大手通信事業者の回線を借り、低価格で再販を行うMVNO(仮想移動体通信事業者)。日本では「格安SIM」の名ですっかりおなじみのモノとなっている。イオンなど大手流通の参入により、地方在住の一般消費者でも低価格な基本料金の格安SIMが簡単に契約できるようになっている。このMVNOはすでに海外では広く知られた存在であり、低所得者や2回線目需要として各国で一定のシェアを獲得している。では海外ではどのように格安SIMが売られているのだろうか? 先日Mobile World Congress 2015が開催されたスペイン・バルセロナでその状況を見てきた。
八百屋や雑貨屋、どこでも売っている格安SIM
スペインは大手事業者が4社あり、いずれもが多くの店舗を構えて営業を行っている。回線契約は日本のような後払いのポストペイドだけではなく、先払いのプリペイドもよく利用されている。このうち料金が安いのはプリペイドで、利用者の割合は全体の30%前後と言われている。
プリペイドSIMの購入には身分証明書の提示によるユーザー登録が必須であり、あとから登録、といった方法は一切認められていない。各社の店舗は契約変更や端末購入などの来客で常に混雑しており、夕方などに訪問すれば行列は1時間待ち、といったこともざらにある。そのためプリペイドSIMの購入を含め、通信業者の店舗へ行くのはちょっと面倒だ。このあたりの状況は日本でも似たようなものだろう。
ところがMVNOの格安SIMならば、わざわざ行列しなくとも簡単に購入できるのだ。その理由はバルセロナの街に行ってみればすぐに理解できる。繁華街や住宅街を歩いてみると、たいていの商店に同じような広告が掲載されているのに気が付く。実はその広告のほとんどがMVNOのものなのだ。しかも携帯電は販売店やIT関連のお店だけではなく、雑貨店や両替所、果ては八百屋までもMVNOの広告を掲げているのである。
スペインにはMVNO事業者は何社かあるが、そのほとんどがプリペイド契約での販売を行っている。販売先が街中の商店なので手軽に購入できる。もちろん各MVNOは大手通信事業者の回線を利用しているため通信品質に問題は無い。
プリペイドで支払い簡単、料金も単純
手軽に買えるプリペイドSIMであっても、スペインは登録が必要だ。MVNOのプリペイドSIMを販売しているこれらの小さい商店も、購入者の身分を確認する作業を必ず行っている。
とはいえIDカードやパスポートをその場でコピーし、店が保管することは行っていない。店員が購入者の身分証明書を見て本人であることを確認し、氏名や生年月日などは店に備え付けのパソコンから直接MVNO各社の利用者登録システムに入力して登録を行うのだ。なお虚偽の申請を行った場合は営業禁止など罰則があるとのことで、このあたりはきちんとした登録業務がされている。
実際に購入してみると、わずか数分でプリペイドSIMを入手することができた。最初に訪れた八百屋では同じくSIMを購入している客がいたのですぐ隣の両替所を訪問。Lebara MobileのプリペイドSIMが欲しいと伝えると、外国人客も多いからか中東系の店員との英会話もスムース。パスポートを提示して店員がちらりとこちらの顔を見て、あとは店のパソコンから必要事項を入力していく。
料金を払う前にSIMを手渡され、きちんとデータ通信ができるかどうかを確認してくれるのはなかなか親切だ。データ通信に必要なAPN設定はMVNOの場合、端末に自動設定されないこともある。今回も設定は店員に任せ、APN(gprsmov.lebaramobile.es)を入力してくれた。そして無事データ通信ができれば代金を払って完了、この間10分もかからなかった。
このように外国人でも購入が簡単なプリペイドSIMは料金体系も単純明快だ。同社のお勧めプランは5ユーロで500分の通話と1GBのデータが含まれる。あらかじめ5ユーロを払えばその月はこの無料利用分が利用できるわけだ。翌月以降も使い続けるなら、毎月5ユーロを残高に追加していけばよい。
またデータ通信が多ければ、1GBが8ユーロ、2GBが14ユーロ、3GBが25ユーロで追加できる。追加もスマートフォンの画面から「DATA1GB」と容量を書いたショートメッセージを指定の番号に送信するだけ。使い方も単純なので、これならカスタマーセンターに電話で料金確認などを行う必要も無いだろう。
ヨーロッパではスペインのようにほとんどの国にMVNOがあり、格安料金で使いたい消費者向けにサービスを行っている。日本ではまだ格安SIMはプリペイドよりもポストペイド契約が主流だが、スマートフォン利用者の低年齢化が進むにつれ、お小遣いで払える低価格のプリペイドSIMなども増えるかもしれない。海外での格安SIMの販売方法は日本でも参考になるだろう。