IT運用管理にも求められる「バイモーダル」への理解

これからの企業IT、さらにはデジタルビジネスを考えるうえでのキーワードとされるのが「バイモーダル」だ。運用管理のジャンルを担当する、ガートナー ジャパン リサーチ部門 ITインフラストラクチャ&セキュリティ マネージング バイス プレジデント、長嶋 裕里香 氏は、「IT運用管理の世界においても、バイモーダルを理解することは今後極めて重要になってきます」と強調する。

バイモーダルとは”2つの流儀”を指す。まず1つ目の流儀である「モード1」では、従来的であり、安全性、正確性を重視する。そして2つ目の流儀の「モード2」は不連続的であり、俊敏性とスピードを重視する。

ガートナー ジャパン リサーチ部門 ITインフラストラクチャ&セキュリティ マネージング バイス プレジデント 長嶋 裕里香 氏

「IT運用管理に当てはめれば、モード1は、どちらかと言うと重厚長大指向で、大きな変化がなく、高い品質に重きを置きます。一方のモード2は変化対応型ともいえ、安心安全よりも、より早く利用でき、しかも使いやすいということを重視します。場合によっては『楽しい』といった要素も加わるかもしれません」(長嶋氏)

従来のIT運用管理では、モード1の考え方が圧倒的に主流だった。一定以上の品質を常に確保することが運用担当者の唯一絶対とも言える使命であり、そこではベストプラクティス集であるITILを用いた標準化のアプローチも進化し続けてきた。

しかし、コンシューマー向けのモバイルアプリケーションのように、毎日のようにソフトウェアが更新されるケースでは、標準化の手法に従っていると変更やリリースがとても間に合わなくなってしまう。そこで、一定の品質を確保しながらも、スピード感とコスト感を打ち出す、ソフトウェア開発とIT運用管理の新たなアプローチとなるのが、「DevOps」である。

「DevOpsは人や組織によって意味するものが違うため、社内のアナリストの中では『10人に聞くと、10通りはおろか、12通りの答えが返ってくるのがDevOps』と笑い話になっています。実際、DevOpsには、特定のテクノロジーやメソドロジーがあるわけではありません。ITサービスデリバリーにおいてより迅速性を重視した『モード2』型のアプローチがDevOpsなのです。

その大きな目的の一つには、スピードがあります。開発と運用が連携して日々刻々と変化するニーズにどう対応するかを追求していきます。DevOpsであれば、週に1500ものリリースでも対応することが可能です。リリースの中身は、新機能だけではなく、バグフィクスなんかもあるでしょう。

ユーザー、つまり社内向けシステムであれば従業員は、”なんかこのアプリケーションの動作が重いな”と感じた時に、すぐに対応してくれたら嬉しいはずです。そうした迅速な対応によって顧客満足度を向上するなど、新たな価値を生み出していくのが、DevOpsの真髄とも言えます」(長嶋氏)

ただし、モード1のIT運用管理も引き続き重要であることには変わりはない。例えばメインフレームのようなシステムでは、頻繁な変更はほとんど必要ない。そこでは標準化の手法を用いて安定稼働を追求していくことこそ再優先されるべきなのである。

対して先のモバイルアプリケーションに代表されるように、まずリリースして、クレームがくれば一週間で改善して再リリースしていくといったサイクルの必要性も増している。それを実現するには、DevOpsのようなモード2のアプローチが必須となるのである。

「運用管理側としては、頻繁なリリースは障害リスクにもなるのでやりたがらないでしょう。しかし最近のITサービスには、止まらないようにはしながらも、まずはいち早くリリースしてしまった方がビジネス上のメリットになるケースが増えてきています。最初のリリース時には60%の出来だったとしても、1週間後に70%にしていれば、半年遅れて90%の出来のアプリケーションをリリースするよりもずっと有利になることも多いでしょう」(長嶋氏)

立ちはだかる文化の壁をどう乗り越えるか

より早く、より小さく「失敗」して、小さな改善サイクルを次々とまわしていくというDevOpsのアプローチは、スタートアップ企業であれば当たり前のように実践していることだ。それがここに来て市場のニーズの変化が激しくなったことなどから、特にコンシューマーに近いビジネス領域では企業の規模に関わらず求められるようになっているのである。

しかしながらモード1の文化が根強い日本企業では、DevOpsのようなモード2の考え方に対してまだまだ抵抗感が強いのも事実だ。まずそこには、開発と運用の間に立ちはだかる文化の壁が存在している。DevOpsでは開発と運用の関係性を密にする必要があるため、人々の考え方やふるまいを変えていくなど、文化の壁をどうやって打破していくかが問われるようになるはずだ。

そしてもう一つ、プロセスの変革も必要になる。例えば本番環境での運用中であっても、運用開発担当者が何かおかしいと感じたら、まずはプログラムコードを見渡して”コードのここに問題があるのでは”といった意見を開発担当者に投げかけ、開発側は一週間で修正して、運用側がシステムをアップデートするといったように、協働型のプロセスへの変革が必要となる。

「日本企業の中にもモード2のIT運用管理を既に実践している企業が出始めています。ある企業では、週に10から20のリリースを自動化するところまで実現しています。文化の壁があるから、あるいはプロセスの変革が必要だから、などとできない理由を並べる時期は終わったと言えるでしょう。海外では、ビルドしてテストしリリースするまでを、人の手を介さずにすべて自動で行う環境を構築している企業もあります」と長嶋氏は話す。

>> 日本企業がDevOpsを実践するためのステップ