前回、Azure/Azure Stack/Azure Stack HCIの立ち位置について解説しました。クラウドのメリット、プライベートクラウドのメリット、そして最新仮想化基盤のメリット、それぞれを正しく理解していただきたいので、今回はもう少しAzure Stack HCIについて補足しておきたいと思います。

Azure Stack HCIのベースとなるS2D

Azure Stack HCIは、ほかのHCI同様に専用のストレージを必要としません。サーバが4台ならば、4台のサーバのローカルストレージを「1つのプール化されたストレージ」として活用できます。マイクロソフトは、Windows Serverの標準機能として「記憶域スペースダイレクト(S2D:Storage Spaces Direct)」を提供しており、そのS2DがWindows ServerのHCIを支えています。

S2Dが支えるAzure Stack HCI

S2Dの特徴

S2Dの特徴は、OSの標準機能であるという点です。Software Defined Storageベンダーによっては、仮想マシンを必要とするものがありますが、S2DはOSとして実装しているので仮想マシンは不要です。さらに、複数のノードにまたがる分散ストレージの処理はファイルシステムよりも下のレイヤーで実現しています。ネットワークにはそれなりの負荷がかかるため、RDMA NICと対応スイッチを推奨しており、ノード数が多くなるようなら10Gbpsではなく25Gbpsを検討していただくことになります。

S2Dの強み

RDMAと聞くと、特殊な要件のように思われるかもしれません。しかし、これらの特徴こそが、前回紹介した1380万IOPSなどの「超高速」とも言えるパフォーマンスを生み出してくれるのです。これは、ユーザーが投資したハードウェアスペックを最大限活かせるHCIとも言えますし、パフォーマンスの問題から仮想化基盤の導入さえ拒んでいた物理サーバ上のデータベース環境を十分カバーできるようになります。

Azure Stack HCIに用意された認定制度

上記のように、Azure Stack HCIはハードウェアに近いところで動作します。これはパフォーマンスというメリットを生み出しますが、安定した動作を引き出すにはハードウェアとソフトウェアの密な連携が欠かせなくなります。そこで、Azure Stack HCIには認定制度が用意されており、認定されたハードウェアは「Azure Stack HCI Solutions Catalog」に掲載されます。

このAzure Stack HCI Solutions Catalogを単なるハードウェアのリストだと思わないでください。ここに掲載されているハードウェアベンダー各社は、Azure Stack HCIをドライバやファームウェアレベルで厳密にコントロールすべく、検証を実施しています。要は、導入後に相性問題などで悩まされることがない状況を作っているので、RDMAといったあまり触れることがなかった機材がベースになっていても安心して導入できるのです。

Azure Stack HCIでは、次のようにAzure Stack HCIビジネスを推進している企業名を公開しています。

Azure Stack HCIビジネスを推進している企業

こうしたことからもわかるように、厳密にはWindows ServerのHCI標準機能と「Azure Stack HCI」というブランドは分けて考えられています。昔のマイクロソフトのように「ソフトウェアだから何でも動きます」と言わなくなったことは驚きかもしれませんが、「利用者が購入したらすぐに使える」というのは、パブリッククラウドであるAzureにも、プライベートクラウドであるAzure Stackにも共通するクラウド時代のITの特徴だと考えていただければよいでしょう。

Windows Admin Center+クラウドちょい足し

Azure Stack HCIの管理には、従来通りのHyper-Vマネージャやフェールオーバークラスタマネージャを使うこともできますが、Windows Admin Centerという無償の軽量な管理ツールも利用可能です。Windows Admin Centerは拡張可能で、各ハードウェアベンダーも対応を進めており、HCIのソフトウェア部分だけでなく一部ハードウェアの監視なども実現されつつあります。また、このWindows Admin Centerを使うことで、Azure BackupやAzure Site RecoveryをWindows Serverの標準機能のように利用できるようになります。

Azure Stack HCIの管理にはWindows Admin Centerの利用が可能

オンプレミスにHCIを導入するとなると、数百万円/数千万円の単位で投資を検討することになるでしょう。しかし、よほどの理由がない限り、それを災害対策用に2セット購入する時代でもありません。普段は使わず、いざという時の保険はクラウドを活用することで、月数十万の投資で大事なシステムの災害対策が実現できたりもするのです。

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前回と今回は番外編として2回にわたり、3月に発表されたAzure Stack HCIについて解説しました。当然のことながら、Azure Stack HCIのメリットを全部紹介できたわけではありません。もし興味がある方は、今後もマイクロソフトやAzure Stack HCIハードウェアパートナーからの情報発信にご注目いただければ幸いです。そして本連載は、またAzure Stackの解説に戻りたいと思います。

著者紹介

日本マイクロソフト株式会社
高添 修

Windows 10やVDIの世界にいるかと思えばSDNやDevOpsのエンジニアと普通に会話をし、Azure IaaS登場時にはクラウドの先頭にいたかと思えばオンプレミスデータセンターのハードウェアの進化を語るセミナーを開くなど、幅広く活動するマイクロソフト社歴約18年のベテラン。最近は主にAzure Stackをテーマにしたハイブリッドクラウドの普及活動に力を入れている。