新規参入の楽天モバイルが全面的な導入を打ち出したことで、大きな注目を集めている「ネットワーク仮想化」。携帯電話のネットワークのさまざまな機器を、汎用のサーバとソフトウェアで実現するというものなのですが、なぜ5G時代にネットワーク仮想化が大きな注目を集めているのでしょうか。

専用の機器を汎用サーバーとソフトウェアで代替

去る2020年3月3日に楽天モバイルはオンラインで発表会を実施し、2020年4月8日より正式サービスを開始することを発表。月額2980円で、楽天モバイルのネットワーク内であればデータ通信が使い放題になるという料金プラン「Rakuten UN-LIMIT」が驚きをもたらした一方、同社のエリア整備が途上で狭いうえ、それ以外のエリアでデータ通信をすると上限が2GBと大幅に制限されることから、まだ多くの課題がある様子もうかがえます。

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    楽天モバイルは2020年3月3日に、正式サービス開始に向けた発表会を実施。月額2980円で、楽天モバイルのネットワーク内であればデータ通信が使い放題の「Rakuten UN-LIMIT」を発表している

その楽天モバイルも2020年6月には5Gの商用サービスを提供する予定ですが、その5Gに向けて同社が力を入れているのが、新技術の導入です。楽天モバイルは新規参入事業者であり、ゼロからネットワークを構築する必要があるため、現状利用できるエリアが非常に狭いなど多くの課題がある一方で、レガシーな技術に縛られない分、新しい技術をふんだんに投入できることが強みにもなっているのです。

そうしたしがらみのなさを生かし、楽天モバイルが力を入れているのが「ネットワーク仮想化」(Network Functions Virtualisation、NFV)という技術の活用です。

携帯電話のネットワークは、端末と通信する基地局、そして通信を実際に制御する交換機などのコアネットワークに至るまで非常に多くの機器を用いて構築されているのですが、従来それらの多くは専用の機器を用いる必要がありました。しかし、ハードウェアの性能が大幅に進化した現在、同じ機能を実現するために必ずしも専用の機器が必要という訳ではなくなっているのも事実です。

そうしたことから、携帯電話のネットワークを構成する機器を汎用のサーバと、同じ機能を実現するソフトウェアにより置き換えるというのがNFVの基本的な考え方になります。NFVの取り組みに関しては、日本でもNTTドコモが2016年から実際の商用ネットワークへの導入を進めるなど、すでに実績があるものですが、楽天モバイルはネットワークを構成する機器の一部ではなく、すべての機器をNFVで実現したという点が大きく異なる訳です。

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    NTTドコモは2014年に、複数のネットワーク機器ベンダーとネットワーク仮想化に関する実証実験を実施。2016年より自社ネットワークへの導入を進めている

ソフトウェアの追加だけで基地局をMECに

楽天モバイルのNFVの全面採用は、世界初の試みとして注目されているようですが、そもそもなぜ同社はNFVの採用にこだわったのでしょうか。

NFVのメリットとしてよく挙げられるのは、専用ではなく汎用の機器を用いるため幅広いメーカーから機器を調達できるようになり、調達コストが安くなることです。機器の調達コストが安くなれば設備投資が抑えられる分、通信料金を安くできるでしょうし、通信が集中して輻輳(ふくそう)が起きたり、障害が発生した時にも新しいハードをすぐ追加して対応できたりすることから、トラブル対応に強くなることも大きなメリットとなるでしょう。

楽天モバイルが新規参入した背景には、携帯電話大手3社の料金プランが高止まりしていると、行政から指摘されていたことが背景にあります。それだけに低価格の料金プランを実現するためにも、当初よりネットワーク構築のコストが抑えやすいNFVを全面採用したと見る向きは多いようです。

しかし、より大きいのは5Gを見据えた柔軟性の高いネットワークを実現できるが故と考えられます。その1つとして挙げられるのが、前回触れたモバイルエッジコンピューティング(MEC)の実現が容易になることです。

NFVでは汎用のサーバーとソフトウェアを用いてネットワークを構築する仕組みなので、ハードウェアの性能が許す限り、1つのハードに複数のソフトウェアを導入することで、複数の機能を持たせることも可能になります。それゆえ基地局にNFVを使って構成しておけば、ソフトウェアを追加することでMECの機能も持たせられ、幅広いエリアで低遅延を活用できると考えられる訳です。

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    「Rakuten Optimism 2019」に展示されていた、無線アクセスネットワーク(RAN)を構成する機器の1つ。NFVの採用により、基地局の制御だけでなくエッジサーバとしても活用できるのが特徴だ

楽天の代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏は、2019年7月に実施された「Rakuten Optimism 2019」で、楽天モバイルでは日本全国に4000ものエッジサーバを設置すると発表して驚きをもたらしていましたが、それは全面的にNFVを採用しているからこそ実現できるともいえそうです。5G時代、そうしたNFVの強みを楽天モバイルがどこまで生かすことができるかは、今後大きな注目を集めるポイントとなることは確かでしょう。

佐野正弘

福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。