成否の境界線
──電王戦の話はこのくらいにして、コンピュータの活用について伺います。ふだんは、ガレリア電王戦をどんなふうに研究に使っているのですか。
普通に指すことはあまりなくて、自分の中で課題にしている局面を指定して入れるとか、自分が指した棋譜を最初から最後まで入れてみて検討させたりしています。課題局面は、自分が何も考えていない状態でソフトの手を見ても意味が理解できないので、まず自分でよく考えてから入れています。
──それは菅井竜也五段も同じことをおっしゃっていました。やっぱり自分で考えることが大事なんだと。
考えずに入れると、ソフトが示す手が普通なのかと思ってしまう。実際は人間の感覚とちょっと違うような手が多いので、先に見てしまうと自分の発想が出てきにくくなってしまうんですね。
──コンピュータが自分の読みと違う判断を下すことはよくあるんですか。
自分が考えた手より悪い手を示すことはほとんどありません。ただ、圧倒的に多いのが、自分の考えた手より〝いいのか悪いのか判断できない〟手。感覚的にちょっと指しづらいというか、自分としては認めたくない手です。
──豊島さんの将棋観にはない手なのですね。そのときはどうしますか。
その手をとがめてやろうと思って逆側を持って指し継いだりしてみるのですが、コンピュータにうまく指されるので、なんとなく納得させられてしまう。ところが、本当にその手が最善なのかを知るためにふだんの研究会で人間相手に試してみると、今度はなかなかうまくいかない。自分の感覚にない手を指すと、そのあと正確に指し続けるのが難しいんです。
──それって重要なことですよね。そういう感覚の手をどう自分の中に消化していけるが今後の課題になるかもしれませんね。
なんかモヤっとしたまま終わることが多いんです。でも、若いのでそういう感覚もちょっとずつ取り入れて自分なりに考えを深めていくと、少しずつ強くなれるのかなと思っているんですけど。
──ソフトの新手が話題になったりしていますけど、これは新しいなっていう手を、コンピュータと指してるときに発見したりしますか。
新しい手はいろいろやってきます。そういう手をふだんの研究会で試してみるのですが、自分が指すとあまりうまくいかないですね。そこをしっかり鍛えていかないと、実戦では使えません。コンピュータの新手は指しこなすのがすごく難しいんです。
──自分の棋譜も入れてみるとのことですが、快勝だと思っていた将棋がそうでもなかったと評価されることは?
それはしょっちゅうです(笑)。でも、それもどっちが正しいのかいまいちよく分からないんですよね。いわれてみればそうか、でもなんか違うような、っていう境界線にあることがほとんどですね。明らかに浮かんでない手を指摘されると勉強になったと思いますけど、感覚的な部分で自分の考えと違うようなことを示されると、鵜呑みにするとマイナスになってしまうかもしれないので難しいですね。
──コンピュータとの研究を取り入れるようになって、自分の将棋観に影響を与えた部分はありますか。
相手に手を渡すような手を、自分は過大評価していたのではないかと思うようになりました。あえて相手に手を渡して〝ほら、いい手がないでしょ〟っていう指し方が有効だと思っていたんですけど、実はそうでもなかったと。
──自分の弱点とか課題みたいなものは見えてきましたか。
決め手の発見とか、手が見える部分がコンピュータと違いすぎること。はっきりよくなる手を見落としがちな傾向にあるのはこれまでも薄々は気づいていたことですけど、コンピュータはそういう手は絶対逃さないですからね。自分はもともとちょっとずつ局面をリードしていくような感じの棋風なので、いままでそこまで考えていなかったんですけど。
定跡の進歩に有益
──今回、王座挑戦という、ひとつの結果を出されたわけですが、コンピュータとの研究によってご自分の将棋が上向いてきたとか、そういうことはあるのでしょうか。スパーリングパートナーという意味ではいいトレーニング相手になっているのかなっていう感じもするんですけど。
勉強にはなっているとは思うんですけど、いまはまだ試行錯誤している段階なので、はっきりした方法が見つかればもっと強くなれると思います。
──自分の棋力がどんどん上がっている実感はありますか。
はい。全体的に上がっていると思います。王将戦に挑戦したときはまだ中盤がはっきり弱かったと思うんですけど、最近はそんなでもなくなってきている気がします。
──コンピュータ相手にミスをすると必ずつけこまれる。少ない有利な手を必ず見つけてくる。不利な状況でも必死に挽回する方法を見つけようとする。そういう強さを人間に置き換えると、すごい精神力の強さを感じるとおっしゃった棋士もいて、それと対戦するのを繰り返すことで、自分の精神力が鍛えられると。
実際の人間同士の対局だと、コンピュータのような大きな逆転はなかなかできません。考えていることや雰囲気が相手にどうしても伝わってしまうので。あと、コンピュータの不気味さを恐れて勝手に転んでいるところもあると思う。人間との対局でコンピュータにやられたような逆転を狙っても、なかなかうまくいかないことが多いですね。自分と同じくらいの強さの人と指しているわけですから逆転が起こっても不思議じゃないと思うんですけど。
──関西本部にもガレリア電王戦が設置されました。気軽にソフトと研究できる環境が整ったわけですけれども、今後、棋士はどういうふうにコンピュータと向き合っていく時代になると思いますか。
自分が考えた局面を入力して答えが返ってきて、それをまた自分で正しいかどうか考えて……という作業を繰り返しながら強くなっていくのだと思います。
──その作業は、人間のレベルも上がりつつ、定跡を作っていくうえでも有益だと思いますか。
思います。今後定跡がどういう方向に行くのかは分かりませんが、局面を深く追求する傾向から、いろんな形を広く浅くやるような傾向に将棋界全体がちょっとずつ変わってきているような気がします。
──豊島さんは、目標を達成するために、コンピュータを今後どういうふうに活用していくつもりですか。
やはり局面を自分で考えて、コンピュータの読みと比べて、それを精査するっていう作業を繰り返すことですね。そうやってちょっとずつ強くなっていけたらと思っています。
──ガレリア電王戦は一般の方も購入できます。最後に、強くなるためのコンピュータ活用法をアドバイスしてください。
自分で対戦してもいいですし、コンピュータ同士の将棋を見ても勉強になると思います。自分が(人間と)指した棋譜を入れてみてどこが悪かったかを分析するのがいちばんいいかもしれないですね。どこかで好手を逃していたらコンピュータが大体指摘してくれるので役に立つと思います。
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本稿は、日本将棋連盟発行の『将棋世界』2014年12月号の記事の転載です。
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