群雄割拠のフラッシュストレージ市場に変化の兆し?

ビッグデータをはじめモバイルやソーシャル、クラウド、さらにはIoTやスマートマシンなどといったデジタルテクノロジーが急速に広がり始めている。ストレージの要件は今後さらに複雑化し、予測不能になるだろう。こうした中でストレージ製品も大きく変わりつつある。なかでもとりわけ変化が激しいのが、フラッシュストレージだ。

ガートナー ジャパン リサーチ部門バイス プレジデント 鈴木雅喜氏

ガートナー ジャパン リサーチ部門 ITインフラストラクチャ&セキュリティ バイス プレジデント、鈴木雅喜氏は、現在のフラッシュストレージ市場について次のような見解を示す。

「フラッシュストレージ製品の各ベンダーが活発にプロモーションを展開していますが、その背景の1つに、少し前までは強烈な勢いで伸びていた従来型のストレージ市場がやや落ち着いて来たことがあげられます。そこで各ベンダーは、フラッシュストレージさらにはSDS(Software-Defined Storage)といった新たなストレージカテゴリーでいかに主導権を握るかの競争へとシフトしているのです」

そしてフラッシュストレージ市場については、そろそろ大勢が決まりつつある段階に来ているのだという。これまでは市場シェアもころころと変わっていたのが、ここにきて段々と固まりつつあるのだ。

「EMCやIBM、ピュアストレージといった主要ベンダーの中から、この先数年以内にどこが台頭してくるかが、将来にわたるこの市場の勢力図を決めていくポイントとなるでしょう。これから新たに現れてくるベンダーは、こうしたベンダー群を追いかける立場となります」(鈴木氏)

ベンダーの売り文句に流されず冷静な選択を

ベンダー間の激しい動きの一方で、ユーザーからのフラッシュストレージに対する期待値は、過大なピークを少し越え、より現実的に選定を進める段階になっていると鈴木氏は見ている。例えば最近、ユーザー企業から鈴木氏に寄せられる相談で多いのが、基幹系システムを含めたすべての社内業務システムのストレージをフラッシュストレージへと置き換えるべきかどうかというものだ。このような悩みに対して鈴木氏は、ベンダーの売り口上に流されず、冷静な判断を忘れないよう強調する。

「時にベンダーの担当者によっては『すべてのストレージはフラッシュストレージに置き換えられる』と言った言葉を聞くこともありますが、ガートナーでソリッドストレートアレイ(SSA)と呼ぶフラッシュストレージだけで組まれたストレージ・システムのシェアは、実はストレージ市場全体の1割にも満たないのです。もし既存のHDDのすべてをSSDに置き換えられるのだとしたら、このような数字にとどまってはいないのではないでしょうか。今後、フラッシュストレージを選択肢の1つとして必ず視野に入れつつも、そのメリットとデメリット、それに導入するシステムの性質までを踏まえて冷静に選択することが求められるのです」(鈴木氏)

まずフラッシュストレージのメリットといえば、その圧倒的なパフォーマンスが挙げられるだろう。ストレージに起因したシステムの性能不足の悩みも、フラッシュストレージに置き換えれば一気に解消できると期待される。しかしその半面、SSAはまだコストや容量、信頼性に関する実績の面で従来型のストレージ・システムには及ばない側面が残っている。

そこで、多くのデータを格納するシステム、高い性能が求められるシステム、信頼性が求められるシステムなど、システムごとの目的を踏まえて、HDDとSSD、さらにはDRAMを用途によって混在させた環境が1つのトレンドとなってきているのである。大量のデータはHDDに蓄積し、そこから取り出した小さなデータへのアクセスにはSSDやDRAMを利用するといった具合だ。

「この先もかなり長い間はフラッシュのみのSSAと、HDDをベースとした既存のストレージ・システムは共存していくことでしょう。ただし世界に、データベースや仮想化デスクトップに向けたストレージをフラッシュに置き換えていこうとする流れは強まっています。またストレージが速くなるとサーバ側の負荷が低下し、結果的にシステム全体のコスト削減にもつながる場合があります。そういった最新の流れにも注目する必要があると思います」と、鈴木氏は強調する。

デジタルビジネスへのトレンドは、ストレージへの要件を変える

そして最後に鈴木氏は、ストレージにまつわる最新の流れとして、デジタルテクノロジーを用いて新しいビジネスデザインを創造する「デジタルビジネス」(※ 詳細は『【レポート】デジタルビジネス時代の製品/サービス選びのポイントとは?』参照)への対応を挙げた。

「ベンダーそれぞれが、デジタルビジネスまでを踏まえたストレージ製品のシナリオを描きはじめています。一方で多くのユーザー企業もまた、この先デジタルビジネスを展開していくのにふさわしいストレージを求めています。例えば、今後はストレージ管理に時間が割けない状況の中で、ビジネス部門からの急な依頼にも応えていかねばならない場面が増えるでしょう。性能や容量、上位のソフトウェア群との連携など、ストレージへの要件は今後より複雑化し、IT部門にとって予測不能になるとみています。『デジタルビジネス』がもたらす変化は、今後ストレージ製品を選択する際に無視できるものではなく、ITインフラ部門はこの変化に敏感に反応していく必要があります」(鈴木氏)

クラウドストレージという新たな流れも

既存のストレージ市場とは別に、クラウドストレージを使う流れも強まっている。企業向けのセキュリティ要件を視野に入れながらマルチデバイスで企業内、企業間のファイルの同期、共有を可能にするBOXや、マイクロソフト、Google、などのベンダーが競争を繰り広げるこの分野を、ガートナーではエンタプライズ・ファイルシンク&シェア(EFSS)と呼んでいる。

「EFSSに関する質問はこの一年の間に急激に増えています。単純にオンプレミス型のファイルサーバを全て置き換えるものではありませんが、ビジネスに俊敏性と利便性がもたらすことができる可能性があり、注目すべき市場と言えるでしょう」(鈴木氏)