「働き方改革」と言うと、とにかく「早く退社する」ことに目が向けられがちだが、仕事量を変えずに残業を抑制するだけならば、それは結局”隠れ残業”につながるだけだろう。

本来目指すべきは労働時間の削減ではなく、生産性の向上である。それには、社員一人一人が自分の業務を見直し、改善していくことが不可欠だ。その結果、生まれた時間を自己研鑽や新規ビジネス開発などに活用して初めて、生産性の向上が実現される。

では、具体的にどうすればよいのか。

5月29日に開催されたIT Search+スペシャルセミナーでは、企業の働き方改革やITプロジェクトの支援を行うクロスリバー 代表取締役社長 越川慎司氏が登壇。「個人で始める”業務改革”16万人の対応と週休3日で得た『自分の時間』の作り方」と題し、16万人の働き方改革を支援するなかで見出した個人業務の改善策と時間創出方法について講演を行った。

3つに分けて考える”個人のための”働き方改革

講演冒頭、越川氏は次のような大胆な提言を行って会場を驚かせた。

「働き方改革を成功させるためには、働き方改革を目指してはいけません」

クロスリバー 代表取締役社長 越川慎司氏

一体、どういうことなのか。

これまでに数多くの企業の働き方改革を支援してきた越川氏によると、日本企業における働き方改革の成功率はわずか12%に過ぎないのだという。働き方改革がうまくいかない大きな理由として越川氏が挙げるのが、「働き方改革をすること自体が目的になってしまっている」ということだ。

本来、働き方改革とは、生産性を高める、売上を上げるなどの目標を達成する「手段」であるはずなのに、それを履き違えている企業が多いのだという。

「夜7時に電気が消える企業も増えましたが、そういうところに限って2年もすると売上と社員のモチベーションが下がります。代わりにオフィス街のカフェの売上が上がる。なぜかと言うと、(会社を追い出された)社員がPCを持ってカフェに逃げ込み、仕事をするからです」

こうした事態を引き起こさないために必要なのは、いきなり「どうやって(働き方改革を実行するか)」を考えるのではなく、「なぜ(やるのか)」「なぜ(長時間労働になるのか)」を考えることだと越川氏は説く。

こうした事柄を経営陣や社員が腹落ちしないまま働き方改革を進めても、結局は隠れ残業を誘発するだけになる。「それでは働き方改革ではなく”働かせ改革”」(越川氏)でしかない。

これは、個人業務においても同様のことが言える。

「業務改革を目的にしないでください。『業務改革を通じて何をするのか』を明確にすることが大切です」

例えば、越川氏はクロスリバーを創業して以来、週休3日というスタイルを続けている。それには「教養の時間を増やすため、家族のケアをするため」というはっきりとした目的があるのだという。

「業務改革とは、はちまきを巻いて肩肘張ってやることではありません。現代は100年働く時代です。長く働くためには、体力で勝負してはいけません。(人生は)100m走ではなくマラソンです。変化という”波”に対してゆっくり泳ぐことが大事なのです」

そうは言っても、自由に働けるわけではないのが会社員の宿命だ。そこで越川氏が提案するのが、仕事を「MUST」「Can」「Will」の3つに分けて考えることである。

MUSTとは「やらなければならないこと」であり、会社が社員に求めるものである。Canとは「自分ができるもの」であり、自分の価値を示すスキルのこと。そしてWillは「自分がやりたいこと」だ。

この3つをそれぞれ円で描いたとき、各円が重なる部分こそが「働きがい」であり、これを大きくしていくことこそが個人でできる働き方改革なのだという。

円が重なった部分(青)が「働きがい」であり、これを大きくしていくことが「個人でできる働き方改革」なのだという

さらに、「MUSTは自分自身でコントロールできないが、CanとWillはコントロールが可能」だと越川氏は説明する。よって、働きがいを大きくするためには、コントローラブルなCanとWillを大きくしていくことに集中すればよい。

では、越川氏自身はどんな働き方を実践しているのか。そして、これまでにどんな働き方をしてきたのか。