設立114年を迎える住友生命保険相互会社が、2018年に販売を開始した「Vitality」でデジタルの活用を進めている。健康増進型というこれまでの保険商品と異なる特徴を持つもので、社会課題の解決にも繋がっているという。同社でVitality戦略部 部長を務める西野貴智氏が2021年7月16日に開催された「TECH+ EXPO 2021 Summer for データ活用 イノベーションを創る」に登壇した。

西野氏

住友生命保険相互会社 Vitality戦略部 部長 西野貴智氏

背景にあるのは社会課題解決 - 健康長寿型社会の実現へ

生命保険は被保険者の年齢・性別、家族構成、収入、持ち家の有無などからリスクを計算して、カバー策を提供するものだ。だが、Vitalityは、健康増進につながる行動をとることで保険料が割引になるなど、従来の保険とは一線を画す商品だ。

開発の背景について西野氏は、住友生命保険が大切にする「Creating Shared Value(CSV)」の考えが重要と説明する。CSVはハーバード大学の経済学者マイケル・ポーター氏が提唱したもので、「社会課題を解くことにより新たな価値が創造され、それが経済的なリターンを生む。社会と経済の正の循環を作ることこそ資本主義の本来の役割」という考えが土台にある。

「リーマンショック以降、社会環境が変化し、環境資源の持続可能性が地球規模の課題になっている」と西野氏。そこでこのCSVを理念として「お客様、社会、会社職員それぞれが価値を共創、共有することにより、持続可能な社会作りに貢献していくことを目指している」と説明する。

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数ある社会課題の中で同社が取り組むのが、健康長寿社会の実現だ。具体的には、平均寿命と健康寿命(人の力を借りずに一人で生活できる状態)のギャップに目をつけた。このギャップは男性では9年、女性は12年程度あると言われており、「これを極小する」ために開発したのがVitalityだという。

Vitalityは元々、25年前に南アフリカの金融サービス会社Discoveryが開発したプログラムで、世界26カ国で展開している。住友生命保険は2016年、Discovery、ソフトバンクとともにJapan Vitality Projectを立ち上げ、商品化を進めた。

データを活用、行動経済学に基づく仕掛けを組み込む

ではVitalityとはどのような仕組みなのか。

特徴は、行動経済学に基づいていること。「行動経済学とは、心理学の知見を応用し、人間は必ずしも合理的に行動するわけではないという立場で行動を分析する経済学」と西野氏は説明する。規則正しい食事や生活、適度な運動が必要とわかっていても、なかなか上手くいかず、不健康な生活になりがちだが、行動経済学の仕組みを利用して行動変容を促す、これがVitalityの狙いだ。

具体的な仕組みは、健康状態の把握(オンラインチェック、健康診断書の提出など)、健康状態の改善(歩く、ジムにいく、イベントに参加するなど)、特典を楽しむという3ステップだ。

3ステップ目の特典は、1ステップ目、2ステップ目の活動によりポイントを獲得することで得られる。たとえば、1ステップ目のオンラインチェック(アンケート)をおこなうと3,000ポイント、厚生労働省が推奨するがん検診の受診で1,000ポイントを獲得できる。2ステップ目では、スマートフォンやウェラブルデバイスを通じて歩数計や心拍数などの活動がVitalityとのシステムに連携することでポイントが付与されたり、フィットネスジムのチェックイン情報、ランニングイベントなどのスポーツイベントへの参加などがポイントにつながるという。

特典の内容は、年間4段階で評価されるステータスによりadidasのオンラインショップで30%の割引で商品が購入できたり、イオンの野菜などを購入すると最大で25%の還元があったり、Hotels.comで宿泊料金が最大で40%割引になるなどがある。また、”プチご褒美”として、1週間の目標を達成するとスターバックスのギフト券やローソンのスムージー引き換え券などがもらえるアクティブチャレンジという仕組みがあり、最近では、「ポケモンGo」のアイテムがもらえるという特典が加わった。

保険商品に健康増進を奨励する仕組みを用意するだけではなく、保険料も推移する。西野氏によると、加入時に保険料が15%割引され、その後も健康増進の取り組みにより保険料は最大30%割引かれる。だが、取り組みを怠ると最大10%上がるそうだ。

これを、「1年間頑張ったらメリットがあるより、最初にメリットを与えて、行動を怠ると与えたものを取り上げるほうが人間は頑張る。損失回避性という行動経済学の原理を利用している」と西野氏は説明する。また、個人の健康増進活動の状況に合わせて週の目標が上下するメカニズムも組み込まれている。「常にメンバーを追いかけるような形で行動変容を促していく」とのことだ。

このプログラムを支えるのが、保険加入者のスマートフォンなどのデバイスで計測した運動データやライフログのデータが送られ、それを処理するデバイスプラットフォームだ。加入者の運動情報などをリアルタイムで収集するほか、メンバーであることを照合して割引を実現するなど特典でも使われる。このデータプラットフォームは、世界のVitalityが共通で使っているものだ。 「元来、住友生命保険ではシステムは自社のものを使い、自社だけで完結する形を取っていたが、Vitalityについては最新のグローバルシステムを使っている」と西野氏はいう。