文明の進化と環境の保全は、これまでトレードオフの関係にありました。しかし、そうと割り切っていられない時代に突入し、製造業には環境保全が求められるようになっています。

実は、20年も前から環境に配慮し、サステナブルな取り組みを行なっている工場が三重県亀山市にあります。「世界の亀山モデル」で名を馳せた、家電メーカー・シャープの亀山工場です。

2020年10月にディスプレイデバイス事業を担う「シャープディスプレイテクノロジー株式会社」に分社化し、現在はスマートフォン、タブレット、パソコン、車載機器などに使用される最先端の液晶ディスプレイを開発・製造しています。

今回は、亀山工場のサステナブルな取り組みについて取材しました。

自然環境への影響を最小限に。亀山工場が続けるサステナブルな取り組み

取材を受けてくださったのは、シャープディスプレイテクノロジー株式会社・亀山UTTサービス部に所属する白瀧勝さん、太田祐希さん、松江駿さんの3名です。

白瀧さんは入社31年目の大ベテラン。「亀山工場立ち上げプロジェクト」にも加わり、亀山工場を支えてきました。ISO14001事務局を運営し、環境関連法規制に関わる取りまとめや環境社会貢献活動を手がけています。

2005年入社の太田さんは、白瀧さんと共にISO14001事務局に携わった後、2017年からはカメラモジュールや車載機器の製造に必要な電気、空調などを供給するUTT工事を担当。現場の担当部門と連携し、より環境に配慮した設備を導入することで、製造段階から工場の省エネ化を推進しています。

2018年入社の松江さんは、液晶ディプレイの製造時に発生する純排水を回収する設備や産業廃棄物の処理委託先を適正に管理。全国に点在する処理委託先には年に一度の視察が法律で義務付けられているため、日本中を駆け回っています。3名とも、亀山工場やその周辺の環境を守ることが課せられたミッションなのです。

そんな彼らが働く亀山工場は、豊かな美しい自然に囲まれています。工場のある場所は、木々が生い茂る森だったと白瀧さんが教えてくれました。

地元の住民の方々も工場の建設に不安を感じられていたと思います。

そのため、できるだけ環境負荷を少なくすることをコンセプトに掲げ、亀山工場は設計されました。


工場を造ると、どうしても環境に負荷をかけてしまいます。しかし、シャープは「仕方がない」とはしませんでした。地域との共生を図り、自然環境への影響を最小限に抑えなければならない。そう考えたのです。亀山工場は、2004年1月に操業を始めて以来、サステナブルな取り組みを継続しています。

中でも画期的だったのが、世界最大規模を誇った「太陽光発電システム」の設置です。

当時の規模は世界最大級!屋上や壁面、池にも太陽光パネルを設置!

亀山工場を訪れると、正門前の壁面に設置された太陽光パネルが目を引きます。

これは「世界の亀山」の代名詞ともいえる液晶テレビ「AQUOS」をイメージしてデザインされたもの。屋上には約30,000枚もの太陽光パネルが設置され、工場全体で小さな街の消費量に匹敵する5,500kwを発電しています。

今でこそ太陽光発電は普及していますが、2006年3月に発電を開始した頃はあまり例がありませんでした。


さらに、工場に隣接する亀山市所有の調整池を有効活用するため、フロート型の太陽光発電を先駆けて導入しました。これにより、水質改善やアオコの発生抑制につながっています。こちらも当時は世界最大級の大きさでした。

  • 調整池に2枚浮かんでいるのがフロート型の太陽光発電システム

大規模な太陽光発電については設置実績がなかったため、パネルをくっ付ける架台の組み合わせや配線にはとても苦労したと聞いています。

また、これほどの規模ですので、さまざまな自然条件で破損した際のメンテナンスも大変です。いろいろなアクシデントに見舞われました


調整池にあるフロート型の太陽光発電にトラブルが起きたときには、ボートを出して修理に向かうそう。設置にもメンテナンスにも多大な手間がかかるにも関わらず、世界最大級に果敢に挑戦したところにシャープらしさを感じると白瀧さんは笑います。

