ソフトバンクショップ以外でも目にする機会が多くなったロボット「Pepper」。さまざまな業種・業態で利用されているが、ここまで増えてくると「あ、Pepperだ」とマスコット的に、アイキャッチに使ってきた小売店などにとっては「当初の目論見よりも効果が出なくなってくるのでは」という印象を抱く。

もちろん発表から2年半が過ぎて、一般的な製品ライフサイクルからすればそう遠くないうちに次期モデルが登場してもおかしくない。また、昨年発表されたAndroidアプリへの対応や、自然言語処理に強みを持つIBM Watsonと組み合わせて接客対応の高度化など、将来へのロードマップはソフトバンクロボティクスも描いていることだろう。

ただ、こと法人企業におけるPepperを利用する意義は、単なるアイキャッチ以上のものを求めるし、レンタルで月額5万5000円、3年総額198万円(同社Webサイトより)のコストをかけ、アプリ開発や現場における運用を考えると、いつまでも「ベータ版」に近い半人前のPepperに我慢できる企業は限られてくるはずだ。

そこで関心を寄せたのが、2015年12月にPepperを導入し、2016年12月には新たな実証実験も行ったイオンモールだ。同社は、幕張新都心で試験導入をスタートした後、その成果を踏まえた上で2016年9月には全国31店舗に導入を拡大した。まだまだ課題の多いPepperのどこに魅力を感じているのか、イオンモールでデジタル推進プロジェクトリーダー 兼 ヘルス&ウェルネス推進プロジェクトリーダーを務める石井 広幸氏に話を伺った。

イオンモールに設置されているPepper。さまざまなエンタメアプリが起動できる

イオンモール デジタル推進プロジェクトリーダー 兼 ヘルス&ウェルネス推進プロジェクトリーダー 石井 広幸氏

目標は「コンシェルジュロボット」

石井氏によれば、Pepperに限らず人型ロボットについては導入検討を進めており、「数社と商談を重ねていた」(石井氏)そうだ。ただ、「デジタルを活用した新たなお客さまへの体験価値の創造」を模索するイオンモールとして「ショッピングセンターに設置した時の大きさや、コミュニケーション能力を考えるとPepperだった」と話す。

イオンモールの目標は「コンシェルジュロボット」であり、大型モールのインフォメーションコーナーにおける店舗、施設案内をロボットに代行させる目的がある。実際に昨年12月の試験導入以降の実績値として、1日平均700名程度の応対結果が出ているそうだ。

「導入当初より、多くのお客さまに触って体験してもらっています。もちろん、試験導入ということもあり、多少の問題点も見えています。1日700名ほどに話しかけられますから、過度な負荷によってフリーズするケースがあったほか、特にお子さまなどが触ることもあってパーツが時々破損していました。また、モールでは話し声や音などさまざまな環境音が発生するため、Pepperが問いかけを識別できずに回答できないケースもありました。こうした話はソフトバンクロボティクスと綿密にやり取りしており、問題点は徐々に改善されています」(石井氏)

問題点のフィードバックは、ソフトバンク側も求めているところであり、例えばイオンモールも改善要望を行っていた「自動電源オン・オフ機能」や「遠隔監視機能」は、その後法人向け「Pepper for Biz」のサービスとして採用されている

「当然、まだこれからの分野のものですから、期待しているロボットと実際にPepperができることには乖離がある。一方で、アップデートによるソフトウェアの改修やサービス体制についても、この1年で着実に改善されてきていると思っています」(石井氏)

ただ、やはり石井氏も危惧しているのが「Pepperの普遍化」。もちろん、Pepperが定着することは望ましいものの、こなす業務の期待値を超えられていない以上、「アイコン化したPepper」を頼りにするしかない。しかし、モールとしての導入以外にも、ソフトバンクショップや、その他入居する小売店が独自に用意したPepperなど、数多くのPepperがモール内に設置されており、「見た目が同一である以上、お客さまが期待する質問とそれに対する回答が一致しない可能性がある」(石井氏)。ソフトバンクも、ショッピングモールや店頭販促活動においてアイキャッチとなるステッカーやユニフォームを用意しているものの、モール内に設置しているPepperは共通してモール案内アプリを自動で起動できるといった仕組みは必要かもしれない。