ソフトバンクは2020年5月20日、「プライベート5G」を2022年より提供することを発表しました。ソフトバンクに割り当てられた5Gの周波数帯を活用し、ローカル5Gのように場所を限定して5Gのネットワークを提供するというもののようですが、ローカル5Gとの違いは一体どこにあるのでしょうか。

ソフトバンクの電波でエリア限定の5Gを構築

前回、5Gは局所的なエリアをカバーするだけでもビジネスに有効活用できることを説明しましたが、その局所的なエリアに向けたサービスに関して、新たな取り組みを打ち出したのがソフトバンクです。

同社は2020年5月20日に法人事業の説明会を実施し、新たに「プライベート5G」を提供することを発表しました。これは携帯電話会社が広域でエリアを整備する「パブリック5G」と、それ以外の企業や自治体が限られたエリア内において、自営で5Gネットワークを運用する「ローカル5G」の中間的存在になると、同社は説明しています。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第17回

    ソフトバンクが新たに打ち出した「プライベート5G」。パブリック5Gとローカル5Gの中間的存在だという

具体的に仕組みを説明しますと、企業が5Gネットワークの活用を必要としている敷地内に対し、ソフトバンクが自社に割り当てられている5Gの周波数帯を用いて敷地内限定のネットワークを構築・運用するものになるとのこと。ソフトバンクのリソースを用いたローカル5Gともいうべきサービスといえそうです。

それゆえローカル5Gとの決定的な違いは、電波免許の取得やネットワークの構築・運用を、5Gを導入する企業が直接手掛けるのか、ソフトバンクに任せるのかという点になります。モバイルネットワークの構築や運用に関するノウハウを持っておらず、ローカル5Gの導入に不安を抱いている企業は少なからず存在すると思うので、その部分を実績のあるソフトバンクに任せられるのが最大のメリットといえるでしょう。

それでいて、プライベート5Gはあくまでその企業専用のネットワークとなるため、データがパブリック5Gネットワークを経由しないことから通信の混雑など外部要因を受けることもなく、セキュリティも担保しやすいとのこと。またネットワークスライシングによってその企業向けにカスタマイズしたコアネットワークを提供することも予定しており、高いカスタマイズ性を実現できるとも見られています。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第17回

    ソフトバンクが自社に割り当てられた5G周波数帯を用いて5Gネットワークを構築・運用するため、企業が手間なくローカル5Gと同様のネットワーク利活用ができるのがメリットとなるようだ

扱いにくい5G周波数帯の有効活用が目的か

しかしなぜ、ソフトバンクは全国に5Gのネットワーク構築を進める一方で、プライベート5Gのような場所限定のネットワークサービスを提供するに至ったのでしょうか。そこには5G向けに割り当てられた周波数帯の使いにくさが大きく影響していると考えられそうです。

前回も触れた通り、携帯電話会社に割り当てられた5G向けの周波数帯は非常に周波数帯が高い上、衛星通信との干渉もあってむやみに基地局を設置できず、エリアを広げるのが非常に難しいという弱点があります。それゆえソフトバンクは、5G向け周波数帯を用いた5年以内の5G基盤展開率は64%と、9割を超えるNTTドコモやKDDIと比べかなり低い割合にとどめており、この帯域の免許獲得にはあまり積極的な姿勢を示していませんでした。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第17回

    総務省「第5世代移動通信システム(5G)の導入のための特定基地局の開設計画の認定(概要)」より。5Gの電波免許取得に際しソフトバンクが申請した内容を見ると、5G基盤展開率を低く設定するなど注力度合いが弱く、比較審査の点数も楽天モバイルを下回っていた

一方で、同社は広範囲をカバーしやすい4G向けの周波数帯を5Gに転用する「ダイナミックスペクトラムシェアリング」(DSS)を積極活用し、エリアを全国に広げる戦略を取ろうとしています。ただパブリック5GをDSS主体で整備した場合、高速大容量通信に対応できないという弱点が生まれるだけでなく、そもそも折角割り当てられた5G向けの周波数帯を、ビジネスに有効活用できず持て余してしまうという問題も生まれてきます。

しかし、多くの弱点を持つ5G向け周波数帯も衛星通信の影響を受けない特定の場所や、工場など建物の中で活用すれば問題をクリアしやすい。そうしたことから法人向けに場所を限定した5Gネットワークを提供して提供することにより、5G向けの周波数帯を自社のビジネスに有効活用としているのではないでしょうか。

実はプライベート5Gのように、携帯電話会社が、自社の帯域を用いて特定の企業向けに場所限定のネットワークを提供する取り組みは、海外でもドイツなどで見られるものでもあります。それゆえ企業での5G活用が広まるにつれ、整備や運用に手間のかかる部分を携帯電話会社にアウトソースする取り組みは、今後広がっていく可能性がありそうです。

ただしプライベート5Gはネットワークスライシングの積極活用を予定しているなど、5Gの性能をフルに生かすスタンドアローン運用での提供が前提となっています。ソフトバンクのネットワークがスタンドアローン運用に移行するのは2021年後半を予定していることから、プライベート5Gの提供時期も2022年度とやや先になるようで、ローカル5Gなどと比べすぐ利用できるサービスという訳ではない点に注意する必要があるでしょう。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第17回

    ソフトバンクは2021年後半に5Gのスタンドアローン運用への移行を予定。プライベート5Gはスタンドアローン運用を前提としたサービスとなるため、提供時期は2022年度になるという

佐野正弘

福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。