3段階のM&A

―― HGSTやサンディスクを買収した狙いについてもう少し詳しく教えてください。

ジム・パスコー氏「ウエスタンデジタルは大きく3段階のステップで企業買収を実施しました。

第1段階は2008年~2012年にかけて行ったHGSTの買収です。事業の統合に関しては、中華人民共和国商務部(MOFCOM:国務院に属する行政部門)の指示に従い、ウエスタンデジタルとHGSTはそれぞれ独立したビジネスを展開していました。そして、2015年の10月に統合が承認されました。

第2段階は、2013年~2015年にかけて行ったスカイエラ(skyera)、エステック(sTec)、ヴィリデント(VIRIDENT)、ベロビット(VeloBit)、アンプリデータ(ANPLIDATA)の買収です。ベロビットは、ウエスタンデジタルとして初めてのソフトウェア企業の買収になりました。

アンプリデータはそれ以前から提携関係にありましたが、買収によってアンプリデータのソフトウェア・コンポーネントを、ウエスタンデジタルの『アクティブ・アーカイブ・プラットフォーム』に導入でき、大変戦略的な買収となりました。

そして第3段階が現在のサンディスクです。2015年秋に買収を発表し、2016年5月12日に契約を完了しました」

ウエスタンデジタルによる企業買収は大きく3段階で行われた。サンディスクの買収額はおよそ170億ドルといわれている

ジム・パスコー氏「企業買収の狙いは、顧客に対する付加価値の提供にあります。従来のウエスタンデジタル製品と技術に、新しい製品と技術が加わることによって、さらに新しい提案が生まれます。ビジネスの拡大やブランド価値の向上につながるわけです。

例えば、HGSTの買収によって、我々はアクティブ・アーカイブ・プラットフォームの提案が可能になりました。『アクセス頻度は低いが長期保管が必要なデータ』というものがあります。

アクティブ・アーカイブ・プラットフォームは、そうしたデータを効率的にアーカイブすることで、記憶領域の大容量化と高速な検索・読み出し(ランダムアクセス)の両立を可能にする仕組みです。成長の著しいソーシャルメディアサービスなどの大掛かりなオンラインビジネス企業から、データセンター向けに引き合いをいただいています」

HGSTの製品

ジム・パスコー氏「HGSTブランドで2014年から提供している『ヘリオシール(HelioSeal) HDD』も注目してほしい製品です(編注:ヘリウムガス充填HDD)。HDDの内部に、空気の代わりにヘリウムを充填させることで、内部の抵抗を減らし、集積密度の向上と記憶容量の拡大、放射熱の低下を実現しています。

ウエスタンデジタルのアクティブ・アーカイブシステムは、ひとつのラックで従来の5倍以上となる密度、容量にして10PB(ペタバイト)以上の容量を持つストレージシステムですが、このHDDが複数台搭載され、まさに基盤となっています。

また、サンディスクの買収は、ウエスタンデジタルの持つテクノロジーを多様化することに主眼がありました。具体的にはSSDとNANDです。サンディスクを買収する前、ウエスタンデジタルの収益におけるSSDとNANDの事業規模、およびHDDの事業規模は、7対93の比率でHDDに大きくかたよっていました。サンディスクを買収したことにより、この比率は35対65となり、非常に良いバランスになりました。

サンディスクはコンシューマー向けのSDメモリーカードやSSDのイメージが強いですが、データセンター向けの『InfiniFlash(インフィニフラッシュ)』という製品もあります。1GB当たりのコストが1ドル未満のオールフラッシュストレージです」