2020年の商用化を控え、2019年よりプレサービスを展開するなど、日本では5Gに向けた準備が着々と進められている一方で、海外では2019年に5Gの商用サービスを開始する国が多くあり、日本は5Gで出遅れているとの声も少なからずあるようです。なぜ日本は5Gの商用サービス開始が遅れているのでしょうか。
世界的に見ると実は2019年が「5G元年」
注目を高めている次世代通信規格の5Gですが、日本では2020年の商用サービス開始を予定しており、2019年よりプレサービスを実施している、というのは多くの人がご存知のことかと思います。ですが海外に目を向けると、すでに2019年より5Gの商用サービスを開始している国が多数存在しています。
例えば、米国は標準化前の独自仕様を含めた形ではありますが、2018年よりベライゾン・ワイヤレスやAT&Tが、固定ブロードバンド回線の代替として5Gのサービスを提供しています。
また、2019年4月には標準化仕様に則った5Gによる商用サービスを世界で初めて開始したという“称号”を巡り、ベライゾン・ワイヤレスと韓国の携帯電話会社3社が争って商用サービス開始を前倒しするなどして大きな話題となりました。
また、欧州でもスイスのスイスコムを皮切りにイギリスやドイツ、イタリアなどでも商用サービスを開始していますし、そのほかにもオーストラリアやアラブ首長国連邦などでも商用サービスが始まっています。そうしたことから実は「5G元年」は2020年ではなく、世界的には2019年なのです。
そうしたことから、2020年の商用サービス開始を予定している日本は、5Gで大きく出遅れているという見方が広がっています。3Gでは世界初、4Gでも世界の先頭集団に立って商用サービスを展開してきた日本が、なぜ5Gでここまで大きく遅れることとなったのでしょうか。これまでの経緯を振り返るに、その理由は「東京五輪」と「IoT」にあると言えるでしょう。
実は日本は、標準化の段階から5Gに対して非常に力を注いでいた国の1つでした。その理由は、2020年の東京五輪に合わせて5Gに商用サービスを実施したかったからです。
東京五輪の開催が決定したのは2013年ですが、5Gの標準化作業が本格化したのは2014年から2015年頃と、五輪開催の決定後でした。そこで、日本では東京五輪を5Gのショーケースにするべく、2020年の商用サービス実現に向け、標準化団体「3GPP」で5Gの規格標準化を早める活動を積極的に実施していたのです。
なぜそのような活動が必要だったのかと言うと、実は5Gの標準化が始まった当初、世界的には5Gへの関心が決して高いとは言えない状況だったからです。
5Gは元々増大する通信トラフィックに対処するべく、さらなる高速大容量を実現することを中心として標準化が進められていたのですが、4Gの導入が遅れた欧州などでは短期間で5Gに移行するとコストがかかってしまうことから関心が高まらなかったのです。
世界的な前倒し傾向に追従しなかった日本
それゆえ当初から5Gに積極的に取り組んでいたのは、日本と2018年の平昌冬季五輪で5Gの試験サービスを提供したい韓国くらいという状況でした。一時は2020年の商用サービスに標準化が間に合わないのではないか、との声も出ていたくらいなかなか関心が高まらなかったのですが、その状況を一変させたのがIoTの存在です。
5Gの標準化が本格化した頃は、ちょうどIoTの概念がポスト・スマートフォンになり得る存在として大きな注目を集めた時期でもあり、5Gには多数同時接続などIoTを意識した性能が盛り込まれることとなりました。
そのIoTがデジタライゼーションの主役になるとして、企業や自治体などから注目されるようになったのに伴い、IoTを支えるネットワークの本命として5Gが注目されるようになったことで、5Gへの関心が急速に高まっていったのです。
そこで、2017年には世界各国の携帯電話会社や通信機器ベンダーなど22社が、5Gの標準仕様の早期策定を急ぐ共同提案に合意。
2017年から2018年にかけて5Gの通信方式「5G NR」の標準化の仕様策定が完了したことで、当初韓国が要望していた2019年の商用サービス開始を実現できるめどが立ったのですが、それに伴い5Gに対する関心が急速に高まったことで、世界各国の携帯電話会社が5Gの商用サービスを次々と前倒しした結果、東京五輪に合わて商用サービス開始という方針を崩さなかった日本が出遅れる結果となったわけです。
そうした事情があることから、日本は5Gに関する取り組み自体が遅れているわけではなく、準備は着々と進めてきたので技術や利活用などの面ではむしろ優位性を持っている部分も多いのです。
実際NTTドコモは、2017年に「5Gトライアルサイト」を展開し、5Gを活用したサービス創出を積極的に推し進める取り組みをしており、長年蓄積してきたノウハウを生かせることは、今後を考えるとメリットと言えます。
しかし、実際にインフラを整備して消費者に5Gのサービスを提供するという実践や実績の部分で、他国と比べ大きな遅れを取ってしまったことは紛れもない事実です。
そうした遅れに対する焦りがあったからこそ、日本では4Gまでは実施したことのない、5Gのプレサービスが実施されるに至ったと言えますが、商用サービス開始後はいかに実績面での遅れを取り戻し、優位性を生かすことができるかが、日本の携帯電話会社には求められそうです。