Innovation」の運用指導を行い、端末はエプソンダイレクトの高性能ノートPC「Endeavor NJ8000E」が採用されました。

小倉先生のお話にもあったように「普段使っている端末よりも性能が良い端末がどのような活用可能性を有しているのか身をもって体感してみる」こと、「参加教員同士が画面を見せ合ってコミュニケーションを取れる」ことなどの要素が当てはまる上で、過去の取り組みの実績を鑑みて、エプソンダイレクトのノートPCを採用したそうです。

「まずは教員が率先して楽しみながら、STEAM教育におけるテクノロジーの有用性や魅力を発見し、その体験を通じて、より効果的かつ創造的な授業をデザインし、生徒たちの未来に繋がる新たな学びの扉を開いてほしい」との想いを込めて、生徒だけでなく、教員も主役となる学びの進化を共に築き上げるため、両社は取り組みを続けています。

STEAM教育実現の鍵は、新時代の担い手を育成する教員が握っている

今後AIやIoTといった技術はさらに進展し、社会が激変していくのは間違いありません。そのような時代においては、ICTを活用してさまざまな情報を統合し、課題の発見・解決や社会的な価値の創造に結び付けていく資質や能力が、今まで以上に必須となるでしょう。

そういった人材を育成するには、「教える立場の教員が教科・科目の垣根を取っ払い、柔軟な思考でマインドチェンジしなければならない」と、小倉先生は指摘します。

「深く考察してもらうにはどのようなツールを使うべきなのか、子どもたちにとっての最適解を伝えられるように、教員はICT活用の可能性を幅広く知っていただきたい。そのためのサポートは惜しみません」(小倉先生)

2020年からは小中学校でもプログラミングの授業がスタートしており、2025年には大学入学共通テストの受験科目にも「情報」が追加されます。国もDXハイスクールを行うなど、早期デジタル教育を加速する動きは今後も増えていくと考えられます。

そのなかで、ますます重視されるSTEAM教育の普及。学校は、教科書の内容を教える場所から、実社会での活用を見据えた知識の学習・体験の場へと変わっていくでしょう。STEAM教育の普及によって、これまで以上に教育と社会が密接に結び付いていくはずです。そしてその鍵は、新時代の担い手を育成する教員が握っています。教員が最先端のICTを体感できる機会を設け、授業をアップデートしながら子どもたちに還元できる流れを作る。それができればSTEAM教育は浸透し、ひいては社会課題や地域課題の解決に大きく貢献するのではないでしょうか。

兵庫教育大学の取り組みを詳しく見てみる

■ Information

「Endeavor NJ8000E」/エプソンダイレクト

NVIDIA® GeForce RTX™ 4070 Laptop GPUと第13世代インテル® Core™プロセッサー

進化したテクノロジーを凝縮し、高性能と安定性を両立した16型WQXGAのハイスペックノートPC。3DCG制作やゲーム開発などのクリエイティブワークにおいて求められる高い処理能力を実現。さらに、高度な冷却機能を搭載しているため、高負荷な作業中もPCを安定して稼働することができるノートPCです。

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インテル® Skills for Innovation

インテル® SFIのフレームワークは、米国をはじめとする世界60か国以上で展開されており、課題解決型学習や科学や芸術などを横断的に学ぶ「STEAM教育」の推進に貢献しています。子供たちが、日々テクノロジーが進化するこのデジタル社会に柔軟に対応し、課題解決に必要となる深い思考と学習の力を伸ばすことを目的として、教員の皆様の実践的な授業デザインを支援しています。

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[PR]提供:エプソンダイレクト