出張で利用するならやっぱり指定席

個人的な解釈だが、山陽新幹線と九州新幹線を直通する「さくら」「みずほ」は、「これまで山陽新幹線の新大阪-博多間を結んでいた「ひかりレールスター」を置き替えたうえで、博多から先の鹿児島中央まで伸ばしたもの」と言えるのではないだろうか。もっとも、2011年3月のダイヤ改正で「ひかりレールスター」がすべて消えるわけではないのだが。

そういった事情が影響しているのかいないのか、「さくら」「みずほ」で使用するN700系車両の接客設備は、東海道・山陽新幹線で使われている16両編成のN700系よりも、むしろ「ひかりレールスター」の700系に近い部分がある。

その最たるものが、2列-2列配置になっている普通車指定席だろう。車体幅が狭いJR東日本の新在直通車両は別として、新幹線の普通車というと2列-3列配置が普通だが、「ひかりレールスター」「さくら」「みずほ」、それと九州新幹線の「つばめ」は別である。ちなみに、「こだま」で使われている車両にも2列-2列配置の席があるが、各駅停車だから話にならないぐらい所要時間が違う。

閑話休題。「さくら」「みずほ」で使用するN700系の普通車のうち、2列-2列配置なのは指定席だけで、自由席は一般的な2列-3列配置だ。これだけでも、「さくら」「みずほ」では指定席車を選ぶ価値があるというもの。

この指定席の座席、極度な痩せ形で横幅を取らない筆者が座ると、もう左右の空きスペースがガバガバにできてしまうぐらいにゆったりしている。しかも、「ひかりレールスター」と比較しても、確実にグレードが上がっている。

これが普通車指定席の座席。なお、自由席の座席は現行N700系と似ている

ちなみに、グリーン車も2列-2列配置だが、座席の前後間隔が普通車よりも広く、さらに全席が「電源コンセント付き、リクライニングさせた時に脚を支えやすくするフットレスト付き」といった具合に、設備面で差を付けている。基本的な外形は東海道・山陽新幹線のN700系で使用している座席に似ているように見えるが、さらにいろいろと改良を図ったようだ。

また、グリーン車の方が照明のトーンを落として車内の落ち着きを高めている。個人的な印象としては、「仕事に行く時は普通車指定席」「仕事を終えてくつろぎながら帰る時はグリーン車」と使い分けたいと思った。さすがに、グリーン車の分まで出張旅費を出してくれる会社は少ないかもしれないが、付加設備に価値を見出して自費でアップグレード(?)するのも「あり」だろう。特に、移動の時間を休養に使いたいのであれば。

これがグリーン車の座席。革張りに見えるが革張りではなく平織生地。とはいえ、なかなかゴージャスな印象があった

女性専用トイレにパウダールームも登場

なお、気になる(?)電源コンセントは現行N700系と同様、普通車の前後端と窓側全席、グリーン車の全席が備える。前回に書いたように、九州新幹線の新規開業区間はトンネルが比較的少ないので、それだけ移動体データ通信サービスを利用しやすいだろう。筆者も実際に走行中の試乗列車の中から通信してみたが、まったく問題はなかった。ちなみに、博多-新鳥栖間に限り、トンネル内でも携帯電話を利用できるようになるそうだ。

指定席・自由席を問わず、車端の席に大きめのテーブルと電源コンセントがあるのは従来のN700系と同様。暖かみのあるウッディ感覚の内装はJR九州のお家芸だ

面白いところでは、5号車には女性専用トイレ、それと洗面台を1つ潰して設置したパウダールームがある。後者は椅子がないので立って利用することになるが、それでもあれば助かるという人はいるだろう。

5号車にはパウダールームを設置している

「レールスター」にあって「さくら」「みずほ」にないもの

ただし、「ひかりレールスター」にあった接客設備がすべて「さくら」「みずほ」に引き継がれているわけではない点には注意が必要だ。

まず、「レールスター」の4号車は車内放送や車販の呼びかけを省いた「サイレンスカー」だったが、この設定は「さくら」「みずほ」にはない。なお、「レールスター」も2011年3月改正から「サイレンスカー」が廃止されるので、結果的には同じことになるのだが。

また、「レールスター」の8号車には普通車指定席の4人個室があり、向かい合わせに固定した座席の間に電源コンセント付きのテーブルを設けている。これも「さくら」「みずほ」には存在しない。4人部屋だけに、半端な人数だと利用しにくい傾向があったのは確かだが、ツボにはまれば便利な設備。これがなくなってしまうのは、個人的には惜しい。