昨年末、第2回 全国高校eスポーツ選手権が終了した。高校生たちの“アオハル”とも言える、数々の熱い戦いが繰り広げられた今大会。その中で、目覚ましい成長で決勝戦まで勝ち残り、視聴者を沸かせたチームがいる。それが、クラーク記念国際高等学校 秋葉原ITキャンパスのチーム「YuKi飯食べ隊」だ。

  • クラーク記念国際高等学校 秋葉原ITキャンパス eスポーツ専攻メンバー一同

部の発足2年(現在は専攻)でリーグ・オブ・レジェンド(LoL)部門の決勝まで勝ち進んだ彼らだが、発足当初、チームメンバーの中にLoLの経験者は数人(1~2人)しかいなかった。

そんな彼らがなぜ、ここまでの急成長を遂げたのか? 居ても立ってもいられなくなった筆者は、実際に彼らの練習場へと足を運び、「急成長の秘密」を探ってみることにした。

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  • 今回躍進の大きな礎となった、左からeスポーツ専攻 顧問の笹原先生、YuKiコーチ、SeSamiコーチの3名にお話を伺った

――まずは第2回 全国高校eスポーツ選手権の準優勝おめでとうございます。キャリアが短い中、大躍進だと思いますが、選手たちの成長をどのように感じましたか?

SeSami:2年前にクラーク高校にコーチとして就任して彼らの姿を見てきましたが、初めに見た姿と今の姿は天と地の差がありますね。そう思えるぐらい彼らは成長したと実感しています。ゲームのプレイもそうですが、それ以上に人として成長していることがうれしく感じています。「League of Legends(LoL)」に必要なチームワークを通じて、人間性にもよい影響があったのだと思います。

YuKi:私はSeSamiさんから1年遅れて入ってきました。元プロプレイヤーとして彼らを1年間見続けてきて、結果的に前回大会では実力と経験の差で負けてしまった。しかし、そんな中でも彼らのベストプレイを見ることができ、あれができるのであればまだまだ成長できるでしょう。「もうポテンシャルしかない!」、そんな気持ちですね。

eスポーツ専攻 顧問の笹原先生

笹原:僕はこの学校の教員として彼らを見守ってきました。このチームが出来上がった当初には、人前で話すこともできなかった生徒たちが今ではインタビューではっきりと受け答えをしている。その姿を見ただけでも、いろんな人とのコミュニケーションによって友達も増え、成長してきたんだなと思いました。

「人はゲームを通じて成長することができる」ということを、まさに彼らから教えてもらっている最中です。1年でこれだけ人として成長できるのですから、来年にはもっと成長した姿が見えるのかなと思っています。


――発足して1年ぐらいだと聞いていますが、それでいて全国大会で2位というのは快挙だと思います。このチームが出来上がった当初に準優勝まで行けると思っていましたか。

SeSami:eスポーツのプレイヤーは高校生や若い子たちを中心に右肩上がりで増えてきていると思います。しかし、実際にはプレイヤーは増えても、教えられるコーチがまだ日本には全然いないというのが現状なんです。今回の大会を見ても専属のコーチがいる高校はほとんどありませんでした。僕とYuKiコーチはそんな日本の現状にあって先駆けとなると思っていますから、逆に「決勝まで行けなかったら恥ずかしいね」なんて話もしていました。

YuKi:確かにその通りです。正直言うと専属のコーチがいるチームということで負けてはいられないという気持ちはとても強かったです。生徒たちを成長できるように導きながらも、私たちも精一杯頑張らないと、という気持ちでいっぱいでした。

笹原:クラーク高校に「eスポーツ専攻」が発足した時には、特別に勝つことを目標としていませんでした。プロを育てる場所ではないので求めているものがちょっと違うと考えていたんです。

