弊社刊行の雑誌「Web Designing」で連載中の「エキソニモのView-Source」は、HTMLのソースとそのレンダリング後の画面をセットで展開するという珍しいアート作品だ。レンダリング後の画面だけを見るとグラフィックデザインのようだが、HTMLソースのほうを見るとインタビュー記事が埋め込まれており、レンダリング後の画面でゲスト自体を、HTMLソースのほうでゲストとエキソニモの関係やバックグラウンドなどを知る事ができるという仕掛けになっている。
いつものように、月の半ばになるとWeb Designing編集部よりエキソニモの連載原稿がPDFで届く。PDFを開いてまず行なうことは、とりあえずSafariを開き、HTML版を確認することである。動いているのを見てはじめて作品の全容がわかるタイプのものもあったりするからだ。いつもはPDFにあるURLをコピーしてブラウザに貼付けるのだが、今回はコピーできない。仕方なくメールでURLを送るように問い合わせてみた。すると、しばらくして文字化けしたぐちゃぐちゃなメールが帰ってきた。文字にとりわけ厳しい大手出版社の編集者が文字化けメールをそのまま送ってくるとは考えにくい。ここで考えられる可能性は以下の3つである。
●編集者が出版不況のおり、ついにおかしくなった
●Web Designing編集部が高級BOTに乗っ取られた
●URLに文字化けする可能性がある文字があった
いつもクリーンなURLで展開されるエキソニモのことだから、3番目の「URLに文字化けする可能性がある文字があった」は考えにくい。となると、1番目か2番目ということになるが、2番目の高級BOTの線が濃厚だろう。前回高級BOTについて存在を明かしてしまったので、その復讐ということも考えられる。ただ、あれほどの知能を持つ高級BOTがわざわざコンピュータであるかのような文字化けメールを投げるだろうか? やるとしたらもっと高度なアプローチをしてくるはずである。となると、消去法で「編集者が出版不況のおり、ついにおかしくなった」ととらえるのが妥当であろう。念のため、もう一度URLを送付してほしい旨を投げてみた。すると下記のような内容が記された添付ファイルが送られてきた。
URLにはなんと入力していいのかわからない文字がいくつか入っており、これが正常に表示されている状態なのかそうでないのかの見当もつかない。ただし、このURLで今回の作品へアクセスすることは出来た。結局、3番目の「URLに文字化けする可能性がある文字があった」が正解だったのだ。あらぬ誤解をしてしまいお詫び申し上げる。
さて、今回のエキソニモの作品をようやくWebで見れた訳だが、Jodiというアーティストをピックアップしている。Safariで表示させた今回の作品は、ページにぐちゃっとした何か得体の知れない文字列がある他は、緑色で覆われている。ちなみにFirefoxで表示させると背景は緑色にはならない。これはエキソニモ得意のフリーダム色指定「<body bgcolor="jodi">」が偶然緑色に解釈されてしまった結果である。
また、ソースのほうはというと、HTMLが順調に途中までは並び、一旦</html>によって終了した後で、こんな記述がある。
つまり、通常のコラムとしてエキソニモが書いたHTMLをJodiなる人物に送った結果、まるで鏡のように反転された文字列が返ってきましたよというメッセージが書かれている。今回の作品の表示部分では、この<html/>以下が表示されているのだ(※マイコミジャーナル上では表示できませんが、実際にはhtmlが上下左右、全て反転表示されています。以下も同じです)。ブラウザでいきなり表示させてこの作品を直感的に理解出来るかどうかは、<html/>(※)で始まる文字列が</html>の略だとわかるかどうかにかかっている。
それにしてもひとつ不思議なのは何故通常のHTML部分がブラウザには表示されないのだろうか? 実はこれにはちょっとしたトリックがあり、「<body bgcolor="jodi">」の次に書かれている「<!--」によって本編のHTML部分はコメントアウトされてしまっているのである。このコメントアウトは、<html/>(※)の直前まで続く。途中一見ここからがコメントです的な「<--」という文字列もあったりするので惑わされてしまうのだ。
そもそも、Jodiとは何者なのだろうか? Wikipediaなどには次のような記述がある。
Joan Heemskerk(1968年生まれ、オランダ)とDirk Paesmans(1965年生まれ、ベルギー)による二人組のアーティスト集団。現在はオランダのドルドレヒトに在住して活動中。「インターネットアート(ウェブサイト等を利用して作品を公開する)」という手法を用いている。彼らの作品は「ノー・コンテンツ」、「ノー・ストーリー」を主題としており、作品の中には一昔前のマシンをクラッシュさせてしまう、ブラクラのような過激なサイトも存在する。
例えばJodiが作成したサイトを解読する2chのスレッドなども存在しており、このスレッドを読んでいくと、彼らが何を行なっているのか、かなり掴めるのではないかと思う。
少し脱線したが、今回の作品のほうへ戻ろう。上下左右が反転した英文のほうの表現力は実に多彩なものとなっている。面白いところで言うとDは三日月みたいな文字になっていたりする。ちなみにGoogleで検索すると「 に一致する情報は見つかりませんでした。」と出る(※マイコミジャーナル上では表示できませんが、「」内の文頭にはDを上下左右反転させたような文字が実際には表示されます)。少し面白い。書かれているものがなんだかよくわからないという人はノートブックを逆さまにして読んでみるといいだろう。意外と読めるはずだ。
個人的に一番面白かったのは日本語の平凡な処理だ。Jodiも日本語の処理には手を焼いたのか上下の反転もなく回文的にならびかえただけになっている。実際日本語でこれをやろうとすると難しいのだ。漢字は構造が複雑であり、ひらがなにいたっては規則性がカオスである。この返信を見ていると、10円玉を10枚自販機に入れて100円に両替しようとしたら、また10円が10枚でてきてしまった時のような、機械だけが出せるユーモアに通じるものがあると感じた。
※この記事は、『Web Designing』2010年6月号に掲載された「エキソニモのView-Source」の解説記事です。『Web Designing』本誌とあわせてお楽しみください。