日本IBMは3月4日、オンラインで記者会見を開き、AIを活用した新たな材料の発見(マテリアルズ・インフォマティクス)を体験できるWebアプリケーション「IBM Molecule Generation Experience」(MolGX)を発表した。対応言語は英語と日本語となる。

AIは「科学の発見」を加速させる

マテリアルズ・インフォマティクスとは、AIや最先端のデータ処理技術を活用して新規材料や代替材料を探索する技術として、開発コストの低減や開発期間の短縮、素材の発見につながる可能性がある技術分野として注目されている。

MolGXは、欲しい性質を持つ材料の分子形状を自動でデザインする無料のWebアプリケーション。IBM ResearchのAI技術を部分的に提供し、一般ユーザー向きに作られた分かりやすいユーザーインターフェースや操作性で高度なITスキルがなくても、AIの基本を学びながらマテリアルズ・インフォマティクスを体験できるという。

まず、科学の現状認識として日本IBM 理事 東京基礎研究所所長の福田剛志氏は「新型コロナウイルスの感染拡大に伴うワクチンの開発競争は、科学の緊急性がかつてないほど高まっている証拠だ。コロナウイルス以外にも地球温暖化や気候変動、食糧不足、エネルギー問題など科学に解決策を求めなければならない課題は多くある。人類は、これら世界的な喫緊の課題を解決する方法を次々と発見していかなければならず、発見のペースを速める必要性に迫られている」と指摘。

日本IBM 理事 東京基礎研究所所長の福田剛志氏

日本IBM 理事 東京基礎研究所所長の福田剛志氏

20世紀後半におけるコンピュータの発達で科学の発見のサイクルを大きく加速し、その計算能力で複雑に絡み合った自然法則の相互作用をモデル化してシミュレーションすることが可能になり、古典的な仮説検証のサイクルがスピードアップしている。これにより、薬効のメカニズムの解明や遺伝子やタンパク質の機能を解明することなどができるようになってきたという。

そして、2000年代にはコンピュータの利用規模が拡大するにつれて、データマイニングやビッグデータ、機械学習の時代を迎え、データの整備が進むことで直近10年間ではAIの発達が顕著となっている。

福田氏は「従来は問題を調査し、仮設を立て、検証したうえで評価・報告するという科学の方法論はコンピュータの力を一部借りながらも基本的には人間が進めていた。AIは科学の方法論にも大きく影響を与えるものであり、これまでは人間のセレンディピティ(予想外の発見)に頼ってきていたが、これからはAIが自動化する”Accelerated Discovery”(発見の加速)していく未来が期待されている」と強調する。

これまでの科学の変遷

これまでの科学の変遷

同社は、世界中の研究所で行っている研究や広範な業界のトレンドに基づいて、今後5年間にテクノロジーがビジネスと社会を根本的に変革すると考えるテクノロジーについての予測「5 in 5(ファイブ・イン・ファイブ)」を毎年発表している。

昨年10月に発表した最新の5 in 5では、持続可能な未来を実現するために、新たな材料の発見を加速することに焦点を当て、持続可能性、気候変動への対応、責任ある生産の支援、健康の増進、クリーン・エネルギーの推進などの課題を取り上げている。

IBMが昨年発表した「5 in 5」

IBMが昨年発表した「5 in 5」