デジタルトランスフォーメーション(DX)を実現してイノベーションを創出するには、最新技術を採用したITインフラの活用が不可欠です。2021年6月15~18日に開催されたオンラインイベント「Lenovo Tech Week Spring 2021」では、企業のITプロフェッショナル/ITリーダーに向け、レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ(以下、レノボ)が展開する最先端のテクノロジーやソリューションの魅力が解説されました。本稿では、トヨタ自動車株式会社と理研計器株式会社の事例をレポートしていきます。

事例1. トヨタ自動車株式会社

3D CADが使えるVDI環境を構築して設計開発部門の“働き方改革”を実現

全社的な働き方改革を推進しているトヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)では、設計開発部門の働き方改革にも取り組んでいます。ところが、3D CADを使った設計作業にはGPUを搭載した高性能ワークステーション端末が必要なこともあり、会議室や工場の現場、出張先、自宅などでの業務に対応できない状況でした。そこで同社では、GPUを搭載したレノボのHCI製品にニュータニックスのソフトウェアを統合した「Lenovo ThinkAgile HX」を導入。3D CADソフトウェアが動作するVDI環境の構築に着手し、OA用の端末から設計作業が行える環境を実現しています。

ここではDX開発推進部の孝久正信氏、井川幸一氏、稲垣知大氏、青山由美子氏の4名から、VDIの導入を検討している企業担当者にとって興味深い話を紹介しましょう。

実際にVDI環境で3D CADソフトウェアを使用したエンジニアによると、社内利用で約9割、在宅での利用では約8割が快適に使えたとのこと。青山氏は「利用者のOA用パソコンに画面を転送するという仕組みのため、どうしても物理端末に比べて操作のレスポンスが遅れることもありますが、大きなデータを扱う、1日中CADを使うといった一部の利用者を除くと、おおむね快適に利用できています」と、手応えを口にします。

自席だけでなく会議室や現場、出張先などで3D CADを扱えるようになったことで、CADデータを見せるための資料作成が不要になったり、現場でCADを使った議論が行えるため持ち帰りが減ったりするなどの効果が出てきているといいます。

  • VDI環境でスムーズに3D CADが動作していることが実際の画面で確認できた

    VDI環境でスムーズに3D CADが動作していることが実際の画面で確認できた

コンピュータリソースに余裕が生まれ、稼働時間中の重複排除処理にも対応

利用状況やパフォーマンスについて、井川氏は「ログインは朝の8~9時にかけてがピークですが、管理サーバーのストレージ遅延時間はログイン数に影響されておらず、一日中低負荷の状態で推移しています」と語り、VDIサーバー1クラスタのストレージ遅延時間はしきい値以下で推移、安定して性能が発揮できているといいます。

  • 「VDIサーバー、1つのクラスタのストレージ遅延時間の事例(日当たり)」のグラフ

    グラフは「VDIサーバー、1つのクラスタのストレージ遅延時間の事例(日当たり)

同社では、20サーバーを1クラスタとし、クラスタごとにコンピュータリソースを監視しています。井川氏は、VDIクラスタのCPU負荷についてこう語ります。

「CPUの利用率はオーバーコミット200%を設定し、稼働率80%という状況のなかでもCPU利用率は平均40%と低く抑えられています。グラフの中で利用率が上がっている11時と16時はニュータニックスの重複排除を実施している時間ですが、処理を実行していてもCPU負荷は80%以下に収まっています」

  • 「VDIクラスタのCPU負荷の事例(日当たり)」のグラフ

    グラフは「VDIクラスタのCPU負荷の事例(日当たり)

いまでは導入当初に感じていた“若干の遅さ”も解消。ネットワーク設定で帯域に合わせて上限を変更したり、画面転送量が減るようにOSのアニメーションなどを抑止する設定を行ったりし、細かなチューニングで最適なバランスを見出したといいます。

3D CAD環境を皮切りに、すべての技術部門に“働き方改革”を推進していく

トヨタがVDI環境にLenovo ThinkAgile HXシリーズを採用した理由は、ニュータニックスの多様な機能が実現する「性能と安定性」と井川氏。実際に、同製品を導入してから大規模な障害は一度も発生していないとのことです。

稲垣氏は、今後の展望についてこう語ります。 「工場の現場や会議で使いたいといったニーズが多かったため、CADを優先してVDI化してきましたが、現在はCAEユーザーの働き方改革も進めているところです。CAEはCADよりも高性能な端末が必要なこともあり、レノボさんが安価で安定した高スペックなシステムを提供してくれることを期待しています」

ThinkAgile HXで構築したVDI環境で、設計開発部門の働き方改革を強力に推進するトヨタの取り組みは、HCI、VDIの導入を検討している企業にとって重要な“気づき”を与えてくれます。孝久氏は次のようなメッセージを送り、セッションを締めくくりました。

