去る10月5日より7日にかけて東京・高輪で開催された『Gartner Symposium/ITxpo 2016』では、CIOをはじめとするITリーダーたちが一堂に会した。そのゲスト基調講演に登壇したのが、ソニーフィナンシャルホールディングス ソニー生命保険 取締役会長、井原 勝美氏だ。

ソニーフィナンシャルホールディングス ソニー生命保険 取締役会長 井原 勝美氏

講演のタイトルは「ソニー金融事業へのチャレンジ」。ソニーは1979年に金融事業に進出したが、当時、周囲からは将来性を疑問視する声が多くあった。しかし今や金融事業は、ソニーグループを支える収益規模にまで成長している。

講演では、ソニーグループの金融事業を長く統括してきた同氏の立場から、なぜソニーが金融事業に挑戦したのか、そして新しい顧客価値を創造しスケールすることができたのかについて、熱く語られた。

金融事業の夢を現実にした伝説の経営者「盛田昭夫」

ソニー金融グループは、ソニーが60%出資する持株会社であるソニーファイナンシャルホールディングスを中心に、生命保険事業のソニー生命、損害保険事業のソニー損保、銀行事業のソニー銀行という、業態の異なる3つの金融会社によって構成される。他に介護事業のソニー・ライフケアもホールディングスの傘下に置かれている。

開業以来の平均成長率は28%という高い水準を維持してきており、現在金融会社3社の経常収益は、1兆3,620億円にも及んでいる。

ではなぜ、家電メーカーであるソニーが金融事業を始めたのだろうか?

そもそものきっかけは、ソニーが日本の企業史に残るサクセスストーリーを邁進し始めた戦後復興期にあった。当時、ソニー創業者の1人で共同経営者であった盛田 昭夫氏は、トランジスタラジオの販路開拓のため頻繁に渡米していた。そんなある日、滞在先のシカゴでプルデンシャル社の超高層ビルを目にした同氏は、「ソニーグループに金融機関を持ちたい。いつか立派な自社ビルを建てたい」という夢を抱く。

それから時を経てプルデンシャル生命との合弁による生命保険事業参入で合意したことで、盛田氏の夢は現実に向けて動き出した。当時、社内からも多くの反対の声があったものの、同氏は経営会議の席上で、「いつかこれがあって良かったと思えるような日がきっとくる。それを信じて始めたい」と力説したという。

「とても素晴らしい、大好きなエピソードだ」──井原氏は感慨深げに語った。

ここで同氏は、生命保険事業を営業開始した1981年に、盛田氏が社員に向けて抱負を語った時の記録ビデオを会場に流した。

こうして始動したソニーの金融事業は、冒頭で述べた通りソニーグループ全体を支える事業にまで成長を遂げることになる。

井原氏は言う。「2006年にソニー本社ビル『ソニーシティ』をソニー生命が建設したことで、かつての盛田氏の夢は完全に現実となった。同氏の卓越した先見性とブレない長期的な視点、そして多くの人々を惹き付けるリーダーシップには、振り返るたびに常に驚かされる」

ソニー生命の強みとなっている「ライフプランナー」とは?

続いて井原氏は、ソニー金融グループの数々のチャレンジについて、その源泉にあるソニーの”DNA”の解説を交えながら紹介していった。

ソニー生命が営業を開始したその日、ライフプランナー制度という他に類を見ない新しい制度を打ち出すとともに、「きょうから生命保険が変わる。ライフプランナーが変える。」というキャッチコピーの広告を全面的に展開する。

「ライフプランナーは、現在も顧客とのコミュニケーションの要となる存在であり、当社の強みの源泉の1つとなっている」と語った井原氏は、ライフプランナーの特徴について解説を行った。

他業界からの人材獲得を基本とするため、ソニー生命ではライフプランナーの教育プログラムが充実している。またフルコミッション制であることから、会社や顧客への貢献度合いがそのまま報酬に結びつく。社員であると同時に一人ひとりが独立した個人の事業主でもあるという二面性を有しているのである。そしてライフプランナーは、ライフプランニングを中心とする質の高いコンサルテーションを信条とし、多くの場合、2時間にも及ぶ面接を5回ほど繰り返すという、丁寧な契約までのプロセスを辿る。

「こうしてライフプランナー一人ひとりが、紹介連鎖によってマーケットを拡大していくというビジネスモデルを貫いている。言い換えれば、目の前のお客さまを徹底的に満足させない限り、マーケットは広がらないということだ」と、井原氏は強調した。

ソニー生命では、Windows 95の時代にPCを配布するなど、ライフプランナーのITの高度利活用にも注力してきている。現在ではスマートフォンで手続きを処理したり、タブレット端末で顧客をサポートしたり、ライフプランナー自身がWebサイトで情報発信したりと、ITの利活用の内容は年々と高度化し続けている。

「ペーパーレス化を進めていくことで、最終的には紙が必要のない保険会社を目指している」と、井原氏は力を込めて語った。