2017年、本格的なビジネス活用事例が増え、大きな注目を集めたAI。なかでもディープラーニングは、使い方次第で大きなメリットが期待できることから活用が進むと見込まれており、今後は専任者、専任部署を置く企業も増えてくると考えられる。

では、AIを担当する人材にはどういったスキルや知識が必要なのだろうか。今回は、ガートナーのバイスプレジデント 兼 最上級アナリストを務める亦賀 忠明氏に話を伺った。

ガートナー バイスプレジデント 兼 最上級アナリストの亦賀 忠明氏

AI活用が「スモールスタート、スモールエンド」の傾向に

――AIによって、今後ビジネスはどう変わっていくのでしょうか。

ビジネスの世界で今後起こることは、地球規模のサービス競争です。

これから、交通業界の根幹を変えたUberのようなサービスがさまざまな業界でも登場するでしょう。IoTやクラウド、ビッグデータ、ソーシャル、モバイル、VR……さまざまなテクノロジーが出てきていますが、新しいサービスはこれらの新しいテクノロジーを前提とするものになります。それは、大きなうねりとなって全ての企業をデジタルトランスフォーメーションへと向かわせるでしょう。

ビジネスにおける競争の原理原則が変わってきています。これから2020年、またそれ以降において、テクノロジーを駆使することで、ユーザーが必要なときに必要なサービスを、いつでもどこでも誰でも、より迅速に安く満足のいく形で提供できる者が勝つ時代に突入していきます。

新たなトレンドはディスラプティブ(破壊的)であり、そこでAIは重要なパートを担うことになります。ただし、これは当面、汎用人工知能といった「すごいAI」によるものではなく、リアリティのあるAIを企業内のスキルのあるエンジニアが駆使することにより成されることに注意が必要です。

その意味では、今後、企業はAIのようなテクノロジーを駆使できるところと、そうでないところに分かれます。前者は、競争力を獲得し、また後者は競争力を失っていくことになります。

――日本の状況はどうでしょうか。

縦軸を市場へのインパクト、横軸を時間とするマトリクスを描くと、世界を席巻する海外企業は、右斜め上に向かってサービスのインパクトを高めていこうとします。すなわち、最初はスモールスタートであるものの、最終目標とするビジョンは大きく、そこに向けて戦略的かつ継続的にサービスの開発と提供を続けていくイメージです。AIもそれを実現する手段として重要なパートを担うことになります。

日本の企業も積極的にAIのPoC(Proof of Concept)に取り組んでいますが、一部の業務の効率化や改善にとどまっているケースがほとんどです。こうした状況を、私は「スモールスタート、スモールエンド」と呼んでいます。

最初から大きくスタートすることはできませんので、スモールスタートは間違っていません。しかし、エンドまでもがスモールになっている。しかもそれが繰り返される。ビジネスの成果につながらずに困っている企業が多く見られます。こうした繰り返しをやって3年、5年、10年という時間が過ぎていきます。もはやそれではすまない時代に入っていきます。

PoCの実施自体は良いことですが、そればかりでは大局観を失ってしまいます。グローバルではAIをはじめとする先進技術を使って過去にないサービスを生み出そうとするケースが多いのに、日本は置いていかれかねません。

AIを一つの契機としてPoCのやり方だけでなく、企業ビジネスそのもののパラダイムの変化を意識することが重要と思います。

――AIばかりを見てしまって大局を捉えていない企業が多いということですね。

「木を見て森を見ず」とも言える状態になっている企業が多いです。

木(AI)だけを見てもすごいことになっているので、それにどうしても目が奪われてしまいます。ただ、森を見るべき、と言っても、日本だけで捉えているとなかなかそうした大局観を持った例がありません。結果として、皆、大きな観点で物事を捉えることができていない状況にあると考えます。