しかし、第1回 全国高校eスポーツ選手権に出て悔しい思いをした時に、やはりスポーツというからには本気でやらないと意味がないということに気づきました。それからは選手達にも厳しく教えるようにしたので、今回の決勝進出というのは僕としては想定内で、申し分のない結果だと思っています。ただし、あと1歩でトップを取れなかったのはチームとしての弱さでもあるし、個人個人の弱さでもあるということがわかったと思います。後はその1歩を詰められる人間になってくればうれしいですね。

――クラーク高校では、eスポーツの専任コーチによる授業をされていますが、やはり特別なカリキュラムとか教え方があるんでしょうか。

SeSami:eスポーツ先進国のアメリカ、ヨーロッパ各国、韓国や中国では様々なタイトルマッチがあって、選手を育てるカリキュラムにしてもきちんとしたマニュアルが存在していますが、日本にはまだありません。なので先進国が使っているマニュアルを入手して、それを僕等風にアレンジしてなんとかカリキュラムを作っていきました。

eスポーツ専攻の専任 YuKiコーチ

また、メンタルを鍛える取り組みとして、毎日の授業の始まりの時に瞑想をして集中力を高めるといったこともやっています。

YuKi:僕はアメリカ育ちなのですが、アメリカではeスポーツは高校でも部活として認められていて、そこで学んだことやプロとして戦っていた頃の経験を彼らに伝えています。

また、僕自身がプレイヤーだったので、場面場面での生徒たちの気持ちを理解することができる。それを踏まえて、彼らの成長に合わせて授業内容を考えながら、わかりやすく教えることに努めています。

――ゲームは真剣勝負ですからメンタルもとても重要だと思います。まだ若い高校生の彼らには大人の支えが必要だと思いますがその辺はどのように意識していたのですか?

笹原:僕はプレイヤーだったわけではないので、技術的なことは教えられません。だからこそ、僕自身もゲームを始めて共通の話題を保つように努力し、実際にやってみないと分からないこともたくさんあり、一緒にゲームを学びながら距離が近づいていくのを感じました。

高校生という不安定な時期に、心が揺れることが多いのは当たり前です。選手たちも試合前にご飯が食べられなくなったり、不安になったりする面もあります。けれど彼らには自信を取り戻せるだけの“絶対の練習量”があります。それがある限り必ず乗り越えられるので、これからも彼らと寄り添いながら、やる気を引き立てる働きかけができればと思っています。

――eスポーツはオフラインでも出来てしまうスポーツですが、そんな中でなぜ「eスポーツ専攻」を発足し、活動していこうと思われたのでしょうか。

笹原:もちろん、きっかけは全国高校eスポーツ選手権に参加するためでした。eスポーツ部発足支援プログラムもありましたし。しかし、それだけではなく、生徒や私たち皆がひとつのチームとして「大きな目標に向かって努力をする」ということを同じ空間、同じ温度で経験する。他の部活動では当たり前のことですが、その事自体が生徒たちにとって、大事なことだと考えています。また、大会に参加したことで、多くの人に支えられてeスポーツを行なっていると再認識したり、多くの人に感謝することを学ぶことが出来たと思います。

※eスポーツ部発足支援プログラムとは……ゲーミングPCや回線の貸し出しを行うサービスで、サードウェーブが高校におけるeスポーツ部発足やeスポーツを楽しみたい高校生を支援するために行っている。

eスポーツ専攻の専任 SeSamiコーチ

SeSami:実際に顔を合わせるからこそ、通じる思いや意図もありますよね。電話やメール、SNSのようにオンライン上では分からない、分かりにくい問題を直接会うことで解決できます。また、部活の一環としてプレイすることで、ゲームに対するオン・オフのメリハリをつけられるのも良いですね。

YuKi:一人ひとりが努力や根性を磨くことも大切ですが、チームゲームに必要なスキルは1人では学べません。それが実際に集まることによって、「画面越しには自分みたいな本当の人間がいるんだな」ということを実感でき、信頼関係とモチベーションが高い環境を作りやすくなると思います。私自身講師の立場から、対面することで生徒の反応がすぐわかるので、理解度も把握でき、より効果的なコーティングが出来ていると感じます。

