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「なぜ台風でポテトチップスが休売に?」- その質問からカルビーのオウンドメディアは生まれた

【連載】

ニューノーマル時代のオウンドメディア戦略

【第5回】「なぜ台風でポテトチップスが休売に?」- その質問からカルビーのオウンドメディアは生まれた

[2021/05/07 09:00]山田井ユウキ ブックマーク ブックマーク

カルビーのポテトチップス。誰もが知っている企業の、誰もが知っている定番商品であり、もはやブランディングなど不要に思える。しかし、決してそんなことはない。有名な商品だからといって、そこに込められた企業の想いがユーザーに届いているかどうかは別問題だからだ。

カルビーのポテトチップスは、北海道を中心とした国内外のじゃがいもを使用して作られている。当たり前だが、じゃがいもは農作物だ。天候の影響を受けるので、年によっては不作になることもある。もちろん、カルビーは万全の供給体制をとっているが、予想をはるかに超えた不作の年には販売できなくなることもあり得る。

「2016年がまさにそんな年でした」と、カルビー コーポレートコミュニケーション本部 広報部 WEBコミュニケーション課の伊藤奈美子氏は振り返る。

伊藤奈美子

カルビー コーポレートコミュニケーション本部 広報部 WEBコミュニケーション課 伊藤奈美子氏

※ 国内産の多くは北海道産だが、それ以外の産地も使用している。また、一部商品では、国外のじゃがいもも使用。

カルビーとしての想いを伝え、ファンを増やすために

2016年、北海道には台風が3度も訪れ、じゃがいもの収穫量は大きく減少した。カルビーのポテトチップスもその影響を受け、一時的に休売を余儀なくされたのである。当時、じゃがいもが不作だったことはニュースでも大きく取り上げられており、カルビーのポテトチップスが影響を受けるのは至って自然なことだった。しかし、カルビーには「なぜ北海道に台風がくるとポテトチップスが作れなくなるのか」という問い合わせが殺到したという。

「『カルビーのポテトチップスは北海道のじゃがいもで作られている』という情報が、お客さまに伝わりきっていないんだと実感しました。カルビーとしての想いを伝え、ファンを増やすために、何かしなければと考えました」(伊藤氏)

カルビーのポテトチップスは工業製品的なものではなく、自然の恵みから生まれる食品だ。カルビーのポテトチップスにまつわる情報をしっかりと伝えていくためにさまざまな方法を検討した結果、伊藤氏が行き着いたのがオウンドメディアだった。

2017年6月、カルビーのオウンドメディア「じゃがいもDiary」がオープンした。運営は伊藤氏を中心に2名で担当する。ブログ形式でカジュアルに読みやすく構成し、”ダイアリー(日記)”の名の通り、雰囲気が堅くならないよう心掛けている。

じゃがいもDiary

じゃがいもDiaryのトップページ

手探りで始まったサイト運営

じゃがいもDiaryの記事は現在、大きく5つのカテゴリーで構成されている。じゃがいもが栽培される畑の様子を写真でレポートする「畑のイマ」、契約農家を取材した「契約農家さん」、じゃがいもがポテトチップスになるまでのプロセスや関わる人々を紹介する「じゃがいもの仕事」、じゃがいもにまつわるトリビアやレシピを紹介する「じゃがいもトリビア」、プレゼント/アンケート企画などを紹介する「お知らせ・キャンペーン」だ。

こうした現場や契約農家との連携をスムーズに行うために、伊藤氏はカルビーのグループ会社でじゃがいもを専門に扱うカルビーポテト社に協力を仰いだ。同社のバックアップに助けられ、コンテンツは順調に増えていった。

じゃがいもDiaryの大きな特徴は、記事の制作を全て社内で行っているということだ。取材は運営と同じ2名で行い、執筆は伊藤氏が担当。できるかぎり現地に足を運ぶ。

「外部の方に記事制作をお願いしたこともありました。しかし、契約農家さんや現場の取材となると、やはりカルビー従業員のほうがお話を伺いやすいですし、現場の邪魔をせずフレキシブルに動けるので、今は全て内製しています」(伊藤氏)

伊藤奈美子氏

確かに、外部のライターや編集者は取材のプロではあるが、取材を受ける側からすればどうしても”外”の人間である。共にじゃがいもに関わる”身内”だからこそ、引き出せる話や表情があることは事実だ。

とは言え、オウンドメディアで記事を内製するとなると、担当者に相応の負荷がかかる。しかも、現地取材を大切にするじゃがいもDiaryの場合、季節にもよるが月1~2回程度は出張も発生する。だが、伊藤氏はあえてそのコストを引き受け、自らの言葉で伝えることにした。

だからなのか、じゃがいもDiaryを開くと、取材を受けた契約農家や現場のスタッフが皆、自然な笑顔で生き生きと話している様子がうかがえる。もちろん、そこには伊藤氏の穏やかな人柄も大いに寄与しているだろう。

注目すべきは、じゃがいもDiaryは企業のオウンドメディアとしては珍しく、投稿がすぐに反映されるコメント欄を設けていることだ。心無い投稿を危惧してコメント欄を設けない企業も少なくない中、伊藤氏は「双方向性を大事にしたかった」として、現在も承認制にはしていない。それでもコメント欄がまったく荒れた様子を見せないのは、じゃがいもDiaryの空気感がなせる技と言える。

