新型コロナウイルスは社会に大きな混乱を与え、働き方も否応なしに見直さざるを得なくなった。さらに各企業がデジタルトランスフォーメーションの動きを進めるなか、今後雇用や働き方はどう変わるのか。経営者やマネージャーはどうすれば生産性や付加価値を上げることができるのか。

コロナ禍以前から、戦略的なタイムマネジメントにより優れたワークライフバランスを実現してきたのが佐々木常夫マネージメント・リサーチ 代表取締役 佐々木常夫氏だ。同氏は、自閉症の長男とうつ病の妻を持ち日々看病に追われる状況でも、東レにて破綻会社の再建やさまざまな事業改革に取り組み、取締役、東レ経営研究所社長を歴任するなど、高い成果を上げてきた。

そんな佐々木氏が、2月3日に開催されたマイナビニューススペシャルセミナー「労務管理が支える『働き方改革』適応法~New Normal時代の労務対応~」にて、ニューノーマル時代の展望とその仕事術について解説した。

佐々木常夫氏

佐々木常夫マネージメント・リサーチ 代表取締役 佐々木常夫氏

ワークライフバランスを実現する仕事術

1. 計画先行・戦略的仕事術

『働く君に贈る25の言葉』(発行:WAVE出版)など働き方に関する数々の著書を持つ佐々木氏は、家族の介護のために5時半起床、18時退社の生活を長年実践するなかで、仕事も家事も全て計画的/戦略的に行うことを徹底してきた。その経験から、「仕事の成果と長時間労働は必ずしも関係はない。戦略的計画立案が仕事を半減させる」と語る。

特に重要となるのが、タイムマネジメントだという。気をつけておきたいのは、ここで言うタイムマネジメントとは、時間を管理することではなく、仕事を管理するということだ。佐々木氏は、仕事のやり方は職種/組織によって違うと前置きした上で、「最初に品質基準を決め、全体構想を描き、デッドラインを決めて追い込む。その仕事において最も大事なことは何かを掴み、段取りすること」を意識すべきだとする。

「管理職がやるべき仕事は本来、組織の成果を上げることと部下の育成であり、プレイングマネージャーをやっている暇はない」というのが、佐々木氏の持論だ。管理職時代には、部下に仕事の計画表を提出するよう指導したことで、月平均1人60時間の残業時間が10時間以内にまで減ったという。

「上司は部下に対して『これをやっておいて』ではなく『仕事を発注する』という感覚を持つことが大事です。一方で、上司は管理職業務が上手い人ばかりではないため、部下は手戻りが発生しないように”部下力”を発揮して上司の注文をよく聞くようにしたほうがよいでしょう」(佐々木氏)

2. 時間節約/効率的仕事術

続いて佐々木氏は「長時間労働はプロ意識、想像力、羞恥心の欠如」と長時間労働を生み出す原因を挙げ、労働時間節約につながる効率的仕事術を紹介した。

1つ目は、先人の知恵を借りること。佐々木氏はこれを「プアなイノベーションよりも、優れたイミテーション」と表現する。

「会社で行う仕事は、多くの場合、すでに誰かが似たようなことをやっています。私が破綻会社の再生を手伝った際に一番初めに手を着けたのは、書庫の整理です。特に経営企画の仕事は書類の仕事とも言ってよいもので、ゼロから物を考えるのではなく、過去の書類を見て参考にすることで、時間の節約につながります」(佐々木氏)

佐々木氏はそのほかにも、議事録は必ずその日のうちに書いてしまう、海外出張の報告書は帰国のフライトのときに終わらせるなど、ちょっとした仕事は発生したその場で片付けるといった時間節約のコツを示した。

3. 時間増大/広角的仕事術

物事の結果の内の8割は、2割の要素によってもたらされるという「パレートの法則」。さまざまなビジネス領域で用いられる考え方だが、佐々木氏はこの法則は時間増大/広角的仕事術にも当てはまるとする。つまり、”捨てる仕事”を決めることが重要だというのだ。

「とある国際会議の運営を任された際、会長あいさつの原稿を作成する仕事で過去の原稿をほとんどそのまま利用したのですが、外部からは高く評価されました。力を入れなくてよい仕事に注力する必要はないのです」(佐々木氏)

さらに佐々木氏は、会議についても「出ない・会わない・読まない」を徹底してきた。政府による審議会の委員を任されていたときには、対面での事前説明を断り、資料を送ってもらって電話で打ち合わせを行ったという。「誰もが時間に限りがあるなか、本当にその仕事をするために人に会わなければならないのか、よく考えるべき」という佐々木氏の主張は、ニューノーマル時代においても重要な考え方だろう。