――では今後の展望を伺いたいのですが、次の大会への準備はもう既に始めていますか。

SeSami:まず去年1年頑張れたのは第1回大会の時に3回戦負けをした経験が大きかったと思います。 悔しくて今後のモチベーションのためにも、「決勝戦は見に行こう」と全員で行ったのですが、その決勝戦で他校の選手たちが精一杯戦っている姿に皆が感動して、次の大会では必ずあの場所に立とうと約束をしました。

一応その約束は果たすことができましたが……あと1歩が足りなかった。しかし今度はその経験から、優勝するのに必要な実力というものが確実に見えました。これから毎日練習を積み上げて、その高みに到達できるように頑張っていこうと思います。

YuKi:まず前回大会で準優勝したことはとても良かったと思いますが、そこで満足はしてほしくないんです。今のところ年間に開催する高校生の全国大会は、それほど多くないので、次の大会までのモチベーションをコントロールし続けるのはとても大事なことです。

努力とは継続ですから。授業で教えたことは2週間程度は覚えていても1カ月経つと忘れてしまう。 1度やったことをしっかり身につけさせるにはどうすればいいか、それは僕の課題でもありますね。しっかりルーティンを作って、選手たちが頑張れるようにレベルアップさせていきたいです。

  • YuKiコーチは大会での悔しさを忘れないように、会場でもらえるリストバンドを肌身放さず持っているそうだ

笹原:次の大会という意味だけでなくクラーク高校を常勝校にしたいという思いがあります。よその学校もそうですが、まだ大会を始めてから間もないのでその時優勝しているチームというのはたまたま強いメンバーが集まったという高校が多いはずです。クラーク高校もeスポーツ専攻ができて間もないため、今年の1年生の世代からが本当にゲームがやりたくて集まったメンバーになるのだと思います。彼らが思う存分活躍できるような環境づくりをするのが僕の役目だと思っています。

――最後にeスポーツに取り組んでみたいと思っている学校や生徒たちに向けてアドバイスをお願いします。

SeSami:eスポーツは普通のスポーツと同じで通じるものはたくさんあると思います。例えば「努力する」、「一生懸命取り組む」、「本気でやる」といった姿勢はeスポーツでも、とても重要な要素です。そこにはいろいろな感情があり、怒るときは怒るし、喜ぶ時は皆で喜ぶ、辛いことがあれば皆で乗り越える。そういった当たり前のことができるように取り組むと良いと思います。

YuKi:eスポーツがやりたいと思う学生がいても学校が了承してくれなければ進みません。せっかく子供達がやる気になっているのですから、大人として1度はチャンスを与えてあげてほしいなと思います。eスポーツは日本の社会にとってはまだそれほど良いイメージはないのかもしれません。

しかし、1度取り組んでみてもらえれば真剣な競技であることが理解できると思います。まずは恐れず始めることが大事です。また、やりたいと言っている生徒たちもそれに応えられるように、常に真剣であるところを大人達に見せて結果を残してあげることも大事ですよ。

笹原:部活動を通してeスポーツに触れることで、高校生たちが得られる経験は非常に大きいと思います。eスポーツに取り組む上で一番のネックであるゲーミングPCも、スポーツ部発足支援プログラムなどを利用しレンタルすることが出来ます。僕たちもこれによって、多くの人々に活動を見てもらい、スポーツとしての認知を広めることができました。そういったものも活用しながら少しずつ広げていくのが良いのではないでしょうか。

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なお、インタビュー当日は他校との練習試合も行われたため、eスポーツに取り組んでいる生徒たちにも話を聞くことができた。今まさにプレイヤーとしても急成長中の彼らのリアルな心境を続けて紹介しよう。