ベトナムのスマホと聞いて、低機能な格安スマホを思い浮かべる人も多いかもしれません。しかしiPhone 12も対応した5G機能を持つスマホをアメリカに投入予定など、性能はもはや大手メーカーに負けないレベルに達しています。

そんな高性能スマホを作っているのがVinSmart。ベトナムのコングロマリット、Vingroup(ビングループ)傘下のメーカーということだけあって、資金力もあり優秀な人材を集めています。2018年にベトナムのスマホ市場に参入、まずはベトナム人好みの低価格スマートフォンを次々と投入し、あっという間にシェアを高めていきました。

  • ベトナムでメジャーなVinSmartのスマホ

そのVinSmartの最新モデル「Vsmart Aris Pro」はフロントカメラが見えないスマートフォンです。しかもフロントカメラはディスプレイの下に埋め込まれているのです。つまり普段はディスプレイ全体を表示領域として使うことが可能で、カメラアプリを起動してフロントに切り替えるとディスプレイの上部中央下にあるフロントカメラを使うことができるのです。

  • フロントカメラが見えない「Vsmart Aris Pro」

iPhoneを見慣れていると、ディスプレイの上にノッチがあることが当たり前と思うでしょう。しかしiPhoneはそのノッチのせいで、実際の表示領域はスペック上の画面サイズより小さくなってしまいます。一方Vsmart Aris Proは6.39インチ、2,400×1,080ピクセルのディスプレイすべてを動画や写真、SNSの表示領域として使えるのです。

  • メニューやコンテンツの表示で画面を遮るものは一切ない

このフロントカメラをディスプレイに埋め込んだスマートフォンは、Vsmart Aris Pro以外にまだ2機種しか世界で販売されていません。ZTEの「AXON 20 5G」そして日本の楽天モバイルの「Rakuten BIG」だけなのです。VinSmartは最新のディスプレイ技術を搭載したスマートフォンを世界で3番目に製品化したというわけです。

Vsmart Aris Proはベトナムで販売されますが海外展開は不明です。しかしVinSmartは別のスマートフォンで海外市場、しかもアメリカに進出する予定です。5Gに対応した「Vsmart Aris 5G」が、グローバル向けに投入される予定です。

VinSmartによると、アメリカのキャリア向けに5Gスマートフォンを年内に150万台から200万台出荷するオーダーを受けたとのこと。Vsmartブランドではなくキャリアブランドで販売される予定です。5Gでも先進国のアメリカにベトナムメーカーの5Gスマートフォンが投入されるということは、VinSmartの製品が先進国の消費者にも十分納得できる品質・仕上がりに達しているということでしょう。

  • VinSmartの5G開発機による速度テスト。5Gは4Gの約9倍、568Mpbsを出している

VinSmartの国際戦略は実は2019年に別の形で始まっています。2019年4月、ヨーロッパで低価格なタブレットなどを展開しているフランスのArchosの株式を60%獲得する契約を結び、VinSmartの傘下に収めました。今後ArchosブランドのスマートフォンやタブレットをVinSmartが製造し、ヨーロッパやアフリカへ展開しようという戦略です。VinSmartのブランド力は国際的にはありませんから、アメリカはキャリアブランド、ヨーロッパは老舗ブランドを使って製品を拡大する戦略は理にかなっています。

  • ヨーロッパでは老舗のスマホ・タブレットメーカーArchosはVinSmart傘下となった

Canalysの調査によると、2020年第2四半期のベトナムのスマートフォンシェアは、サムスン33%、OPPO 17%、Vivo 12%、VinSmart 11%、Realme 9%となっており、VinSmartは堂々のベスト5位入りを果たしています。ベトナムにはシャオミも参入しており、中国メーカーが怒涛の新製品投入を続ける中でこの順位を記録しているということは、しっかりとベトナムの消費者に受け入れられているということでしょう。

ベトナムでは2021年に5Gが開始される予定で、そうなればVinSmartの5Gスマートフォンの製品数も増えるはずです。それらが海外市場、たとえば日本に投入される可能性も十分あります。「中国製のスマホなんて」と日本でも数年前までは思われていました。ところが今ではファーウェイ、オッポ、シャオミの製品が普通に売られており、SIMフリー市場で販売数の上位になることも珍しくありません。いずれはベトナム製のスマートフォンがその位置を占めるのかもしれないのです。