「高性能端末を使用する業務では働き方改革が遅れている傾向がありますが、今後は専門領域においても働き方を変えていかないと競争力を失うことになると考えています。VDIを導入することで、いまの業務をどう変えていけるか、どれだけ生産性が向上するのかを意識することが大切です。ユーザー部署への押しつけにならないように、協力できる関係を構築して導入を進めていくことが重要と考えています」

事例2. 理研計器株式会社

業務/バックオフィス/管理システムすべてをHCIに集約、理研計器がシステム刷新で得たものとは

続いては、国内最大の産業用ガス検知・警報器メーカーである理研計器株式会社(以下、理研計器)の事例を紹介します。同社では社内のシステムを3Tier(3層構造)のインフラに構築した仮想基盤上で運用してきましたが、製品の保守切れを機にHCIへの移行に着手。そこで採用されたのが、Lenovo ThinkAgile HXでした。同社 管理本部情報システム課の木村公胤氏は、構築したシステム構成についてこう解説します。

「本番サイトとDRサイトに、それぞれ7ノードのLenovo ThinkAgile HX3320を導入しました。基幹システム、ガス検査システム、在庫管理システム、会計システムなどの業務系システムから、社内ポータル、証憑管理、勤怠システムなどのバックオフィス系システム、サーバー稼働監視、Nutanix管理、Office 365連携、バックアップ管理といった管理系システムまで、当社の大きなシステムはすべてNutanix上で稼働しています」

  • 理研計器株式会社 管理本部情報システム課 課長 木村公胤氏が解説するシステム全体構成図

    理研計器株式会社 管理本部情報システム課 課長 木村公胤氏が解説するシステム全体構成図

HCI導入プロジェクトが始動したのは2019年11月で、2020年9月には本番稼働を開始。木村氏と同じく今回のプロジェクトに携わった吉田圭佑氏は、現在の利用状況についてこう語ります。

「ニュータニックスのマルチクラスター管理ツール『Prism Central』で利用状況を可視化しています。CPU使用率は13.2%とかなり低いですが、今後も多様なサーバー/システムを稼働させる予定のため余裕を持たせています。メモリに関しては若干使用率が高くなっていますが、これはスモールスタートにより、現在稼働しているサーバーに必要なだけのメモリ容量にしているためで、想定どおりの状況といえます」

  • 理研計器株式会社 管理本部 情報システム課 吉田圭佑氏は「Prism Central」で現在の使用率を可視化

    理研計器株式会社 管理本部 情報システム課 吉田圭佑氏は「Prism Central」で現在の使用率を可視化

3Tierと比べて劣っている部分は見当たらず、管理・運用の負荷も大幅に軽減

木村氏は「実際に導入する前は、専業のストレージを採用した3Tierに比べてパフォーマンスに不満を感じるのではと心配していたのですが、実際に使ってみるとバッチ処理は速く、バックアップも取りやすいなどメリットが満載で、3Tierのほうが優れていると感じた部分はありませんでした」とHCIの強みを実感しています。

本格稼働から9カ月が経過していますが、大きなトラブルは皆無で、運用・管理面での負荷も大幅に軽減。「以前はシステムの遅延が発生しても、要因が特定できずに対応が遅れるケースがありましたが、現在はレノボに『何か動きがおかしい』と連絡してログなどの情報を提示すれば解決できるので安心感があります」と、木村氏は評価しています。

また、大容量データを扱う際に重要となるバックアップは別拠点に設置したテープ装置へのバックアップとサーバー上にデータを保存する2つの手法を採用。DRサイトも社内の担当者だけで稼働可能なことが確認できたといいます。3Tierで運用していた際には企業としてDRをどのように活用していくかの方針が決まっておらず、災害時の迅速な復旧などに対応できていませんでしたが、HCIの導入により、こうした課題も解消されています。

HCIの導入でIT部門の“働き方改革”を実現、休日を休日として過ごせるように

Lenovo ThinkAgile HXを導入したことで、理研計器のIT部門における働き方改革は大きく進みました。以前は長期の休みがある時期にファームウェアのアップデートを行い、お盆や正月、GWなどに出社するケースも少なくありませんでした。いまはDRサイトでアップデートを実施して問題がないことを確認後、Nutanixの機能を使って稼働中にアップデートを実施することで、休日に作業する必要がなくなったといいます。また同社の開発センターでは、年1回の停電時にサーバーのシャットダウンを行いますが、HCIに切り替えてから終了・再起動の時間が以前の1/3程度になり、IT部門の負荷が大幅に軽減されました。

Lenovo ThinkAgile HXを導入したトヨタ、理研計器の“生の声”を聞くことができた本事例セッションは、HCIを活用してITインフラのモダナイズを図りたい企業担当者にとって有益な情報が満載でした。両社の今後の展開にも注視していく必要があるでしょう。

[PR]提供:レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