前回も説明したように、IoTとは「センサーや通信デバイスを利用し、クラウド上で離れた場所のモノを管理する技術」です。
それを踏まえ、前回は総務の仕事の中から課題を見つけ出し、それを解決する方法として「IoTボタン」を使ったリモート呼び出しの仕組みについて解説しました。IoTボタンは、「ボタンを押す」ことで情報をデジタル化してクラウドで管理できるようにしてくれますが、そのプロセスにはボタンを押す人間が必要です。
ここで「センサー」を利用すると、人間がいなくともさまざまな現象をデジタル化できるようになります。今回は、IoTの活用の幅を広げるセンサーについて考えていきましょう。
センサーは身の周りにたくさんある!
IoTにおいてセンサーは"デジタル化の入り口"です。センサーは、物理的な事象を計測して数値化するために使われます。実はこのセンサー、私たちの身近なところでたくさん使われています。身の周りのセンサーについて考えてみましょう。
例えば、暑い季節に欠かせないエアコン。エアコンの操作では、「温度設定」ができますね。この「温度」、どのようにエアコン側でコントロールしているのでしょうか? これは、エアコンに温度計が内蔵されており、室内の気温を測って把握していると考えることができます。
それから、自動ドア。なぜ自動ドアは人が近づくとドアが開くのでしょうか? これも、どこかにセンサーが取り付けられているということです。自動ドアの種類にもいくつかありますが、例としては音波センサーを用いて、音波の跳ね返りから近距離に人が来たことを察知する、といったものが挙げられます。
また、エレベーターのドアが閉まりかけたとき、手を差し込むとドアが障害物を検知してドアが開きます。こういった安全装置の仕組みも、センサーによって実現されています。
「コーヒーカップの置き忘れ」を検知するセンサーは?
では、今回のお題です。私はコーヒーが大好きで、仕事中に何度もコーヒーメーカーのところに行って、コーヒーを淹れます。しかし、コーヒーを淹れている時間にPCを見たり、会議が始まってしまったりしてコーヒーを淹れていることを頻繁に忘れてしまうのです。そんなとき、気づいた人が「コーヒー忘れてるよ!」と知らせてくれれば良いのですが、我が家ではコーヒーを頻繁に飲むのは私だけ。誰も気づきません。
このように人が知らせてくれない場合、どうすれば「コーヒーカップの置き忘れ」という状況を知ることができるでしょうか?
例えば、コーヒーの抽出ボタンを押してから5分経過したら知らせる方法は、すぐに始められる良いアイデアですね。これならセンサーを取り付けなくても、タイマーを設置すれば始められます。実際、時間でモノを制御するケースは多々あります。
しかし、いくらよく置き忘れると言っても、5回に1回程度だとしたら、毎回アラームが鳴るのはうるさく感じることもあります。置き忘れたときだけ知りたい、そんな場合はどうしたらよいでしょうか?
自分の行動に沿って考えてみよう
コーヒーメーカーでコーヒーを抽出しているときの自分の行動を考えながら、どこで計測すればいいか考えてみてください。できるだけ多くのアイデアを出してみましょう。コーヒーが出来上がるまでの大まかな工程は次のような流れだとします。
- カップを置く
- ボタンを押す
- コーヒーが抽出される
- カップに液体が満たされる
- カップを取り出す
◆重量センサー
「カップを置く」ことに着目して、コーヒーカップの「重さ」を測るのはどうでしょうか。「置いてある場所にカップの重さが一定時間継続してかかっている場合は、置き忘れ」だと定義できます。重量センサーがあれば始められそうです。
◆距離センサー
コーヒーカップの存在を「距離」で判別する方法も考えられます。上述した自動ドアのように、センサーから物体までの距離がカップの有無によって違うことを利用して判別する考え方です。これは距離センサーが利用できます。
◆温度センサー
コーヒーの抽出やカップに液体が満たされた状況を、「温度」で把握することもできそうです。抽出口に液体の温度を測れる温度センサーを取り付ける方法のほか、「サーモグラフィ」というカメラのような機材で映像から温度分布を把握するための装置があります。こういったものを使えば、温度変化を基にカップの中の状況を推察できそうです。
◆カメラ
監視カメラを取り付けるという案を思いついた人もいるかも知れません。実際、カメラは「モノの目」として多くのセンサーを代替する"万能のセンサー"としても使えます。最近のAI技術と組み合わせれば、カップの形状を学習して、カップらしきものが一定時間動かない場合、通知をするといったことができるでしょう。
