3,700円という激安のスマートフォン「JioPhone Next」がインドで発売されます。4Gに対応しカメラも搭載。日本でもエントリーモデルとして使えそうなスペックを備えています。インドは今でもスマートフォンを使ってない人が多くいますが、激安スマートフォンの登場でその状況は一気に変わるかもしれません。

JioPhone NextはインドのJio PlatformとGoogleが共同で開発した製品です。2021年7月の発表時には50ドル(約5,500円)以下という廉価での提供を匂わせていましたが、インドメディアによると2,500インドルピー、約3,700円以下になるだろうとのことです。1年間365日使うことを考えると、1日わずか約10円で買える計算です。

  • 3,700円で買えるJioPhone Next

さすがにスペックは低く、チップセットはクアルコムのエントリースマートフォン向けのSnapdragon 215を搭載しています。カメラ性能はまだ公開されていませんが、スナップ写真が撮れる程度の画質ではないでしょうか。ディスプレイの解像度はHD+とのこと。ロースペックな本体でもAndroid OSを動かせるよう、GoogleはJioPhone Next用にカスタマイズしたOSを開発しました。高度なゲームを楽しむ端末ではなく、検索やメッセージ、SNSを使い、YouTubeで動画を見る、といったライトな使い方に絞り込んでいるのです。

  • JioPhone Nextは7月にインドで発表された

超低価格なスマートフォンは、たとえば2020年にベトナムのVsmartが「Bee Lite」を60万ドン、約2,900円で発売したことがあります。Vsmartはベトナムで低価格なスマートフォンを次々と展開してシェアを伸ばしていましたが、2021年5月にスマートフォン事業から撤退を表明。新型コロナの影響もあるのでしょうが、低価格モデルだけでは利益を上げにくいという問題があったのかもしれません。

  • ベトナムで約2,900円で登場したBee Liteだったが、市場から姿を消した

JioPhone NextはBee Liteより価格は高いとはいえ、3,700円です。この価格でどうやって利益を上げるのかは難しいところですが、インドならではの事情でビジネスを成功させることができるとみられています。

JioPlatformはインドで「Jio」ブランドの通信キャリアも展開しています。JioPhone NextはこのJioの加入者が購入できます。Jioは2015年に低料金でインド市場に参入した新興キャリアですが、後発だったため2Gや3Gといった古いネットワークは使わずに、4Gでインドにネットワークを展開。2020年末時点で加入者数は4億2,620万人に達しており、これはインドで最大、世界でも3位を誇ります。

  • インド最大キャリアになったJio

Jioがわずか数年でインドでシェア1位になれたのは、激安なガラケースタイルの「スーパーフィーチャーフォン」を積極的に投入したからです。2017年に発売した「JioPhone」は10キーを搭載した携帯電話で、Jio加入者は無料、単体価格は699ルピー(約1,000円)でした。多くのインド人がJioPhoneをタダで貰うためにJioに加入したのです。このJioPhoneはJioの4Gネットワークを使い、ブラウザ検索や音楽ストリーミングサービス、SNSが利用できました。インドの他キャリアでは、ガラケーを使ってもせいぜい通話しかできなかったのです。JioPhoneはスマートフォンを所有できない低所得者層を中心にインドで売れまくりました。

  • 1,000円で売り出されたネット接続対応ガラケー「JioPhone」

一見するとガラケーのようなJioPhoneですが、ロースペックな端末でもアプリを動かしたりネットアクセスが可能なKaiOSというOSを搭載しています。10キー操作ながらも簡易的なスマートフォンのように使えるこのようなガラケーを「スーパーフィーチャーフォン」と呼ぶのです。KaiOSはJioPhone以外にも利用されており、スーパーフィーチャーフォンは新興国を中心に使われています。2018年にはGoogleがKaiOSに出資し、今ではKaiOSの動くスーパーフィーチャーフォンでGoogle検索やGoogleマップ、YouTubeやSNSアプリを使うことができます。

  • KaiOS搭載のスーパーフィーチャーフォン。ガラケーながらスマホのようにアプリが使える

話がJioPhone Nextからちょっとずれてしまいましたが、加入者が4億を超えるとなれば、Jioは3,700円でJioPhone Nextを売っても薄利多売で利益を出せます。またGoogleは激安なKaiOSのスーパーフィーチャーフォンだけではなく、スマートフォンでもGoogleサービスを使ってもらえれば収益増が期待できます。共同でJioPhone Nextを開発した理由はGoogle利用者を増やそうと考えたからです。

  • JioPhone Nextは格安でも十分ビジネスになるとみられている

インドのスマートフォン事情を大きく変えそうなJioPhone Nextは、当初9月10日に発売予定でした。しかし直前になって製品の改良を加えるために11月に延期されてしまいました。実情は世界的な半導体不足による製造工程の遅れとみられています。実際にこの価格でどんな使い勝手のスマートフォンとして出てくるのか、発売後はぜひ実機を触ってみたいものです。

JioPhone Nextが日本で売られることは無いでしょう。しかし、いずれ自由に海外旅行に行けるようになったころ、インドの地方都市を訪れた時に街角の雑貨店の店頭にJioPhone Nextが並べられており、インドの人々がこぞって買っているなんて光景が当たり前のように見られるかもしれません。ハイスペックなスマートフォンが次々と登場する一方で、新興国のデジタルデバイド解消を目的とした超低価格なスマートフォンの開発も着々と進められているのです