日立製作所の人工知能技術「Hitachi AI Technology/H」

カシャ、カシャ、カシャとモーター音を響かせながら、人型のロボットが鉄棒にぶら下がり、両足をじたばたさせている。少しずつ動きが洗練され、振り子運動の幅が大きくなり、やがて、体操選手が大技を仕掛ける直前のような迫力になる。

大きく振り子運動をするマインドストーム

日立製作所の中央研究所には、レゴ ブロックでできたロボットが集まる「秘密基地」がある。いまAIに与えられたのは、「鉄棒ロボットの振りが大きくなるように漕ぎ方を工夫しなさい」という目標だけ。いつ、どんなタイミングで何をすればいいのか、振りの大きさをセンサーで検出しながら試行錯誤してコツを身に付けていく。同じAIをブランコのロボットに適用すれば、こちらもぎこちない動きから、やがて「前向きと後ろ向きのそれぞれの振りが大きくなったところで屈伸する」というコツを習得し、ダイナミックなスイングを実現する。



興味深いのは、それぞれのロボットの形や性能、重心がどこにあるのかといった事前知識はまったく与えていない点だ。ひとつのAIが異なる未知のシステムに対して、「振りを大きくせよ」という目標に向かって学習を進めている。日立製作所の人工知能技術「Hitachi AI Technology/H(以下、H)」の大きな特徴は、その汎用性にある。

日立製作所 理事 研究開発グループ技師長 兼 人工知能ラボラトリ長 博士(工学)の 矢野和男氏

「日立製作所はエレベーターからタービン、金融システムに鉄道、家電まで幅広く提供している総合電機メーカーです。特定のものだけに使える技術ではなく、コーポレート全体の売り上げ10兆円を成長させるようなテクノロジーを開発することが、研究開発グループのミッションです。汎用性がなければ日立には意味がありません」と、同社 理事 研究開発グループ技師長 兼 人工知能ラボラトリ長 博士(工学)の 矢野和男氏は話す。

13年前からビッグデータを活用するために開発が進められてきたHは、すでに14の分野、57案件で活躍している。コールセンターでは「休憩時間にみんなでもっとおしゃべりすること」という解答を導き出し、受注率を27%向上させたという。また、毎日何千件と出荷する物流倉庫の業務においては、集品のスケジューリングをすることにより、作業効率が8%向上しているそうだ。

日立製作所 研究開発グループ 基礎研究センタ 主任研究員 博士(工学) 松本高斉氏

マインドストームによる鉄棒やブランコのロボット実験は、こうしたHの機械制御分野での汎用性をさらに高めるために行われた第一歩だ。では、なぜマインドストームを選んだのだろうか。その理由について、同社 研究開発グループ 基礎研究センタ 主任研究員 博士(工学)の松本高斉氏は次のように語る。

「最初はマインドストームではなく、アルミなどでブランコロボットを作ることも考えていました。しかし、例えばブランコの長さを変えて実験する場合などにおいて、加工の手間がかかるアルミよりも、ブロックの継ぎ足し等で対応可能なマインドストームが手軽に思えたので、マインドストームを用いてロボットを作ることにしました。実験によっては、強度など、足りない部分はもちろんありますが、その場で手軽に作り替えられる点は、原理確認の簡単な実験を手早く行うのに適していると思います」(松本氏)

また、年に500回は人工知能の講演をするという矢野氏は、こんな魅力も説明する。

「マインドストームを使ったデモをお見せするようになったのは去年の秋からなのですが、聴講者への伝わり方がまるで違います。それまでは、AIが学習するという概念を説明したり、業務の改善事例を紹介しても、ピンときていない様子だったのですが、マインドストームがこぐブランコを見せた瞬間に、『ああ、こういうことが起きるのか。じゃあうちのシステムに導入したらどうなるのだろう』と、イマジネーションが沸き起こるんです。もう目の光が違います。動きが少しぎこちない分、けなげに見える点もよかったかもしれません」(矢野氏)

AIがこれまでのソフトウェアと根本的に違うのは、違うデータを入れたら違うロジックになるという点だ。会社によって事業内容や経営資源、制約や文化は異なるため、似ている問題を解こうとしても、違う答えが出てくる。生物が環境に合わせて進化していく過程で多様性が生まれたように、AIは経済社会にわくわくするような多様性をつくる仕組みなのかもしれない。


本稿で紹介しているマインドストームは、アフレルのサイトにてご確認いただけます。

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※C言語、Javaはもちろん、プログラミング未経験者用の専用プログラミング言語で動作可能。

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