カシオの「G-STEEL(ジー・スチール)」といえば、G-SHOCKシリーズの中でもベーシックな日常使いを想定した人気のモデル。過酷なステージやファッション、カルチャーといったシーンはもちろん、より一般的な、たとえばビジネススーツに合わせても違和感のない、都会的なメタル外装とアナログフェイスが、大きな支持を集めている。中でも注目作は「GST-B100」。G-STEELシリーズ初のフルアナログクロノグラフであり、「OCEANUS」や「EDIFICE」でも好評の「Connectedエンジン」を搭載。Bluetoothによるスマートフォン連携が可能だ。しかも、G-SHOCK初のカーボンファイバー製ベゼルを装着したモデル「GST-B100X」がラインナップに加わった。今回は、このカーボンファイバー製ベゼルに注目。
このベゼルは、多くの先端材料を創出する東レとの共同開発により作られたものなのだが……カシオとしては、長年の末ようやく、といった技術なのだ。そこで、企画と開発を担当したカシオ計算機の齊藤慎司氏、田邉和幸氏とともに、東レの黒木基弘氏と中西祐介氏にお集まりいただき、その誕生秘話をうかがった。
10年以上前からあった「カーボン外装構想」
―― G-STEELの最大の特徴といえば、やはりベゼルですね。
齊藤氏:「G-STEELのベゼルは、異なる素材を重ねることで衝撃を吸収する「レイヤーガード構造」を採用しています。耐衝撃構造とともに、ベゼルの色と素材を変えることで豊富なバリエーション展開が可能で、ファッション性も高められるよう設計されています」
―― 従来のモデルではウレタン樹脂とステンレス・スチールが素材として使われていましたが、カーボンファイバーはいつ頃から素材候補に挙がっていたのですか?
齊藤氏:「G-STEELのベゼルは、どんな素材ででも作りやすいようにフラットな形状でデザインされています。実際、いろいろな素材を試してきました。カーボンファイバーも開発当初から候補には挙がっていたのですが、技術的な問題で採用は見送っていたんです。
それが、GST-B100がリリースされるタイミングで解決できそうだということになり、今回の採用に至りました」
G-SHOCKで初めてカーボンファイバー製ベゼルを採用した「GST-B100XA-1AJF」(80,000円/税別/左)と「GST-B100X-1AJF」(85,000円/税別/右) |
―― その「技術的な問題」とは何だったのですか?
齊藤氏:「主に耐久性ですね。実は、カーボンファイバーをG-SHOCKの外装素材として使う企画は、G-STEELの開発よりずっと以前、10年以上前からあり、まずはカーボンファイバーインサートバンドという形で商品化しました。ベゼルに使用するアイデアもずっとあったのですが、耐久性の問題などでなかなか実現しませんでした。
……ところがその後も、技術スタッフたちは諦めることなく、東レさんの『TORAYCA(トレカ)』や『NANOALLOY(ナノアロイ)』といった進化した素材や技術をきちんとチェックしてくれていました。我々商品企画としても、カーボンファイバーの外装を諦めていませんでしたし、タイミング的にも前述のレイヤーガード構造が誕生して、ベゼルも以前より作りやすくなっていました。それが2年ほど前です。多くの条件がいいタイミングで収束し始めたときに、東レさんに声をかけさせていただいたんです」
―― なるほど。つまり、いま名前が出た「TORAYCA」と「NANOALLOY」がGST-B100Xのベゼルに使われているというわけですね。簡単にどのようなものなのか、教えてください。
東レ スポーツ材料事業部 スポーツ材料販売第一課 中西祐介氏 |
中西氏:「TORAYCA」は東レの高性能カーボンファイバーです。軽くて強いという特性を持ち、スポーツ用品から航空宇宙用途、自動車などにも採用されています。(※詳しくはWebサイトにて)
一方、『NANOALLOY』は、複数の樹脂を混合し、最先端技術を使ってナノメートルレベルで分散させることで、樹脂の性能を上げる技術のことです(※詳しくはWebサイトにて)」
黒木氏:「TORAYCAとNANOALLOY技術を用いた樹脂を組み合わせることで、プリプレグというシート状の成型材料を作ることができます。このプリプレグを何層も重ね合わせ、加熱して固めると板状になる。そして、この板をベゼルの形状に加工していただいたというわけです」