日本では緊急事態宣言が一部の都県で発令されています。政府からは飲食店の営業は20時まで、酒類の提供は19時までという要請がされており、夜遅くまで食事をしたりお酒を飲むことができなくなっています。一方、リモートワークの普及で外出しない人も増えたでしょうが、その分、自宅でゆっくり食事をしたりお酒を飲む人も増えていることでしょう。自宅ならリラックスした空間で飲食できますから、ついつい深酒してしまう、なんてこともあるかもしれません。

  • 自宅でビールを醸造できるLGのホームブリュー

    自宅でビールを醸造できるLGのホームブリュー。これからこのような家電も増えるだろう

しかしお酒に酔った状態でスマートフォンをいじると、SNSを見ながらいつもはしないような投稿をしてしまったり、あるいは判断力が鈍ったままショッピングサイトで高価なものを買ってしまうといったこともあるかもしれません。たまの外出時、友人たちと早めに居酒屋に入って19時までに急いでお酒を飲んだら早酔いしてしまった、ということもあるでしょう。会計の時に気が大きくなって「ここは自分が払う」とお金を払ったものの、帰宅後すぐに寝てしまいそのことを忘れ、クレジットカードの請求書が届いたころに「こんなお金使ったかな」と思い出せない支払いがリストに載っていた、なんて経験がある人もいるかもしれません。

  • スマートフォンは今やお財布。酔っている間に使うと思わぬ出費をしてしまうこともある

今やスマートフォンは24時間社会とつながり、おサイフ代わりにその場ですぐに支払いや買い物のできる生活必需品です。普段は気を付けてSNSを使っていても、気のゆるみで書き込んだ一言で炎上してしまったり、勢いでお金を支払ってしまう、なんてことも起こりがちです。アルコールが入った状態ではなおさらそんな危険性が高まります。

そんな過ちを犯さないように注意できるスマートフォンが登場しそうです。中国の家電メーカー、Gree(以下グリー)は「スマートフォンのインタラクティブな飲酒モードシステム」という特許を中国で出願しました(特許番号CN112333323A)。ちなみにグリーを率いる董明珠(Dong Mingzhu)董事長は、米フォーチュン誌が選ぶ「世界最強の女性経営者50人」に選ばれたほどの人です。

  • 中国大手家電メーカーのグリー。董明珠氏は女性経営者としても敏腕だ

日本同様、中国でも飲酒は大きな文化です。そして中国は世界一のスマートフォン大国になっています。2020年の中国の国内スマートフォン出荷台数は3億800万台に達しています(中国信息通信研究院調査)。また携帯電話回線加入者数はチャイナモバイルが9億4191.8万、チャイナテレコムが3億5,102万、チャイナユニコムが3億581万、3キャリア合わせると約16億にもなります。この多くがスマートフォン利用者で、10億以上ものスマートフォンが使われていれば「お酒に酔ってスマホを使って大きなミスをした」なんてケースは毎日山のように発生しているでしょう。

  • ファーウェイの中国オンラインストアではワインも販売。中国も飲酒は一つの文化だ

グリーの特許によると、スマートフォンに新たに搭載する「飲酒モード」は、通信・支払い・社交という3つのカテゴリのアプリごとに操作を簡単に出来なくする仕組みです。通信は通話やショートメッセージ、支払いはモバイルペイメント、社交はSNSやチャットなどにあたります。

飲酒モードはマナーモードのように、お酒を飲みに行くときにONにして使用します。タイマーで設定することも可能ですし、将来はGPSと組み合わせ、居酒屋に入ったら自動的に飲酒モードにするといったこともできるでしょう。

  • 飲酒時に過ちを犯しやすいアプリを3つのカテゴリに分類

さて飲酒モード中にスマートフォンを取り出してアプリを開くとき、まずは画面の応答速度を反応して「タッチの操作が遅い」とスマートフォンが判断すると、アプリを開くことはできません。酩酊して危うい操作をしてしまうかもしれない、ということを判断してくれるわけです。その次の段階も簡単な「酩酊テスト」があり、それをクリアしてはじめてアプリを使うことができるのです。「酔った勢いでSNSに危うい書き込みをする」みたいなことがこれでかなり防げるというわけです。

  • 飲酒モードに設定すると、複数のチェックを経てようやくアプリが使える

最近では音声で気軽にチャットに参加できる「Clubhouse」というアプリが人気です。しかし夜間に参加してみると、お酒を飲んでいる参加者が結構いることに気が付きます。Clubhouseでは音声で会話できるメンバーは「モデレーター」と呼ばれる部屋の主催者が招待できるため、音声でわいわい会話しているとついつい友人だけで会話しているという感覚になります。

しかしオープンなルームには誰もが参加可能で、その会話を聞くことができます。仲間うちでのちょっとした冗談が、第三者から聞くと不快なものに聞こえてしまうかもしれません。酔った勢いの発言ならなおさらです。Clubhouseは録音が禁止されており、会話の内容が残されることはないものの、危うい発言は聞いた人たちの心に残ります。それが噂話として尾ひれをつけて広がっていく、なんてこともありうるのです。

  • 2021年になってから急激に人気が高まっているClubhouse

さてグリーはなぜこのような特許を出願したのでしょう。家電メーカーのグリーも、実はスマートフォンを展開しています。しかし過去に数モデルを出したものの、市場での反応はぱっとしませんでした。2020年12月には初の5G対応スマートフォン「TOSOT G5」を出しましたが、販売から1か月もすると大手ECサイトなどでの取り扱いは終わっていました。

  • グリー初の5Gスマホも市場での反応はさっぱり

ファーウェイ、シャオミ、OPPO、Vivoと巨大メーカーがひしめく中国で、いくら家電大手と言ってもグリーがスマートフォンで真正面から勝負を挑むのは無理でしょう。飲酒モード搭載スマートフォンなら、飲酒文化大国中国で大きな話題になるかもしれません。実用性と話題を取れる技術でグリーはまだまだスマートフォンビジネスをあきらめていないのでしょう。ぜひこの特許を実際の製品にして、グリーの最新スマートフォンに搭載してほしいものです。