2020年の商用サービス開始を控え、いま大きな注目を集めている次世代のモバイル通信規格「5G」。ですがスマートフォンと4Gによる通信環境に大きな不満がないにもかかわらず、5Gが必要とされているのはなぜなのでしょうか。そして、5Gが注目される理由は一体どこにあるのでしょうか。

増大する通信トラフィックに対処するための進化

日本では2020年春の商用サービス開始を予定している次世代モバイル通信規格の5Gに対する注目がいま急速に高まっています。2019年9月20日のラグビーW杯に合わせてNTTドコモがプレ商用サービスを実施するなど、サービス開始に向けた準備が着々と進められているようです。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第1回

    NTTドコモはラグビーW杯が開幕した2019年9月20日に合わせて5Gのプレ商用サービスを開始。5Gのサービス開始に向けた機運も徐々に高まっている

5Gは現在主流のモバイル通信方式である「4G」の次の世代となる通信規格で「第5世代」の通信規格ということになります。そして、モバイル通信規格は約10年おきに世代交代を図っているのですが、その理由は要するにモバイルでの通信量が年々増え続けているからです。

実はモバイル通信規格の進化の歴史は、増大する通信トラフィックとの戦いといっても過言ではありません。実際、最初の1Gから2Gへの進化は、テレビなどと同様にアナログからデジタルの通信方式とすることで、同時に通信できる量を増やすことが主目的となっていました。

また、2Gから3G、3Gから4Gに至る進化も携帯電話上でインターネットサービスが利用できるようになったことで、データ通信の利用ニーズが拡大し、トラフィックが大幅に増加したことに対処するための進化だったのです。

そうしたことから、4Gから5Gへ移行する主な目的も基本的には通信トラフィックの増加に対応できるようにするためなのです。実際、現在では4Gによる高速通信ができるスマートフォンが増え、それに伴い動画など大容量データ通信を必要とするコンテンツの利用も増えています。それゆえ、1人当たりのデータ通信量は劇的に増加していることから、現状のまま何も対策をしなければ、将来的にはネットワークがパンクしてしまう可能性があるわけです。

そこで、5Gでは理論値で最大20Gbpsと、現在の約20倍もの通信速度が実現できることを目指して設計されており、なおかつ多くの人が同時に通信しても速度が落ちないよう、より多くの周波数帯の電波を用いて通信容量を増やす取り組みも進められています。そうしたことから、5Gは「高速大容量通信」であることが、特徴の1つとなっているのです。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第1回

    5Gの「高速大容量通信」は、多視点映像配信など新しいサービスの可能性を作り出すだけでなく、増大する通信トラフィックに対応し快適な通信環境を維持する狙いも大きい

注目される真の理由は「低遅延」と「多数同時接続」

しかし、5Gが大きな注目を集めている理由は、高速大容量通信ではないといっても過言ではないでしょう。5Gは高速大容量通信に加え、進化するIT技術に対応するべくいくつかの機能追加がなされているのですが、それが5Gへの注目を大幅に高めた要因となっているのです。

その1つが、ネットワーク遅延が非常に小さい「低遅延」。ネットワーク遅延とは、主として端末やサーバを結ぶネットワークの距離によって生じる通信の遅れのことを指し、例えばSkypeなどのIP電話を使って会話した時、相手の声が実際より遅れて届くため会話が微妙に成り立たなくなるという経験をしたことがある人も多いかと思いますが、それこそがネットワーク遅延によるものなのです。

現在の4Gでは、その遅延が10ミリ秒程度とされていますが、5Gではそれが1ミリ秒程度と10分の1までに抑えられ、ほぼ遅延のない状態で通信ができる仕様となっています。そして、この低遅延によって実現が期待されるのが自動運転や遠隔手術などです。

遠隔地にあるコンピューターから車に指示をして運転させたり、遠いところにある機器を操縦して手術をしたりする際には、遅延によって生じる少しのずれが大事故を招きかねません。

それだけに、携帯電話と同じように場所を選ばず利用でき、なおかつ遅延が非常に小さい5Gは、自動運転などの実現に大きく貢献するとして、高い期待が寄せられているのです。

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    KDDIが2019年2月に実施した、5Gを活用した遠隔型自動運転の実証実験より。遠隔操作による自動運転の実現には、操作が確実に反映される低遅延が強く求められている

そして、もう1つは「多数同時接続」です。これは1つの基地局に多数の機器を接続して通信できるようになることを指し、具体的には1平方キロメートル当たり100万台の接続が可能になるとされています。スマートフォンをこれだけ多数接続することはほぼないので、なぜそれほどまでに多数の機器を接続する必要があるのか?という疑問もあるかもしれません。

しかし、ここで重要になるのが「IoT」の存在です。あらゆるモノをインターネットに接続するというIoTの概念は、昨今では法人向けのITビジネスで非常に大きな注目を集めています。

その理由はIoTにより、従来デジタル化が難しいとされてきた農業や工業など一次・二次産業のデジタル化が進められると見られているためです。農地や工業機械などに、通信機能の付いた小型のセンサを多数設置し、そこから送られたデータを分析することで、こうした産業の効率化を図ることができると期待されているのです。

それゆえ5Gでは、IoTでの利活用に対応できるよう最初から多数同時接続ができる仕組みが仕様に盛り込まれており、それが産業界から注目を集める要因となっているのです。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第1回

    ソフトバンクは法人事業において、5GとIoTによるセンシングが事業拡大のためのキーテクノロジーの1つになるとして、力を注ぐ方針を示している

こうした特徴から見ても分かる通り、5Gはスマートフォンの通信を快適にすることから注目されているわけではなく、幅広い産業に対して大きな影響力を持つネットワークとなり得るからこそ、注目されるようになったといえるでしょう。

だからこそ5Gは、4Gまでのコミュニケーションを支えるインフラから社会全体を支えるインフラへと進化する可能性があるのです。