2012年の8月18~19日にかけての晩に、京王線の調布市内・3駅について、建設を進めてきた地下線に切り替える工事が行われた。切り替えの対象になった国領・布田・調布の3駅と、これらに隣接する駅の間で電車の運転ができなくなるのは容易に理解できるが、実際に切り替え工事の際に運休が発生した区間はもっと広く、京王線は八幡山-府中間、相模原線は調布-京王稲田堤間となっていた。

これは事前に計画していた運休だが、たとえば人身事故などが発生して一部の区間で運転ができなくなった場合でも、電車が止まる区間は事故現場の前後の駅だけにとどまらず、ずっと広くなってしまうことが多い。なぜだろう?

運休区間が広くなる背景には、鉄道に固有の事情が

高速道路が事故や自然災害で通行止になる場合、事故現場の前後にあるインターチェンジで強制的に降ろす措置をとるため、通行止になる区間は最小限で済むことが多い。

もっとも高速道路の場合、不通現場に最寄のインターチェンジで降りると近くに幹線道路がなくて、一般道路で移動するのに時間がかかってしまうことがある。これは渋滞避けのために一般道路に下りる場合でも同じだ。

一方、もともと「点と点」を結ぶ交通機関である飛行機の場合、何かトラブルが発生しても、問題になる場所が絡むフライトが運航を取り止めるだけである。

ところが鉄道の場合、どういうわけか、事故や災害の現場という「点」だけでなく、意外なほど広い区間で運転が止まってしまうことが少なくない。これには、鉄道に固有の事情が影響している。それが「列車の折り返し」だ。

鉄道は御存知の通り、同じ線路が上下双方の列車を受け持つ「単線」と、上下それぞれに専用の線路を用意する「複線」がある。そして複線の場合、下り列車として到着した列車は上り線に転線して折り返すことになるし、逆もまた同様である。

ということは、下り列車が上り列車として、あるいは上り列車が下り列車として折り返すためには、下り線から上り線に、あるいは上り線から下り線に、車両が移動できなければならない。それができなければ、折り返しが成立しない。これは、拙著「配線略図で広がる鉄の世界」でも取り上げている、駅の構内配線の問題である。

反対側の線路に渡れるようになっている駅でなければ、複線の鉄道では折り返し運転を行えない(地上時代の京王線・調布駅で)

だから原因が何であれ、途中駅で折り返し運転を行おうとした場合には、折り返しが可能な配線になっている駅が必要なのである。すべての駅が折り返し可能な配線になっているわけではないので、冒頭で取り上げた京王線の事例みたいに、意外なほど広い範囲で運転が止まってしまうケースも出てくるわけだ。

ところが、普通の利用者はいちいち駅の構内配線まで気にしないものだから、「どの駅なら折り返しが可能か」をパッと把握するのは難しい。日常的に利用している路線であれば、過去の輸送障害の事例を基に推察できるかもしれないが、それ以上を求めるのは無理があるかも知れない。

代行手段という問題もある

事故や災害で突発的に運転が止まるときには平行路線への振替輸送を行うものだが、工事のように事前に判明しているケースでは、バスによる代行輸送を行うことが多い。冒頭で挙げた京王線の切り替え工事でも、バスによる代行輸送が行われた。

調布市内で行われた京王線切り替え工事の現場。夜間の、電車が走らない時間帯だけで切り替えを行うのは不可能で、代行輸送が必要になった(国領付近にて)

そして登場した代行バス。調布から八幡山まで利用してみた

地震などの災害で施設が被害を受けて、長期運休を余儀なくされている路線でも同じである。本稿の執筆時点では、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の被害を受けた山田線・気仙沼線・大船渡線・常磐線・三陸鉄道線、あるいは台風による豪雨で施設を壊されて不通になっている只見線・名松線などが該当する。

ところがそうなると、運転を取り止める区間の両端にある駅に代行バスを入れて、人を乗せたり降ろしたりする必要がある。代行バスを走らせようと思っても、バスを走らせる道路と、乗降のための場所がなければ代行にならない。

ということは、バス代行輸送を行うには、対象区間の両端の駅で列車の折り返しが可能というだけでなく、駅前にバスを入れて乗降を行えるだけのスペースがあること、さらに対象区間に並行する道路があること、という条件が出てくる。これが、バス代行の可否や代行区間を決める際の制約条件になる。

こうした事情が影響するため、バス代行を行う区間が運転不能区間と一致するとは限らず、それ以上に広い範囲を対象とすることがある。しかも、代行バスが走る道路が途中駅とすべて接続しているとは限らないから、脇道にそれて個別に途中駅に立ち寄ることになり、結果的に所要時間が大幅に増えることが少なくない。代行バスを利用する際には、混雑だけでなく、そんな注意点もあるのだ。

平素からの状況把握がモノをいう

こういった事情があるため、過去の不通・通行止事例に基づいて代替ルートに関する情報を普段から頭に入れておくと、いざというときに役に立つだろう。不通になったときに注意を払うべきなのは、当座の再開の見込みだけではないのだ。

もっとも、それが実現可能なのは、日常的に利用する路線に限られるかも知れない。いつ利用するか分からない他所の土地の路線について、いちいち不通や通行止の状況を把握しようとしても、手間がかかりすぎる。日常的に利用する場所だけを対象とするのであっても、100%にはならなくても何割かは役に立つだろうから、決して無駄にはならない。

ところで、運休区間の話に加えて、大都市圏の鉄道では「ダイヤが乱れると相互乗り入れを中止する」という法則がある点に留意したい。これは、ダイヤの乱れを他社線に持ち込まないためにとられる措置だ。