5Gの商用サービス開始が発表されたところで、特に多くの人を落胆させたのは5Gのエリアが非常に狭いことではないでしょうか。少なくとも1年間は広範囲でのエリア拡大が進まないという非常に厳しい状況下で、5Gのビジネス活用は進むのでしょうか。→過去の回はこちらを参照。

新型コロナが阻む5Gのエリア拡大

国内大手3社の5G商用サービスが開始し、現実の5Gの姿が見えてきたことで落胆を招いた要素として、前回は高速大容量通信しか利用できない点を挙げました。ですがビジネスだけでなくコンシューマーでの5G利用を期待していた人からも、落胆の声が多数挙げられたのはやはりエリアの問題ではないでしょうか。

実際、携帯3社はサービス開始に合わせて、今夏以降までに整備する予定のエリアを公開しているのですが、率直に言えばそのエリアは「面」ではなく「点」という状況で、わざわざ5Gのエリアとなっている場所に行かないと5Gが利用できないのが現状です。

しかも、携帯各社が5Gの面展開を本格化するのは来年からとされています。それゆえ少なくとも2020年中は、5G対応端末を持っているほとんどの人が、5Gをほぼ利用できない状況が続くことになるのです。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第16回

    KDDI(au)のサービスエリアマップより。赤い点が2020年4月末、黄色い点が2020年夏以降整備予定の5Gエリアだが、夏以降も東京都心でさえ点でのカバーに過ぎない状況であることが分かる

なぜ、これほどまでに5Gのエリア整備が進まないのでしょうか。理由の1つは第9回で触れた通り、5G向けの周波数帯が非常に高く、遠くに飛びにくいことから、広いエリアをカバーするためには基地局を多数設置しなければならないためです。

しかし、もう1つ深刻な理由となっているのが、現在各社が5Gエリア整備の主体として用いている3.7GHz帯が、衛星通信と電波干渉してしまうことです。干渉を避けるため電波の出力を強くできないことから広範囲のカバーが難しく、衛星通信の影響を受けない屋内などでしかエリアを大きく広げられない状況にあるのです。

加えて今後、各社のエリア整備に大きなマイナスの影響を与えそうなのが新型コロナウイルスの感染拡大です。感染拡大により通信設備を提供するメーカーの製造に遅れが出たり、工事をする事業者の活動に遅れが出たりすることで、2020年以降拡大を予定していた5Gの基地局整備が大きく遅れる可能性が出てきているのです。

実際、NTTドコモ 代表取締役社長の吉澤和弘氏は、2020年4月28日に実施した決算説明会で2021年3月までに全国500都市への5G基地局展開は予定通り実施したいとしているものの、その後予定している面展開、つまり2021年6月末までの基地局1万局の整備は、調達する機器や整備する人員の数が求められるため、新型コロナウイルスの影響により遅れが生じる可能性があるとしていました。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第16回

    NTTドコモの決算説明会資料より。同社では2021年6月までに5G基地局を1万局整備することを予定しているが、新型コロナウイルスの影響でそれが遅れる可能性があるという

ビジネス活用では必要な場所に5Gがあればいい

そうしたことから、国内では5Gのエリアが“点”という状況が長く続いてしまう可能性が高いのですが、そのような状況で5Gのビジネス活用は進められるのか?と考える人も少なくないでしょう。

スマートフォンを中心としたコンシューマー向けの5G活用は、確かに全国で広く利用できる広範囲のエリアカバーが求められます。ですが法人向けのビジネス利用の場合、その事業を展開する場所に5Gのネットワークがあればよいので、必ずしも面展開が必要な訳ではありません。

実際、5Gではローカル5Gのようにエリア限定で展開する5Gネットワークの仕組みも存在しています。性能の高い無線ネットワークを利用する上では、例えばスマート工場を実現するには工場の中だけ、スマート農業を実現するには農場内だけといったように、事業を展開するエリアさえカバーできていればよく、必ずしも広域がカバーされている必要はないのです。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第16回

    富士通のプレスリリースより。同社は国内で初めて商用のローカル5G無線局免許を取得しており、工場のスマート化などエリア限定ので5Gネットワーク活用を推し進めようとしている

また、ビジネス利用においては5Gを一時的に利用したいというニーズも少なからずあります。例えば建設現場で、5Gを使って建設機械を自動運転するようなケースでは、現場作業が続くうちは5Gのネットワークが必要ですが、終わってしまえば必要なくなるので、5Gの基地局を恒久的に設置する必要はないのです。

携帯電話会社の側も、そうした一時的な5G基地局の利用に応える取り組みを進めているようです。実際ソフトバンクは「おでかけ5G」、NTTドコモは「キャリー5G」といった可搬型の5G基地局を保有しており、それをビジネスに活用してもらう取り組みを積極化しています。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第16回

    2020年1月に、ソフトバンク系のWireless City Planningが大成建設と実施した、5Gを活用したi-Constructionの実証実験では、「おでかけ5G」を使い、トンネル内に一時的な5Gのネットワークを構築している

5Gのビジネス活用においては必ずしも広いエリアのカバーが必要という訳ではなく、点でのカバーでも十分活用できるものだということは覚えておく必要があるでしょう。それゆえエリア拡大の見通しが厳しい国内での5Gは、コンシューマー向けよりビジネス利用の方が大きく伸びる可能性があると言えそうです。

佐野正弘

福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。