どうせなら世界一を」という“シャープ魂”が垣間見えました。

地域と一体になって環境を守る!「地域との共生」は操業当初から不変の理念

そして、地域と積極的に交流しているのも亀山工場の特徴です。これは「地域との共生は不可欠」との操業当初からの理念に基づくもの。地域と一体になって環境を守ろうとする強い意志が感じ取れます。

亀山工場は、国土交通省や亀山市が主催する清掃活動や、「夏のエコフェア」「みえ環境フェア」といった環境イベントに定期的に参加。他にも、亀山市内の中学校で環境出前授業を実施しています。

  • 夏のエコフェア2019の様子

リサイクルやエネルギーをテーマに実験を交えた授業は好評です。

亀山市の教育計画に盛り込まれており、10年ほど続いています


  • 出前授業の様子。生徒たちからも好評なのだとか

この環境出前授業を受けた生徒が、後に亀山工場に入社したこともあるのだとか。まさに地域との共生を印象付けるエピソードです。

ただ、ここに至るまでには少なからず苦労がありました。

先ほども申し上げた通り、工場の建設に対して当初は不信感を持たれていました。

清掃活動や環境イベントに必ず参加するようにしたのは、地域の方々に私たちの考えをご理解いただくためです。


  • 河川敷のゴミ拾いを行う「川と海のクリーン大作戦」

白瀧さんらは、地域との接点づくりにも力を注ぎました。そのひとつが「かめやま会故の森(エコの森)」です。

「かめやま会故の森」とは、自然とふれあう憩いの場や森林環境学習の場として利用できるよう、シャープと市民、行政が協働して整備した森のこと。2008年に活動がスタートし、10年が経過した2018年に一旦終了を迎えましたが、地域とのコミュニケーションを深める機会となりました。

活動開始時から携わっていた太田さんも手応えを感じていたと振り返ります。

  • かめやま会故の森での植林活動の様子

日を追うごとに地域との距離が近づくのを実感していました。

工場の取り組みを紹介する「環境サイトレポート」を通じて発信しているのですが、いつからか一方通行ではなくなり、いろいろな情報をいただけるようになったのは、その象徴だと思います。


ちなみに、このサイトレポートにもこだわりがありました。

私はサイトレポートの廃棄物に関する内容を担当しているのですが、なるべく専門用語は使わず、地域の方にもわかりやすい文章を作成するように心がけています。


こういった小さな積み重ねが功を奏したのでしょう。

白瀧さんは亀山市の環境部会に名を連ねていますが、同じメンバーの市民から「これからも一緒にやっていきたい」といわれ、嬉しかったといいます。亀山工場と地域との共生は、こうして醸成されていったのです。

より安心安全な工場を目指して。サステナブルな取り組みは加速する

とはいえ、世の中の環境意識は高まるばかり。白瀧さん、太田さん、松江さんは、それぞれの持ち場でさらなる高みを目指したいと語ってくれました。

純排水処理によって発生する廃棄物をさらに削減したいと考えています。ひとつは、排水の薬液成分を減少させること。もうひとつは、排水処理の適正管理の見直しです。

もちろん現状でも問題はありませんが、より良い処理工程を常に模索し、より安心安全な工場にしていきたいです。


UTT工事を担っておりますので、今後も現場の担当部門と連携しつつ、設備を導入する前の段階から省エネや廃棄物削減に努めていきます。

設備を導入してしまえば5年~10年使われますので、いかに導入前に環境に配慮した仕様にできるかが重要と捉えています。


社員に憩いの場を提供できればと思い、2010年度から工場の敷地内にビオトープ(生態系を再現する緑地)の整備を進めています。そこでは三重県の絶命危惧種である「ヤリタナゴ」を飼育しています。

安定的に繁殖させて、もともと棲息している川に放流し、亀山市の生態系の維持にも貢献したいですね


「世界で初めて、液晶パネルから液晶テレビまで一貫して生産する工場」として脚光を浴びた亀山工場。地域と共生しながら環境に配慮するサステナブルな取り組みの数々に、再び熱視線が注がれそうです。

シャープ工場のエコな取組一覧はこちら

Photo:ビレッジピクス

[PR]提供:SHARP