5Gのサービスが始まって間もない中、早くもその次のモバイル通信規格「6G」に向けた議論や研究が進みつつあるようです。一体6Gはどのような性能を持つと見られており、なぜこれほど早くから取り組みが進められようとしているのでしょうか。→過去の回はこちらを参照。

総務省が打ち出す「Beyond 5G推進戦略」とは

国内では2020年に5Gの商用サービスを開始したばかりで、エリア整備も満足に進んでおらず普及はこれからといった状況にあります。しかし、ここ最近その5Gではなく、次のモバイル通信規格となる「6G」に向けた話が聞こえてくるようになりました。

実際、総務省は2020年1月21日より「Beyond 5G推進戦略懇談会」を開催しています。これはBeyond 5Gという名前の通り5Gの次、つまり6Gを見据えた国としての政策の方向性を検討するというもので、6月までの間に3度の会合が実施されています。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第23回

    総務省は5Gの次を見据えた「Beyond 5G推進戦略懇談会」を2020年1月より3回にわたって実施、6Gに向けた国家戦略の方向性を打ち出している

そこでの議論を踏まえる形で、総務省は2020年6月30日に「Beyond 5G推進戦略 -6Gへのロードマップ-」を公表しています。その内容を見ますと、6Gが導入される2030年代に期待される社会の姿を基としてBeyond 5Gに求められる機能や性能、そして国としてBeyond 5Gを推進するための戦略とロードマップなどが定められています。

その内容からBeyond 5Gに求められる性能を確認しますと、100GHz以上の「テラヘルツ波」などを用いてアクセス通信速度を5Gの10倍にする「超高速・大容量」や、5Gの10分の1となる「超低遅延」、そして5Gの10倍となる「超多数同時接続」を実現するなど、5Gが持つ3つの特徴をさらに性能向上させようとしていることが分かります。

ですがBeyond 5Gではそれに加えて、4つの新たな機能が具備されるべきともされています。具体的には電力消費が現在の100分の1となる「超低消費電力」や、高いセキュリティと災害発生時に瞬時に復旧できる機能などを備えた「超安全・信頼性」、AI技術などを活用してあらゆる機器が自律的に連携し、有線・無線を問わず最適なネットワークを構築する「自律性」、そして衛星やHAPSなどの通信システムとシームレスに接続し、海や空、宇宙などあらゆる場所で通信できる「拡張性」です。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第23回

    「Beyond 5G推進戦略」の概要より。Beyond 5Gは5Gの3つの特徴をさらに高度化するだけでなく、消費電力を大幅に抑えたり、空や宇宙でも通信ができたりするなどの新たな機能も盛り込まれている

また、Beyond 5Gを実現する国としての取り組みとして「まず国内を固め、その後に海外へ」という発想から脱却し、最初から世界で活用されることを前提とした取り組みをする「グローバル・ファースト」、多様なプレーヤーによる自由でアジャイルな取り組みを促す「イノベーションを生むエコシステムの構築」、グローバルでの取り組みに効果的に参加できるよう、国が取り組む必要性の高い施策に一定期間リソースを集中して投入する「リソースの集中的投入」という3つの基本方針が挙げられており、それらに基づいた研究開発や標準化の具体策についても記されています。

6Gに向けた動きは携帯電話会社からも見られます。実際NTTドコモは2020年1月22日に6Gに関するホワイトペーパーを公開しており、その内容を見ると6Gの性能は先のBeyond 5G推進戦略で記された基本性能に近いものとなっているようです。

さらに、NTTドコモは2020年7月と8月の2回にわたって「5G evolution & 6G Summit」を実施し、6Gに向けた機運を盛り上げる取り組みを積極的に進めている様子がうかがえます。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第23回

    NTTドコモも6Gのホワイトペーパーを2020年1月に公開しており、2020年1月に実施された「DOCOMO Open House 2020」でも、ホワイトペーパーに基づいた6Gの概要が紹介されていた

6Gは国家間の主導権争いとなるか

しかし、冒頭でも触れたように、5Gはまだ商用サービスが始まったばかりです。それにもかかわらず、なぜすでに6Gに向けた議論が始まっているのでしょうか。そこに大きく影響しているのは、5Gでモバイル通信の重要性が大幅に向上したことでしょう。

4Gまでは携帯電話やスマートフォンによる、コミュニケーション手段がモバイル通信の活用の中心でしたが、低遅延や多数同時接続などの機能を備えた5Gでは、IoTや遠隔操作を支える社会インフラになり得る存在として注目されています。そうしたことからモバイル通信が国家においても非常に重要な存在となりつつあり、モバイル通信規格の標準化においても自国の企業がより多くの特許を獲得するなどして、世界的に優位に立つことが求められるようになってきたのです。

日本は3Gや4Gの標準化でリーダーシップを発揮していたのですが、その優位性をビジネスに生かすことができず市場での存在感を大きく落としていました。それゆえ5Gの標準化では他国にリードを許し、「日本は遅れている」とまで言われる程の状況に陥っていることから、モバイル通信の重要性が一層高まる6Gで再び主導権を獲得し、ビジネス面でも世界的に優位に立てる環境を作り上げたいというのが6Gに早期に取り組む大きな理由となっているのでしょう。

ですが現在、6Gに向けた研究開発などに取り組んでいるのは日本だけではありません。国を挙げてモバイル通信の技術開発を進める中国や韓国、大手通信機器ベンダーを有する北欧、そして日本と同様、5Gで大きな主導権を発揮できていない米国などでも、既に6Gに向けた取り組みを積極的に進めているのです。

そうしたことから6Gの標準化は国家間での主導権争いが非常に激しくなるものと考えられ、実用化も8年前後と、従来より早い時期に実現するのではないかとも言われています。そうした状況の中で日本や日本の企業がどこまで存在感を発揮できるかというのは、今後のモバイル通信の動向を見据える上で非常に重要だということに間違いないでしょう。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第23回

    6Gに向けた動きは日本だけでなく海外でも積極的に進められており、国家間での主導権争いが繰り広げられる可能性が高い