20周年を迎えたNTTドコモ コーポレートサイト。前回はその裏側を同社マーケティング部 山川 聡氏と藤原 直人氏に、企業からの情報発信に焦点をあてて伺った。3回目はソーシャルメディアなどを活用した利用者との双方向の繋がりやその課題についてレポートする。
一方的な情報発信から双方向性を持つサイトへの転換
キャリア公式サイトには、新製品を始めとした機種の情報や料金の案内などを中心に、さまざまな情報が集約されている。特にNTTドコモの場合、サポート情報やIR情報といった情報についてもサイトを分けておらず、全ての情報が詰まっている状態だ。
「キャリアサイトというのは、企業側から発信したいニュースを出すための掲示板という役割と、バーチャルな店舗という役割があると思っています。これは従来からあった役割ですが、5年ほど前にオウンドメディアという役割も加わりました」と山川氏。
現在のNTTドコモのサイトは十分にその役割を果たしていると考えられるが、その先として考えているのはユーザーとの双方向性を持ったサイトだという。
「たとえばユーザーがわからないことを質問すると、その答えを教えてもらえるというようなサイトです。単純なFAQではありません。ユーザー同士のコミュニティを形成するのか、ドコモ側から回答を用意するのかはわかりませんが、プッシュだけではない、サジェストの役割を持ったサイトが必要です」と山川氏は語る。
その入口として、強化を進めているのがソーシャルメディアだ。すでに公式Twitterアカウントと公式Facebookページの運用が開始されている。これがそのままユーザーコミュニティになるわけではないが、ユーザーと向かい合ったサイトづくりの導入として活用している段回だ。そしてこれらの運営も、コーポレートサイトと同じく山川氏の所属するマーケティング部が担当している。
情報発信に徹するTwitterと話題と遊びを提供するFacebook
「Twitterについては、いろいろなことを考えた上で現在は、まず情報発信に使って行こうという考えです」と山川氏。
製品やキャンペーン、サービスに関する情報を一方的に流し続けるTwitterアカウントは、ドコモのユーザーが積極的に情報を得るために活用するためのものだろう。一方、Facebookでは積極的にユーザーの意見を募るアンケート的な使い方や、遊びの要素を提供している。
特に話題になったのは、2012年夏モデルの発売前に実施された「2012夏モデルほしいランキング」と、過去の人気端末を並べて持っていた端末に投票する「HISTORY」だ。Facebookを使っているが、単純に「いいね!」ボタンを使うのではなく、「2012夏モデルほしいランキング」では「ほしい!」ボタン、「HISTORY」は「持ってた!」ボタンを設置するなど、凝った作りになっている。
「予想以上に共有されましたし、楽しんで参加していただけたようです。もっとほかの時期はやらないのか、というような声もありますね」と藤原氏は手応えを語る。
過去機種を振り返る「HISTORY」は単純に自分が持っていた端末を紹介できる側面もあり、ユーザーの多くが楽しい遊びとして参加したようだ。
「2012夏モデルほしいランキング」も同じくユーザーが気軽に参加した様子が見ててとれたが、こちらには意外なところからの反応もあった。「他社の担当者から、あれはやられたと思った、と言われました。うれしかったですね」と山川氏は笑みを浮かべる。
ごく最近では、コーポレートサイトのトップページの夏デザインをユーザーからの"声"によって決めるといった取り組みをFacebookで行っている。これはまず最初に、テーマとして「夏」のイメージをユーザーから募集。そして集まった回答をもとに、「海・ビーチ」と「青い空と白い雲」の2パターンのデザイン案を作成し、ユーザーに投票してもらうというものだ。募集は7月17日までだったが、その結果は「NTTドコモコーポレートサイト」を見ていただきたい。
ところで同社の公式Twitterのフォロワー数は約11万、公式Facebookのいいね!は約23万と、企業アカウントとしては大手の部類に入るだろう。だが、それだけの数を集めても、マーケティング効果や影響力は、コーポレートサイトと比較して"まだまだ小さい"という。山川氏が「次につなげるための、試行錯誤の段階」というように、TwitterとFacebookでユーザーとの関わり方を異なるものとしているのも、このような試行錯誤の一環なのかもしれない。
公式アカウントの「中の人」として、他社のTwitter担当者と交流する機会などには、企業ごとの取り組み方の違いに驚かされることも多いようだ。さまざまな手法の中で、どういう姿勢がNTTドコモという企業に合うのかは、まだ研究中だ。
サイト構造変化も視野に入れてユーザーコミュニティの形成を目指す
「SNSを通じてユーザーと会話したいという気持ちは強く持っていますし、また、ユーザー同士が会話できる場を用意したいという気持ちもあります。一方的な情報発信ではなく、そういう取り組みができるのがWeb本来の特性、これを活かして行きたいですね」と山川氏は今後の方針を語る。
先に挙げたユーザーへのサジェスト機能を持つサイトも、こうした取り組みの中から作り出されて行くのだろう。その中で、根本的なサイト構造の変化が出てくる可能性もある。
「アクセス解析で見てみると、圧倒的に利用されているのは製品情報とサービス情報です。では、そういうものを見たいユーザーにとってIR情報は必要でしょうか。そういうことも考えなければならないでしょう」と藤原氏。
ドコモのサイトはオールインワンであることを目指して作られてきたものであり、現在はオンラインショップなどの一部機能をドメインとしては分離していても、基本的に「www.nttdocomo.co.jp」にアクセスすれば全てがわかる、という作りだ。これが便利でもあり、不便と感じる人もいるかもしれない。もしかしたらユーザーにとっては欲しい情報だけがあるページの方が利便性が高いもしれない、という視点もNTTドコモは失っていない。
「もしかしたら将来的にサイトを統廃合することもあるかと思います。ユーザーにとって価値の高いコンテンツの提供や、コミュニティ形成に取り組みたいです」と語る山川氏が、コーポレートサイトとして絶対にやってはいけないことは、むやみやたらにトップページにバナーを貼ることだという。
「企業としてはきちんと使われるサービスを提供しなければなりません。それができていないからといって、むやみにバナーで誘導というのではよいサイトにはなりません。同じく、売りたいものや注目させたいサービスのページだけをサイト内検索で上位に表示するというのもナシだと考えています」と山川氏は強く語る。
企業としてよりアピールしたいものへの誘導を強めることは決して悪いことではない。しかし、検索ワードの関連性を無視してまで、表示順位を操作するとなればユーザーの利便性に影響する。社内からの要望が出ても、山川氏はこのような説明を行い、恣意的な検索結果にしないことの了承を得るという。
まず第一に、企業の発信したい情報とユーザーの欲しい情報を間に立ってコントロールするのがキャリアサイト運営のポイントとなるだろう。そしてそのメディアやプラットフォームは普遍ではない。ソーシャルメディアやオウンドメディアとしての役割など、時代に合わせながらミッションを貫く山川氏や藤原氏の姿勢から生み出されているのが、NTTドコモのコーポレートサイトなのだ。
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NTTドコモ -巨大サイト運営の裏側- (1)
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NTTドコモ -巨大サイト運営の裏側- (3)