ITRは10月5日、年次カンファレンス「IT Trend 2017」を都内にて開催した。ITRのアナリストやIT業界のキーパーソンが数多く登壇した同カンファレンスのテーマは、「デジタライゼーションが誘発するビジネス革新」。各講演では、会場を訪れた国内のITエグゼクティブに対し、ITを活用して戦略的にビジネスを推進するためのヒントが示された。

本稿では、ITR 取締役/シニア・アナリストの舘野真人氏によるアナリストセッション「いま問われるAIのビジネス適用における論点」の模様をお届けする。

AIに対する過剰な「期待」と「不安」

AI(人工知能)に対する注目度の高さは衰える気配を見せていないものの、それゆえに、企業の間ではAIに対する「過剰な期待」と「過剰な不安」が入り混じっているのが実情である。舘野氏の講演では、AIのビジネス適用に向けた流れを大づかみに捉えるとともに、主要トレンドに対して企業が取るべきスタンスが紹介された。

開口一番、舘野氏はこう訴えた。

「現在はAIに対する過剰な期待と過剰な不安が入り交じっていますが、期待と不安のいずれにせよ、正しい理解が妨げられている感があり、不幸な状況だと言えます」

ITR 取締役/シニア・アナリストの舘野真人氏

そこで同氏は、AI活用に向けた正しい理解を促すべく、3つの論点から講演を進めていった。

まず1つ目の論点として挙げられたのが、いわゆる「AIブーム」の本質についてである。現在は第3次AIブームだとよく言われるが、その背景には、第2次AIブームから続く、PCの登場からインターネットの一般開放、クラウドコンピューティングの普及、モバイルデバイスの高度化といった流れがある。つまり、ITインフラの進化が、AIブームに強く影響しているのだ。

では、ITインフラの変化とAIにはどのような相関があるのだろうか? ──その答えはこうだ。まず、インターネットがコンテンツ伝送路となり、クラウドが処理能力・貯蔵庫を担う。入力デバイスによって精緻なデータ収集が可能になり、そしてモバイル端末はヒューマンインタフェースとして機能するようになった。

「AIそのものの進化もありますが、実情はITインフラの変化が大きく作用しています。特にビジネス領域において、その関係は密接になっています」(舘野氏)

AIは、大きく分類すると4種類に分けられると言われる。1つ目は全能型の「強いAI」であり、現在のところ実現していない。2つ目は、特定用途型の「弱いAI」、3つ目が専門家が教える「大人のAI」、4つ目が、自ら学ぶ「子供のAI」である。

「このうち現状で日本企業が『強い』と言われているのが大人のAIです。ディープラーニングの登場により、『とりあえず何か入れてみれば、AIが有益な結果を出してくれるのでは』といった研究が欧米で特に活発化していて、日本企業も強く影響を受けています。ただ注意したいのは、ビジネスでの活用を考えると、まだ(自ら学ぶ)子供のAIは文字通り『子供』の段階にあるという事実です。そのため、現在のところは業務向けにしっかりと作り込まれた大人のAIが有効だと考えています」(舘野氏)

実際、市場動向を見ても、特定用途に向けて学習済み、もしくはアルゴリズムが組み込まれたAIが次々と登場してきている。こちらのほうがビジネスに繋げやすいのは明白だ。

「これに加え、自社固有のデータをどうAIで価値あるものにしていくのか、自社でしかないビジネスにどう結び付けるのか、といった観点からAIがもっと注目されるようになると、『特定用途型』かつ『自ら学ぶ』技術の台頭が期待できます」と舘野氏は強調した。

また、AI技術の関係性を紐解くと、さまざまな技術が重なり合っており、複数の研究分野が結び付いてソリューション(応用分野)に向かっている。ここに学習リソースの高度化が加味され、これまでの研究成果をベースに、データとインフラの力で進化を加速しているのが今のAIブームだと言えるのである。

こうして近年、世界的に大手ベンダーによる新興企業の買収合戦が繰り広げられるなどAI市場は加熱する一方にあるが、国内企業の投資意欲も年々確実に高まっているようだ。ITRが2016年、国内企業を対象に実施した調査によると、AIへの取り組みを最優先事項とした企業は23%となっており、既に実務に適用済みの企業は5%、適用を前提とした検証・調査を行っている企業は20%だった。

「実務に適用済みの企業はまだ少ないとは言え、適用を前提に動いている企業は一定数あります。第3次AIブームの本質は、AIのコモディティ化(民主化)が急速に進んだことにありますが、国内企業もそうした動向を敏感に察知しており、実際に投資の拡大や、適用を前提とした活動を開始しています。AIというのは、『使えるところから使っていく』という考え方にフィットするテクノロジーだと言えるので、そうした視点からまず取り組んでみるのも有効ではないでしょうか」(舘野氏)