センサーを使った仕組みを作ってみよう
このように、センサーを使えば、実際に起きている現象を数値で把握してデジタル化することが可能です。
いろいろなアイデアを出した後、次のような観点からどの方法が最適かを検討し、絞り込んでいきます。
- 目的達成のために最低限必要な機能
- システム化の難易度
- コスト
今回、私は「1万円以内で、手軽に作れること」を目指しています。これを踏まえてアイデアを絞り込み、「距離センサーを使って、カップが置かれているかどうかを検知する」方法を使うことにしました。
まず初めに、コーヒーメーカーから1000mm(10cm)程度離れたところに距離センサーを設置します。距離センサーには、距離を測る仕組みとして超音波や赤外線、レーザー光を用いるものなどさまざまな種類があり、その精度によって値段も変わります。
今回のテーマはコーヒーの置き忘れを解消することなので、多少の精度の誤差は問題ありません。そこで、数百円程度で入手できるレーザー光による距離センサーを選びました。
次にマイコンです。センサーだけを設置しても、データは送信されません。マイコンとセンサーをつなぎ、マイコン側に「センサーの値を読み取り、○分ごとに、サーバやクラウドに送信する」というプログラムを書きます。
もう一つ必要なのが、通信するためのネットワークです。Wi-FiやBLEでも良いですし、ネットワークがない場合はセルラー通信(LTE)も選択肢として考えられるでしょう。
クラウド側には、判定とお知らせをするためのプログラムを置きます。距離センサーは基本的に物体が検知された距離をmm単位で送信してきます。よって、人の手で「何mmの場合はカップありと判断するか」を定義しておくことが必要です。例えば、「15mm以上700mm以下に物体を検知したらコーヒーカップがある」といったように「カップあり/なし」の判定ロジックを調整します。
そして、最後に「2回連続で『カップあり』と判定されたら、メールで通知する」、といった通知のためのプログラムを用意します。
* * *
今回は、コーヒーカップの置き忘れを知らせてくれる人がいない場合、センサーで状況を把握して通知する仕組みについて考えてみました。
センサー選びのアイデアを絞り込んだら、ぜひ実際にシステムを作ってみることをお薦めします。いろいろ試してみることで、目的に合ったセンサーをさらに絞り込めるようになるはずです。
次回は、「ドアの開閉を記録する」仕組みとアイデアについて考えます。
さらに詳しく!
今回の仕組みは、以下の3点を用意することで実現できます。
- 人がいなくても、状況を数値で知らせる「距離センサー」
- センサーのデータを送信するための「マイコン(+プログラム)」と「ネットワーク」
- 「置き忘れ判定ロジック」と、置き忘れたときのメール通知の「プログラム」
プログラム部分を含め、具体的な開発手順を詳しく知りたい方は、ソラコムが無料で公開しているSORACOM IoT DIY レシピ「IoTでコーヒーカップの取り忘れを通知」を参考にしてください。
レシピでは、筐体とディスプレイ付きのマイコンモジュール「M5Stack」を使ったステップごとの手順を紹介しています。レシピをご覧いただいて、まず自分で手を動かして作ってみることもできますし、理解が難しい部分があれば自社のシステム部門やエンジニアに相談することも選択肢になります。
著者紹介
株式会社ソラコム
テクノロジー・エバンジェリスト
松下 享平(ニックネーム:Max)
エバンジェリストとして、SORACOMサービスを企業・開発者により理解、活用いただくための講演活動を担当。エバンジェリストとしてのTIPSを紹介するブログも執筆。
最近は、IoTをもっと手軽に使っていただけるデバイスを提供する「SORACOM IoT ストア」にて、IoTで身近な作業を便利に改善する「IoT DIYレシピ」の作成をリード。これからのDXを実現するためのキーテクノロジーであるIoTを民主化し、アイディアとパッションをもつあらゆる人がIoTを使えるようにするべく情報発信を続けている。
気軽にフォローしてください。
Twitter::https://twitter.com/ma2shita
Facebook:https://www.facebook.com/ma2shita/