さっそくだが、こちらの動画をご覧いただきたい。※ 音付きです。

今年のエイプリルフールで特に大きな反響を呼んだアドビの動画「#飲むフォトショップ」だ。

飲むだけで身体を物理的にレタッチすることができ、筋骨隆々とした理想の体型が出力されるというジョークなのだが、国内で32万回、台湾では100万回も再生されるなど、Photoshopユーザーを中心に広く拡散された。

もちろん、ここまでの成功を収められたのは、エイプリルフールとはいえ、関係者が本気で臨んだ結果であろう。

本誌は、エイプリルフールネタに心血を注いだ制作者の情熱をお伝えするべく、企画の立案/制作を担当したマーケティング本部 広報部 マネージャーの中西 りさ氏と、動画に出演したマーケティング本部 Creative Cloud デザイン製品担当 マーケティングマネージャーの岩本 崇氏にお話を伺った。

アドビ マーケティング本部 Creative Cloud デザイン製品担当 マーケティングマネージャーの岩本 崇氏

エイプリルフールをお祭り騒ぎで盛り上がれるのは、日本ならでは

―― はじめに岩本さんの普段の業務内容を教えてください。

岩本氏 : 普段はAdobe Creative Cloudのマーケティングを行う部署に所属しています。入社後から14年間、一貫してIllustratorなどデザイン製品を担当しています。

なぜ、Photoshopがテーマのエイプリルフール企画に出演しているのかは……正直理由はよくわかりません。なぜかここ数年エイプリルフール企画のレギュラーメンバーになっていますね(笑)。

―― エイプリルフール企画はいつから実施されているのですか。

中西氏 : エイプリルフール企画を始めたのは4年前です。当時はPhotoshop誕生25周年に向けて全社的にいろいろなことをやってみようという雰囲気があり、アドビというブランドを知ってもらう機会としてエイプリルフール企画が立ち上がりました。

岩本氏 : 米アドビ本社でも4月1日にPhotoshopやIllustratorのネタ動画を公開するなど、エイプリルフール関連の取り組みはあるのですが、ここまで錚々たるメーカーやサービスが参加してお祭り騒ぎで盛り上がれるのは、日本ならではの文化だと思います。

岩本氏が着用しているのは動画用に作成したPhotoshopのTシャツ。撮影ではMサイズのTシャツを使ったが、変身の際に本当に破ったため、インタビューでは唯一現存するLサイズを着用してくださった。

―― 1年目の企画はどういったものだったのですか。

中西氏 :Photoshop REAL」という、虫眼鏡やなげなわなどPhotoshopツールの実物が入っているパッケージを作りました。クラウド版であるCreative Cloudへの移行の流れに逆行して、箱を作って物を売り出すという嘘が新鮮だったのか、想像以上に反応がよかったたんですよ。

2015年の企画「Photoshop REAL」。実際になげなわや虫眼鏡などをPhotoshopに実在するツール作って配った

そこから、毎年エイプリルフールは何かやらなきゃいけない……という勝手に使命感をもってしまいました(笑)。

―― そして、2年目、3年目……と続いていったのですね。

中西氏 : 2年目は、学研の雑誌『ムー』とTwitter上でバトルして、夜にリアルのイベントで決着をつけようというものでした。「アドビ社のロゴとムーのロゴが酷似している」というムーの三上編集長の指摘からプロレスが始まっています(笑)。3年目となる昨年は、Illustrator CCでの操作を声優さんの声で読み上げる「Illustrator VOICE」という機能を発表しました。

岩本氏 : Illustrator VOICEは、「本当に発売してほしい」という声も多く寄せられ、嬉しいような申し訳ないような気持ちになりましたね。

台湾でも大反響! 課題はTwitterトレンド

―― 4年目の今年は、飲むだけで理想の身体へ物理的にレタッチすることができる「#飲むフォトショップ」でした。

岩本氏 :「#飲むフォトショップ」は、いわゆるプロテインのようなものをイメージしてください。身体がたくましいものになれば、本物のPhotoshopでレタッチする必要がないということです。動画では、これを飲んだあとに私の身体の筋肉がムキムキになってしまうシーンもあります。

動画で使われたプロテインのような飲料「#飲むフォトショップ」

―― すごいアイディアです……。構想はいつぐらいから始められたのですか?

