真の働き方改革は、社員と会社の双方に意義がある。その成果となる生産性の向上を、社員は生活の質改善、企業は収益向上で分かち合い、両者はエンゲージメントの向上で結ばれる――GEや住生活グループ(現・LIXILグループ)で長年人事を担当してきたpeople first 代表取締役 八木洋介氏は、こう語る。
4月22日に開催されたTECH+フォーラム「バックオフィス業務改革Day 2021 Apr.」で八木氏は、コロナ禍で炙り出されたビジネス上の課題を踏まえながら、バックオフィス部門がなすべきことについて問題提起した。
なぜ日本は成長が止まってしまったか
日本生産性本部が発表している「労働生産性の国際比較」によると、2019年の日本の時間あたり労働生産性は47.9ドルと、OECD加盟37カ国中21位。主要先進7カ国では最下位となっている。また、米ギャラップ社が2017年に世界各国で実施した調査「State of the Global Workplace」において、日本の会社員は 「熱意溢れる社員」が6%なのに対し、「やる気のない社員」が70%、「不満を撒き散らす社員」が24%と、日本人の仕事に対する熱意の少なさが目立つ。さらに、国別の男女格差を数値化した世界経済フォーラムによるランキング「Global Gender Gap Report 2021」では、日本は156カ国中120位となっている。生産性が低い、やる気がない、人材を活用しない――これにより、日本は成長がストップしてしまっているのだ。
なぜ、日本はこのような状況に陥ってしまっているのだろうか。八木氏は「日本人が優秀でないというわけではない。絡み合って硬直化した”経路依存性(過去の決断によって制約を受ける)”のあるシステムが原因」と、構造的な問題によるものであるとする。
戦後の高度経済成長期に日本は米国に学び、質と効率を重視して戦ってきた。熟練と経験が求められるなか、組織は縦割り構造となり、同質的な人材が集まるようになる。マネジメントでは、秩序と管理が最も重要な要素となり、終身雇用/年功序列という人事が効果を発揮する。
これは、いわゆる「メンバーシップ型」のエコシステムと言える。メンバーシップ型の組織構造やマネジメントが高度経済成長期の日本に非常にフィットしたことで、日本は高い水準で成長し続けてきた。滅私奉公で働けば働くほど結果が出ていた時代だ。しかし、そうした時代はとうの昔に幕を閉じている。
従来のようなメンバーシップ型の組織構造は、デメリットも多い。組織への依存性/従順性が強く年功序列であるため、しがらみや忖度が生まれやすい。さらに年功序列人事では、一度失敗すると取り返しがつかなくなってしまう状況も発生する。そのため、社員はおのずとリスクを回避するようになる――VUCAの時代、過去の慣習を守っていては、日本の成長は止まったままだ。
メンバーシップ型から脱却し、自立した人材を形成
人生100年時代が到来し、さまざまな働き方が模索され、価値観が多様化するなかで、人事として経路依存性から脱却するためにやるべきことは何だろうか。八木氏は、「人事にAIや脳科学、心理学といった科学を入れる必要がある。また、経営戦略の一部としての人事という視点も求められる。人事は会社を差別化していく大きな要素であり、戦略となるべきで、決して画一的な日本的人事であってはならない」とする。
コロナ禍によりリモートワークが急速に普及したことで、個人は、会社と自分、家族と自分など、さまざまな人や組織との関係性について考えるきっかけになったのではないだろうか。リモートワークによって、リアルの価値を再確認した人も多いだろう。
こうした状況において、企業はリモートとリアルの融合を実現し、社員のやる気を高めていくことが必要だとする八木氏。「従来の管理型マネジメントでは、指示待ち/指示出しが上手くいかず、リモートワークが機能しなくなっていく。いかに社員に仕事を任せるかということが課題」と、リモートワークにおける人事の課題を説明する。
そして、この課題を解決するために重要なのが、組織が目指すものと個人が目指すものを一致させて、エンゲージメントを高めつつ、自立した人材を形成していくことだという。
ポイントは、メンバーシップ型から「メリトクラシー(実力主義)」への移行だ。メンバーシップ型の対義になる言葉として一般的に「ジョブ型」が用いられているが、八木氏によると、そのような「型」はなく「適所適材」をいかに実現するかが課題だという。適所適材を徹底し、組織のニーズと社員の意思が一致する配置をすることで、社員は主体的に自分がどう働きたいか考えてキャリア形成するようになり、自立していくようになる。もちろん、単純な個人の尊重ではなく、説得して本人の意向を変えるのも手であり、そうした配置によって社員間の健全な競争を図っていくことも大切だ。