米IBMコーポレーションは、毎年、今後5年間に起こりうる5つのイノベーションを取り上げる「Next 5 in 5」を発表している。IBMが全世界に展開する研究所が開発した新たなテクノロジーを基に、生活を一変させる可能性を持つ市場や、社会動向などを捉え、これによって我々の生活がどう変わるのかを予測するものだ。今年で5回目となるだけに、今年の場合は、「Next 5 in 5 × 5」という言い方ができるかもしれない(もちろん、公式にはそんな言い方はしていないが)。

今回の予測に触れる前に、第1回目となる2006年12月の予測を検証することからはじめてみよう。つまり、第1回目の「Next 5 in 5」は、まさに5年後となる「いま」を予測していることになるからだ。

2006年12月にIBMが予測したのは、

  • いつでも、どこにいても健康管理
  • リアルタイムの音声翻訳
  • 3Dインターネット到来
  • 環境問題をナノテクノロジーで解決
  • あなたの気持ちをわかってくれる携帯電話

の5つであった。

「いつでも、どこにいても健康管理」では、機密性の高い医療データを、機密保護しながら利用できるワイヤレス技術のイノベーションによって、患者がいる場所のすべてを医療現場にすることができるというものだ。具体的には、糖尿病などの慢性疾患をもつ人々が、家に設置したセンサー、患者が身につけたセンサー、あるいは装置やパッケージに内蔵されたセンサーを通じて、日常生活を送りながら体調をモニターしてもらうこと、医師のバーチャル診察により、通院の負担が減るといった世界の到来だ。

そして、「リアルタイムの音声翻訳」としては、旅行者が携帯端末を使用して英語から日本語に翻訳したり、Webサイトのテキスト翻訳だけに留まらず、映像や音声なども双方向で翻訳できる世界の到来を予測していた。

「3Dインターネット到来」では、仮想空間オンラインサイトにおける3Dインターネット化が進展。仮想空間の中でお気に入りの店舗内を歩いたり、衣服を試着するといったことが可能になるほか、自分の家の見取り図を再現して、さまざまな電化製品、キャビネットの種類や色調も試すことができるようになるとした。

「環境問題をナノテクノロジーで解決」では、スマート配水システムによって、貯水池からポンプ場、スマートパイプ、貯蔵タンク、そして水道使用者のインテリジェントメーターへと流れる配水をエンドツーエンドで管理できるというもの。カーボンナノチューブを使用した水の脱塩も可能になると予測した。

最後の「あなたの気持ちをわかってくれる携帯電話」は、携帯端末が持ち主の好みとニーズについて継続的に学習し、適応する能力を持つようになるというもの。利用者が夜遅くの帰宅途中であることを認識し、ユーザーのお気に入りのピザレストランから、特別価格の持ち帰り用ピザの宣伝が送られてくるといったことを事例としてあげていた。

こうしてみると、一部では実現されている技術やサービスもあるが、多くのものが、まだ一般には広く普及しておらず、人々の生活を大きく変えるというところには至っていない。その多くが入り口に到達したという段階だといっていいだろう。そうした点を考慮しながら、2010年12月に発表された最新版の「Next 5 in 5」を、改めてみてみたい。

今回発表したのは、

  • あなたも地球を救う市民科学者
  • 友人との通信も3Dで
  • 空気で充電できるバッテリー
  • 私にぴったりのマイ・ルート
  • コンピューターを都市生活のエネルギー源に

の5つである。

「あなたも地球を救う市民科学者」では、電話や自動車、財布に組み込まれたセンサー、さらにはTwitterのつぶやきからもデータが収集され、周辺環境の様子をリアルタイムで情報として伝え、提供されたデータを地球温暖化対策や絶滅危惧種の保護などに利用できるというものだ。この技術は、地震などの自然災害の際にも、正確で詳細な事後分析が可能となり、地震による津波発生の早期警告も実現する。緊急時出動員の対応の迅速化や、人命救助にもつながる可能性があるとしている。

「友人との通信も3Dで」では、3Dインターフェースが確立し、友人のホログラム(3次元立体画像)とリアルタイムで双方向通信ができるようになるという。映画などで描かれた夢の世界が5年後にはやってくるという。

そして、「空気で充電できるバッテリー」では、トランジスタと電池技術の進歩により、デバイスの連続使用時間が現在の約10倍になるだけでなく、小型デバイスではバッテリーそのものが必要なくなるという。IBMでは、エネルギー・スカベンジングと呼ばれる技術を用いることでこれを実現。一部の腕時計で実用化されているように、「振ってダイヤルする」だけで充電ができるという。

「私にぴったりのマイ・ルート」としては、先進の解析技術によって、目的地に最短時間で移動できるパーソナル化された推奨ルートを利用できるようになるとする。現在の交通情報システムや、交通渋滞の中で現在地を示すといった事後装置や、交通遅延で所要時間を予測するWebアプリケーションではカバーできなかった新しい情報を提供でき、より詳細な目的地までの適切な案内が可能になるとしている。

「コンピューターを都市生活のエネルギー源に」としては、コンピュータやデータセンターから放出される余分な熱やエネルギーを冬のビル暖房や夏の冷房などに利用。コンピュータのプロセッサ群から放出される熱エネルギーを効率的にリサイクルし、オフィスや家庭に温水を提供することもできるという。CO2排出量の削減にもつながる環境社会が実現されるというわけだ。

今回、提示された「Next 5 in 5」は、ぜひとも実現してほしい、夢の世界である。果たして、5年後にこうした世界が我々の生活シーンに活用されるようになるのか。楽しみである。