もっとも、現在のかたちになるまでには苦労も少なくなかった。意気込んでサイトをオープンしたものの、最初はどんなコンテンツを作ればいいのかもよくわからず、手探りで制作を進めていった。

それでも続けていくうちに、少しずつサイトの方向性が固まり、出すべきコンテンツが見えてくるようになったという。じゃがいも輸送船「ポテト丸」を追いかけた取材レポート「ポテト丸、広島港につきました!」や、じゃがいもの品種を紹介する「品種マップでじゃがいもの種類をご紹介♪」など人気記事も増えていった。中でもSNSのトレンドをヒントにした「空フォト」は、北海道の雄大な空の写真が好評の人気コンテンツだ。

空フォト 空フォト

美しい空や畑の写真には「こんな大自然の中で育つじゃがいもはきっと美味しいに違いないと思ってもらえるのではないか」という期待もあるという

KPIの設定と施策の展開 - 社内コラボによる副次的効果

ほのぼのした雰囲気が漂うじゃがいもDiaryだが、企業が予算をかけて運営するサイトである以上、当然何らかの成果を上げることが求められる。通常、オウンドメディアは直接利益を生み出す存在ではないため、KPIの設定を誤ると社内の理解を得られず、閉鎖につながってしまうこともある。

伊藤氏は当初、PVをじゃがいもDiaryのKPIに置いた。もともと伊藤氏は業務でSNS運用などを行っており、「PVの重要性は身に染みて感じていた」(伊藤氏)からだ。

PVを獲得するには、こまめな更新が欠かせない。とは言え、じゃがいもは農作物なので季節の影響が大きく、冬は畑も休眠期間となる。今回のコロナ禍も含め、取材に行くことができない時期には畑ではなく貯蔵庫の様子を記事にしたり、じゃがいも料理のレシピを紹介したり、現地のフィールドマンに写真を送ってもらったりと、さまざまなアイデアで乗り切っている。

また、サイト開設2年目からはカルビーが全社を挙げて実施する年に一度のキャンペーン「カルビー大収穫祭」とのコラボレーションをスタート。同キャンペーンは、カルビーの契約農家が育てた穫れたてのじゃがいもとオリジナルグッズを抽選でプレゼントする企画だ。じゃがいもDiaryでは、賞品となるグッズの紹介や畑から届いたじゃがいもが梱包される様子などをレポート記事として公開しており、この時期は毎年大きくPVが伸びるという。

グラフ

開設から現在に至るまでの毎月のPVを基にしたグラフ(実数は非公開)。2年目以降、秋に大きくPVを伸ばしつつ、ベースラインも着実に成長している

さらに、このコラボレーションには副次的効果もあった。それらの記事には当選者からの喜びの声や、賞品の感想、どんな料理にじゃがいもを使ったかといったコメントが並んだのだ。これは、気軽に書き込める場があるからこそ得られた、生活者の貴重な”声”である。

そのほか、カルビー公式Facebookで告知するなどさまざまな施策を駆使し、じゃがいもDiaryの存在をアピール。PVも順調に伸びを見せ、社内外での認知度も上がっていった。

KPIの変更、そしてリニューアルへ

オープンから3年目となる2020年、過去最高のPVを記録したこともあり、伊藤氏はじゃがいもDiaryのKPIをエンゲージメント、すなわち「カルビーファンの獲得」に切り替えた。

「じゃがいもDiaryでは定期的にアンケートを実施しています。その結果からお客さまのカルビーに対する信頼度がどれだけ高まっているのかを分析し、将来的な売上にも貢献していきたいと考えています」(伊藤氏)

同年6月には、公式Instagram(@calbee_jagaimodiary)も開設。コロナ禍でサイトの更新が困難な中、「何かできることはないか」「過去の情報資産を活用しつつ、コミュニケーションの間口を広げていきたい」という想いからだ。

そして2021年3月、じゃがいもDiaryは満を持してリニューアルを実施した。

このタイミングでのリニューアルについて、伊藤氏は「サイトのコンセプトをもう一度、しっかりとお伝えできるようにしたかった」と話す。開設当初は、カテゴリーなど関係なく記事のサムネイルがマス型にずらりと並ぶデザインだったという。

「記事が少ないうちは当初のデザインがボリュームをカバーしてくれて良かったのですが、記事が十分に増えた今となってはおすすめ記事や新着記事がわかりにくいという課題を抱えていました。過去の人気記事をもっと情報資産として活用したいという思いもあり、リニューアルに踏み切りました」(伊藤氏)

新サイトではトップページにコンセプトを大きく打ち出し、前出のように記事を5つにカテゴリー分けしたほか、新着記事/人気記事/おすすめ記事をわかりやすくトップに並べた。

リニューアル前のトップページ リニューアル後

リニューアル前のトップページ

リニューアル後のトップページ

じゃがいもDiaryがここまで成長を遂げられたのは、”カルビーの想いをユーザーに届け、ファンを増やす”という明確なビジョンを持ち、それが会社の方針と合致していたことが大きい。今後もビジョンがぶれない限り、じゃがいもDiaryは社内外にカルビーファンを増やすハブとして機能するだろう。

「”じゃがいもと言えばカルビー”と言ってもらえたらうれしいですね」

伊藤奈美子氏

取材の終わりに、伊藤氏はそう言って笑顔を見せた。

※ 本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合がございます。予めご了承ください。

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