ASUSの技術を惜しみなく投入するRadeon R9 280Xカード - DirectCU IIクーラー

では、ここからはR9280X-DC2T-3GD5に焦点を当てて見てみよう。最初の印象は「デカいカードだな」ということだ。もちろん、基板サイズは通常のハイエンドカードであり、変わるところではないが、オリジナル設計のクーラーが大きく"見える"。実際には少し上方に出っ張っているだけでクーラーサイズもハイエンドとしては普通なのだが、2基のファンがかなり大きいために膨らんで見えるのだ。同社ではこのクーラーを「DirectCU II」と呼んでいる。

R9280X-DC2T-3GD5のDirectCU IIクーラーは、現在のトレンドに従った2基のファンを搭載している。しかしそのファンもユニークで、後部ファンは一般的な形状だが、前部ファンは、内外2重のブレードデザインを採用している。

これは、同社が「CoolTechファン」と呼ぶもので、内側はシロッコファン、外部は通常のファンブレードというハイブリッド形状となっている。内外2つのファンは、吹き付ける風の角度が異なるため、より広範囲に風を吹き付けることができるという。

前部のファンは内と外でブレードの形状を変え、2つの異なる性質の風を起こし、広範囲を効率的に冷却する

続いて、目立つのは上部に突き出すヒートパイプだ。ヒートパイプは内部に触媒を詰めた熱を輸送するパイプであり、現在のハイエンドグラフィックスカードでは、採用が当然のものとなっている。各社本数や太さなどを競っているが、R9280X-DC2T-3GD5のDirectCU IIクーラーは極太の5本構成だ。

ヒートパイプは銅製(Cu)で「Direct」の名の通り、GPUチップにヒートパイプが直接接触する構造となっている。一般的なヒートパイプは、パイプという丸い構造上、溝を付けた2枚の金属板ではさみ、ロウ付けで一体化させるという手法が取られている。DirectCU IIクーラーでは、熱輸送を行うヒートパイプを、熱源に直接触れさせることで、ロスを減らし、冷却性能を高めたというのがASUSの主張だ。

5本のヒートパイプを並べ、少し潰して平らにしたうえでロウ付け、研磨することでGPUに直接触れる構造に仕上げている

もちろん、ヒートパイプは熱を輸送するためのものであって、放熱にはヒートシンクを用いる。R9280X-DC2T-3GD5では、ほぼグラフィックスカードサイズ大の高密度なフィンを用いて放熱面積を稼いでいる。

基板とほぼ同じサイズのヒートシンクに5本のヒートパイプが巡る。左右に熱が伝わる中央は直径10mmの極太ヒートパイプ、左右端は通常の8mmの太さのパイプを2本ずつ通すという設計だ

こうした重量級のヒートシンクを搭載するとその重量でPCB基板がたわむこともある。基板がたわむことで、チップのはんだにクラック(亀裂)が生じたり、最悪、チップが取れたりすることも起こるわけだが、R9280X-DC2T-3GD5はその対策として、グラフィックスカードの上部に金属のフレームを設けるなど入念な設計が施されたクーラーなのだ。

カード上部には補強用の金属フレームを装着しており、これで基板のたわみを抑える

ASUSの技術を惜しみなく投入するRadeon R9 280Xカード - 高品質設計と部品

外観的特徴をチェックしたところで、次は基板を見てみよう。グラフィックスカードの基板を見るポイントは、チョークコイルの数(フェーズ)、そしてコンデンサの品質だ。

R9280X-DC2T-3GD5では、前者を12フェーズ構成に、後者には「Super Alloy Power」を採用している。フェーズ数は蛇口の数のようなもので、数が多ければ多いほど多くの水を流せるように、グラフィックスカードにおいては電力の最大供給量を増やせる。

R9280X-DC2T-3GD5は基板もオリジナル設計。リファレンスデザインではあり得ない12フェーズもの電源回路を用意し、使用する部品も選別された高品質なものを採用している

デジタル電源回路DIGI+ VRMを採用

実際にはオーバークロックの際にポイントになるところだが、通常使用時においても、チョークコイル1基あたりの負荷を小さくでき、長寿命化が可能になる。例えば10秒でコップを満水にする際、1つの蛇口を最大に開くのと、2つの蛇口を半分開くのでは、後者の方が水圧が小さくパッキンへの負荷が小さいというイメージに近い。

12フェーズのうち10フェーズは後部に並ぶ。長方形のフェライトコアを用いているが、それでも拡張カードの高さギリギリいっぱいを使用している。周りのコンデンサも通常のものより高グレードな「Super Alloy Power」基準品だ

残る2フェーズは前方上部にあり、合わせて12フェーズとなる

Super Alloy Powerは、高性能部品の総称で、コンデンサだけでなくMOSFETやチョークコイルなども含む。コンデンサはもちろん固体コンデンサが中心で、一部はより高性能なタンタル固体電解コンデンサも採用されている。

固体コンデンサといってもピンからキリまであるわけだが、Super Alloy Powerでは、一般的な固体コンデンサよりも2.5倍も長寿命な高品質製品を採用しているという。長寿命を実現するには、高効率だったり低発熱だったりといった複数の要因が絡むため、高品質なコンデンサを利用するメリットは計り知れない。

こうした高性能回路設計によってもたらされるメリットとして、コイル鳴きを大幅に減少させたという。コイル鳴きは、GPUに高負荷がかかった際(消費電力が高い状態)、チョークコイル部分から高周波ノイズが生じる現象だ。場合によってはファンノイズよりも耳障りに感じるもので、低コスト志向の製品、GPUメーカーのリファレンスカードなどでは豪快に鳴いていたものだ。

R9280X-DC2T-3GD5はどうかとバラック状態で検証してみたところ、まったくのゼロではないが、深夜30dB以下の環境でもかすかにしか聞こえない音で、主張どおり確かにかなり抑えられている。そして実際の運用に合わせケースに収めてしまえば完全に封印できた。

最後に内部的な動作クロックを確認しておこう。GPU-Zから見たR9280X-DC2T-3GD5は、動作クロックが1,070MHz(ブーストクロック)、メモリは1,600MHzとなっている。AMDが提示するRadeon R9 280Xの定格クロックはそれぞれ1,000MHz、1,500MHzなので、コアもメモリも共にオーバークロックされていることが分かる。では続いてパフォーマンスをチェックしてみよう。

GPU-Zの表示