アマゾン ウェブ サービス ジャパンは6月1日から3日間にわたり、「AWS Summit Tokyo 2016」を開催した。同イベントはAWSクラウドに関するさまざまな事例、最新技術、活用方法を紹介する年次カンファレンス。会場では100を超えるセッションが実施され、AWSクラウドの最新動向が語られた。

本稿では、3日目に行われた講演「PARCOが進めるIoTとデータ活用事例」をレポートする。

接客は顧客の来店前から始まっている

パルコ執行役 WEB/マーケティング部 メディアコミュニケーション部担当 林 直孝氏

パルコ執行役 WEB/マーケティング部 メディアコミュニケーション部担当 林 直孝氏

講演に登壇したのは、パルコ執行役 WEB/マーケティング部 メディアコミュニケーション部担当の林 直孝氏。WEB/マーケティング部は、店舗のICT活用やハウスカードとスマホアプリを連携した顧客マーケティングを推進する部署である。

また、林氏はパルコ社内で社員が活動する「IoT部」の部長も務めている。IoT部では、同社の若手社員を中心に「Raspberry Piを組み立てる」「電子工作でLEDを光らせる」といった課題に挑戦しているという。こうした活動が、パルコのIoT活用に生きているのだ。

では、パルコのIoTに関する取り組みにはどんなものがあるのだろうか。

林氏はまず、従来のショッピングセンターについて「店舗やテナントにさまざまなサービスを提供し、接客によって売上が上がるよう支援する存在」と定義。その上で、「今は店頭だけでなく、Webにも接客のプラットフォームを作らなければならない」とし、「接客は(顧客の)来店前からすでに始まっている」がパルコとテナント店舗の”合言葉”になっていると語った。

「店頭だけでなく、Webも含めて行うオムニチャネル接客プラットフォーム」――これを林氏は「24時間PARCO」という言葉で表現する。そのカギを握るのが、2014年10月からサービスを開始したスマートフォンアプリ「POCKET PARCO」だ。

クリップ、チェックイン、コンバージョンの「3C」でユーザー行動を可視化

同アプリのねらいは、データ活用により今まで見えていなかったものを可視化すること。

「これまでリアル店舗では、『お客様がどこで離脱しているか』といったことがわかるようなツールがありませんでした。POCKET PARCOにより、Webサイトのログ解析のように、お客様の行動を可視化できないかと考えたのです」(林氏)

POCKET PARCOには、これを実現するための”仕掛け”がある。それは、「CLIP(クリップ)」「Check In(チェックイン)」「Conversion(コンバージョン)」という3つの「C」による行動分析だ。

まずアプリ上で、ユーザーはテナント店舗のブログを読む。ここで興味を持ったユーザーはそのブログを「クリップ」する。これでパルコ側は、来店前のユーザーの興味関心を把握できるというわけだ。クリップを促すための仕掛けとして、クリップしたユーザーには「クリップコイン」が付与され、コインが一定数に達すると優待券に引き換えられるようになっている。

続いて、来店したユーザーはアプリで「チェックイン」を行う。これにより、パルコ側はクリップしたユーザーのうち誰が来店したか、していないかを把握できる。もちろん、ここでもコインを付与することでユーザーにチェックインを促している。

最後に、ユーザーがアプリに登録したクレジットカードで商品を購入すると「コンバージョン」となる。クリップからチェックイン、そしてコンバージョンへ。POCKET PARCOを使うことで、これまで可視化が困難だったユーザーの一連の行動を把握できるようになったのだ。

こうして可視化したユーザーの行動からは、面白い結果も見えてきた。ユーザーのクリップ数が10を超えると50日以内に1回の買い上げが発生することや、50を超えるとコンバージョンが大幅に増加することがわかったのだ。

また、CPS(Cyber-Physical System)によって「アプリがどこで起動されているか」というデータも可視化できた。たとえば浦和パルコをクリップするユーザーは、やはり浦和パルコ付近の鉄道動線に従って分布していると言える。これにより、たとえば「店舗から5km圏内にいる人に対してだけ通知を出す」といった施策ができるという。

これまで見えにくかったショップ別の接客サービス満足度を数値化できるようになったのも、POCKET PARCOの成果だ。ユーザーはアプリ上でテナント店舗の接客満足度を5段階で評価し、パルコはこれを各テナント店舗にフィードバックする。先ほどのユーザー行動のデータと合わせると、最高評価の星5を付けたユーザーが最も再来店率が高く、星1や星2の低評価を付けたユーザーは再来店率が低いことがわかった。容易に想像がつく結果ではあるが、感覚ではなくデータとして可視化できることが重要なのだ。

林氏によると、今後は「自動チェックイン機能」やクリップによる付与コインの増加、購買後のリアルタイムプッシュ通知などアプリの機能をさらに強化していく予定だという。

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