前回、エンタープライズモバイルの定義について説明する中で、エンタープライズモバイルを「BtoE(自社の従業員向け)」、「BtoB(他社やその従業員向け)」、「BtoC(自社の顧客向け)」の3つに分類しました。今回は、これらのうちBtoEのモバイル活用にフォーカスしたいと思います。

BtoEのエンタープライズモバイルを成す、2つのタイプ

BtoEのエンタープライズモバイルは、2つのタイプに分けて考えることができます。

●PCと並行運用するタイプ
「PCと並行運用する」というのは、現在従業員がPCで行っている業務処理をスマートフォンやタブレットに置き換える、またはスマートフォンやタブレットからも使えるようにするということです。この場合の考慮点は、次の2点になります。

  • BYOD含め、セキュリティをどう考えるか?
  • システムがスマートデバイスにどの程度対応しているか?

この2点を把握して計画することで、多くの課題は解決します。いつでもどこでもシステムを使えるようにすることで、より一層業務の効率化が期待できます。スマートデバイスに対応した業務パッケージ製品なども増えてきているので、エンタープライズモバイルだからといってあまり大げさに考える必要はないでしょう。

●スマートデバイスならではの使い方をするタイプ
「スマートデバイスならではの使い方をする」というのは、PCでは対応が難しく、いまだに紙ベースの業務になっているような部分でスマートデバイスを活用するということです。筆者が経営するようなスマートデバイス専門企業に支援依頼が来るケースの多くは、このタイプになります。今回は、こちらについて掘り下げて説明します。

スマートデバイスが企業で活用され始めて数年経った今、このタイプの中にさらに、定石とも言える次の3つの活用パターンが見えてきました。

  • 定石パターン1:営業支援
  • 定石パターン2:フィールドワーク
  • 定石パターン3:対面接客

以降では、それぞれについて見ていきましょう。

定石パターン1:営業支援

営業が、外回り業務にタブレットなどのスマートデバイスを使うパターンです。なかでも特に、写真やカタログを顧客に見せることが多い営業スタイルの企業に向いています。手帳に書いた訪問スケジュールを元に顧客を訪問し、紙のカタログを見せて商談を行い、帰社後、営業日報をExcelなどに入力しているような企業です。例えば、製薬会社、製造業、不動産業、住宅関連業などが挙げられます。

そうした業務はタブレットですべて代替できますし、多種類のカタログや過去のカタログ、最新のカタログなども全部タブレットに保存しておけるため、商談をスムーズに進められます。また、現場で撮影した写真をタブレットの写真アルバムに保存しておき、よりリアルな情報として商談に活用するといったことも可能です。カタログのように定型化された情報よりも、現場感の伝わるリアルな写真の訴求力が有効なケースもあるでしょう。

営業支援業務での活用は、カメラ機能などを持つスマートデバイスの特徴を生かした定石パターンだと言えます。

定石パターン2:フィールドワーク

フィールドワークで多いのは、工事現場での管理業務や設備の保守業務で活用されるパターンです。例えば、建設メーカーや設備保守業などでよく使われています。それらの業務の共通点として挙げられるのは、「図面を使用する」、「現場の写真や作業後の写真を撮影して報告に使う」、「作業完了のサインを顧客や担当者からもらう」、「マニュアルを見る」などです。従来、これらの業務は紙やデジタルカメラを併用して行っていましたが、タブレット1台で代替できます。GPSや地図も組み合わせられますし、非常に応用範囲が広く、スマートデバイスでしかできない価値を提供することが可能です。相当な業務効率/業務品質の向上が期待できるでしょう。

しかし、現場の状況によっては導入が難しいケースもあります。その多くは、「タブレットを常に携帯して作業することはできない」という理由からです。そうした企業では最近、メガネタイプのいわゆる「ウェアラブルデバイス」の採用が検討されています。ウェアラブルデバイスもさまざまなものが発売されており、各社、自社の業務に合わせて検討を進めているというのが、2016年現在の状況です。今後は、ウェアラブルデバイスの軽量化といった進化に合わせ、導入が進むと考えられます。

定石パターン3:対面接客

対面接客に関しては、銀行や百貨店といった顧客と対面で接客・商談を行うような業種や、会員登録などをその場で行うようなビジネスシーン、飲食店などでのPOSレジの置き換えで活用されています。

この分野は、読者の皆様もコンシューマー側として経験したことがあるはずです。従来、銀行や百貨店での接客は、紙のパンフレットなどを使った説明でした。そこにスマートデバイスを採用することで動画なども活用できるようになり、訴求力アップにつながる施策となっています。店頭での会員登録などでも、ペンを使った名前やサインの入力に使われていますが、紙を介さずに直接電子化されることで、紙ベースの情報をシステムに入力する手間がかからず、紙で残った個人情報の扱いを気にする必要もないので、業務効率は大きく向上しています。

また、飲食店をはじめとする小規模店舗では、タブレットとクレジットカード・リーダの組み合わせによるレジも多く使われています。従来型のPOSやクレジットカードへの対応を行おうとすると、通信回線を敷設しなければならず、設置スペースも必要でした。しかし、タブレットで代替できれば、そういった設備への投資や場所のことを考える必要がありません。これにより、新規参入の障壁を低くする効果が期待できます。

* * *

今回は、BtoEにおけるエンタープライズモバイル活用の定石パターンを3つ紹介しました。工場関連でも活用方法が模索されていますが、まだ定石と呼べるようなものは出てきていないようです。

ノートPCも薄型化・軽量化していくなかで、タブレットの存在意義が難しくなってきています。「軽量コンパクトだから、ノートPCではなくてタブレット」という考え方だけでは、BtoEにおいてはあまり効果的な活用方法だとは言えないということです。

一方、今回紹介した定石パターンはどれもノートPCでは代替しにくく、タブレットならではの活用方法です。エンタープライズモバイルとして、スマートフォンよりもタブレットが向いている活用パターンであることも注目すべき点でしょう。言葉を変えれば、「企業におけるタブレット活用パターン」とも言えます。特徴のあるデバイスなので、その特徴に合った活用をすることが大切なのです。

次回は、BtoBでの活用パターンについて説明したいと思います。

早津 俊秀
企業のUX・モバイル活用の専門企業であるNCデザイン&コンサルティング株式会社を2011年に起業。 ITアーキテクチャの専門家とビジネススクールや国立大学法人等、非IT分野の講師経験をミックスして、ビジネス戦略からITによる実現までをトータルに支援できることを強みとする。