韓国の携帯事情は日本と似ているようで異なる面もある。特に、販売されている端末は同一メーカーによる「事業者別端末」がほとんど存在しておらず、メーカーは複数の事業者向けに同一モデルを投入することが一般的だ。そのため端末の販売戦略も日本とは大きく異なっており、最近では端末に愛称を付けることがブームとなっている。

日本とは異なる端末メーカーと通信事業者の関係

韓国は日本同様、各携帯電話事業者が自社向け専用端末を販売している。加入者が端末を購入するのは新規契約時や買い増し、機種変更時などであり、日本で携帯電話を購入する際とほぼ同じイメージだ。そのため、韓国の携帯電話事情は日本人にとっては理解しやすいものだろう。海外のGSM/W-CDMA圏では「端末は端末単体、携帯回線は通信事業者で契約してSIMカードを受け取る」ことが一般的だ。日本や韓国もW-CDMA方式の開始によりSIMカード(UIMカード)の採用が始まったが、両国の販売形態は従来の「回線と端末のセット」を踏襲したものとなっている。

韓国には携帯通信事業者が3社あり、各社が異なるコンテンツサービスを提供しているのも日本と似通っている。しかし日本と全く異なるのが、各事業者が販売している端末の種類だ。韓国では事業者専用端末が存在するものの、日本のそれとは概念が大きく異なっている。例えば日本ではシャープがNTTドコモ、au、ソフトバンクに端末を供給しているが、同じ"AQUOSケータイ"でも3事業者別に異なるモデルが投入されている。端末の型番も各事業者で異なる独自のものだ。しかし、韓国では同じモデルが各事業者で販売されている。例えば、Samsungの最新モデルをSKテレコム、KTF、LGテレコムという3事業者それぞれが取り扱っているのだ。ただし通信方式(CDMA2000の周波数)やそれぞれの事業者のコンテンツサービスに適合したアクセスキーの印字を変更するなど細かい仕様は異なっており、型番にも若干の変更が加えられている。

Samsungの広告。端末の下に複数の型番があるものが、各事業者に供給されている同一モデルだ。型番は若干異なるが、日本のように事業者ごとに全く異なる端末型番形式ではない

ちなみに3事業者のシェアはSKテレコムが約5割、KTFが約3割、LGテレコムが約2割であるため、あるモデルはSKテレコムのみ、あるモデルはSKテレコムとKTFのみといったように、メーカーは必ずしも全事業者向けに全てのモデルを販売しているわけではない。

そして、新製品の投入時期も通信事業者が一括して決めるのではなく、メーカーのモデルごとに自由な時期に発売される。このためTVコマーシャルや街中の広告を見ても、通信事業者はサービス、メーカーは端末、のように両者が別々の広告展開を行っていることも珍しくない。逆に言えば日本のように「ドコモから905シリーズが新発売」という広告は韓国には見られないわけだ。

このように通信事業者とは無関係に同じ端末(基本仕様は異なるが外観は同一)をメーカーが市場に投入できることから、メーカー自らが端末の販売促進活動を率先して行っている。メーカーのライバルは「他の全メーカー」であり、製品の認知度や好感度を上げるために積極的な広告活動などを行っている。そのため韓国の街中至る所に携帯メーカーの広告が目立つ状況になっているのだ。

ニックネーム付きの端末があたりまえに

日本では家電ブランド携帯が流行のようだが、韓国は数年前から端末そのものに愛称を付けることが一般化している。覚えやすいネーミングを付けることがそのまま端末の売れ行きを大きく左右しているという。有名な成功例はLG電子のチョコレートフォン(chocolate)だろう。黒一色のボディーに赤いバックライトのタッチセンサーボタンを備えたデザインはまさに「チョコレート」であり、韓国全土のみならず世界中でもヒットしたことは記憶に新しい。

その後もバナナフォン(イエローのカラーリングと湾曲したスライド形状がバナナのイメージ)やUFOフォン(回転式のジョグホイールとタッチセンサーがUFOのイメージ)のようにメーカーが端末に愛称を付けて製品をリリースすることが一般化しつつあるようだ。昨年は韓国で流行したミニスカートファッションにあやかった「ミニスカートフォン」がヒットしたが、暖かくなる今年の春の到来と共に「ミニスカートフォン2」として再登場している。

韓国では端末に愛称を付けることが一般化している(LG電子・Viewty)

春の到来と共に今年も後継モデルが登場したSamsungのミニスカートフォン

そして最近はデザインに因んだ愛称ではなく、タレントのニックネームを冠したモデルが増え始めている。これは、メーカーの端末広告に登場したタレントの名前をそのまま愛称にしたものだ。韓国では通信事業者やメーカーがタレントを広告に利用することが増えているが、端末限定のタレントを使うことによって、製品イメージをタレントに重ねさせているのだ。実際、タレントの人気に端末の価格と売れ行きが大きく左右されているとのことで、今では人気のタレントを広告に採用することが販売戦略上重要なものになっている。

街中の携帯販売店の店頭にはメーカーや事業者の広告が多数貼られているが、必ずといっていいほどタレントが登場している

日本でも人気のウォン・ビン。彼がCMに登場して話題となったLG電子の「ウォン・ビンフォン」はもちろん人気商品になった

携帯ショップ店頭がフルーツやファッション、タレントのニックネームで溢れ返っている韓国。今後どのような愛称が流行になるのか興味が尽きないところである。