中西氏 : 2月頃に、クリエイティブエージェンシーのバスキュールに企画の相談をしました。バスキュールさんとしてはそれまでエイプリルフールを手がけたことはなかったそうなのですが、若手のクリエイターの方々が盛り上がって、どんどんアイディアが生まれていったそうです。

バスキュールさんからは最終的に2つの案を提案していただきました。そのうちの1つが「#飲むフォトショップ」だったんです。Photoshopを知っている人、知らない人、どちらに対してもキャッチーな「パワーワード」ですよね。その言葉を聞いた瞬間に、岩本が青い液体を飲む画が見えました(笑)。

ご自身の動画を前に解説してくださる岩本氏。撮影の思い出として、収録前に入念にパンプアップするボディービルダーのプロ意識と、自社のガラス張りの会議室で緑色の全身タイツを強制的に着させられたことを挙げる。

―― 提案された当初の「#飲むフォトショップ」のアイディアはどのようなものだったのですか?

中西氏 : はじめは通販番組のような動画を制作しようというアイディアでした。ただ、その案ではスタジオ代などでどうしても費用が嵩んでしまいます。そこで、撮影はオフィス内で行い、アドビのストックフォトサービス「Adobe Stock」を駆使して作っていただきました。

岩本氏 : Adobe Stockは、素材や撮影に行く時間や予算がないときに使えるものなので、こういうときにこそ利用して欲しいというクリエイターへの提案も込められた形になっているんです。

―― 動画では「#飲むフォトショップ」を飲むと仕事がうまくいったり、喧嘩をしている人と仲直りができたりするといったような様子が描かれています。

中西氏 : 誰もがおもしろかったと感じてもらいたかったので、痩せたい人を細くするといったようなコンプレックスに訴えかけるようなものにはしたくありませんでした。ですので、これを飲むとなぜかいろんなことがうまくいって、ハッピーになるようなストーリーになっています。

―― 企画の目標値などは決められていたのですか。

岩本氏 : 目標は、昨年以上の数字を出すことでした。多くの方々に知っていただき、広く楽しんでもらいたいので。やるからにはきちんと結果を出そうという気持ちで取り組みました。

―― 結果はどうでしたか?

岩本氏 : 今年は日曜日だったので不利な状況でした。そもそも日曜なのにエイプリルフール企画をやる必要があるのかという議論もあったくらいです。

ただ結果的には、#飲むフォトショップに関する記事は転載も含めて57の媒体に掲載されました。YouTubeでの視聴数やFacebookやTwitterでの投稿数も高く、過去最高の数字となっています(4月末現在)。

「#飲むフォトショップ」の結果。日曜日だったにもかかわらず、過去最高の数値を記録。深夜0時に動画公開のため、前日の土曜日から徹夜で作業にあたった。SNSユーザーの活動時間を頭に入れながら、再投稿のタイミングも検討した。

中西氏 : エイプリルフール企画は、当日の午前中にSNS上や記事で取り上げられていることが重要ですので、事前に媒体社の方々に「#飲むフォトショップ」のプレスキットをお送りしました。

また動画は、日本では約32万回、台湾では100万回以上も再生されています。台湾には面白動画サイトが多くあるのですが、この動画を翻訳してそこで利用させて欲しいという連絡があったんです。実際に取り上げていただいたところ、想像以上の反響がありましたね。

反省点としては、Twitterのトレンドでしょうか。「#飲むフォトショップ」というワードの最高位は25位でした。また、ハッシュタグのフォトショップの表記が、英語のPhotoshopとカタカナの2つできてしまったのも、ランキングに影響したかもしれませんね。

現在は、来年に向けてTwitterのトレンドに入るための分析を進めて戦略を練っているところです。ぜひ、来年も楽しみにしていてください!

アドビの受付前にあるInside Photoshopのパネルで撮影に応じてくださった岩本氏 (Illustratorのマーケティング担当)